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俺じゃなく取り憑いたギャル霊が異世界で無双する件 〜俺はただの調律師ですが、何か?~  作者: うみの はるまき


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11/17

11 夏の精霊のベールをみんな欲しがりますが、何か?

静まり返る中央闘技場。

リングの中央にぽっかりと空いた、底も見えない大穴。

そして地下通路の壁の奥深くに、

メリメリとめり込んで白目を剥いている手下ども。


あまりの凄惨かつ意味不明な瞬殺劇に、

大会の審判団や運営陣は完全に恐慌状態に陥っていた。


「こ、これは明らかに何者かの介入、

 およびバグザード選手側の裏工作の疑いがある!

 大会は、決勝戦を一旦中止、延期とする――っ!!」


実況の悲鳴のようなアナウンスが響く中、

すでに観客席から地下通路へと急行していた勇者エルザは、

リブラの衛兵たちを率いて手下どもの捕縛と、

人質だった街の少女の保護をテキパキと進めていた。


状況をすべて片付け、

エルザはリングの中央に空いた大穴の前で足を止める。


「バグザード本人は……えらく深くめり込んだのだな。

 カゲロウ殿の様子がおかしかったことから、

 このようなことだろうとはすぐに察しがついたが……

 しかし、一体何の力でこうなったのだ……?」


もはや姿も見えない大穴の底を覗き込みながら、

エルザは「ううむ」と首をひねる。


一方、その頃――。


ニノはコハルを連れてリブラ領主の館の

一室へと乗り込もうとしていた。


「あそこっしょ!

 ニノ、ちょー悪趣味なドア☆」


コハルが指さした先――

明らかにそのドアだけ周囲の壁から浮き浮きで、装飾が異常だった。

ドア一面にこれでもかと様々な宝石が散りばめられ、

成金根性をそのまま形にしたような、見るに耐えない輝きを放っている。


「……悪いことしてなきゃ、

 こんなドア作れないよな。

 よしっ!入るぞ!」


ニノが扉を蹴り開けると、

中には、夏の精霊のベールを献上した「西の商人」と、

彼を最上級の礼で迎えていたリブラの領主の姿があった。


「な、何奴だお前たちは! 領主様の御前だぞ!」

慌てて商人が叫ぶ。


「すまねえな、領主様。だが、

 そこにいる商人の正体はとうに割れてるんだわ。

 ……お前、ゲートランド王宮の間者だな?

 領主様も、最初からグラッドの回し者だと

 知ってて匿ってたわけだ」


図星を突かれ、商人と領主の顔が同時に引きつる。


「っ……!? な、なんのことだ?」

と領主。


「ワタシ、コノ国のコトバ?ワカリマセン」

と商人。


コハルがいつもの軽いノリで、

ニコニコと笑いながらプレッシャーをかけた。


「はい、動かないでー☆ ウチ、

 怒るとマジでドッカーンってしちゃうよ?☆」


男たちはその圧倒的な威圧感に縮み上がり、

一歩も動けなくなる。ニノはデスクの椅子を引き、

疲れ切った社畜特有の死んだような目で密偵の男を淡々と見据えた。


「おい、グラッドの目的は何だ。

 なんでこんな偽物臭いベールで俺たちをここに

 誘導した?黙秘しても無駄だぞ。」


「まったく知らん」

「ワタシ、コノ国のコトバ?ワカリマセン」


揃って同じセリフを口に並べる二人であったが、

ニノはフッと冷たい笑みを浮かべた。


「『星脈調律師』って知っているよな?」


できる限り感情を一切挟まず、わざと冷酷に話すニノ。

その「詰め慣れている」エンジニア特有の威圧感に

気圧されたうえに、「星脈調律師」という世界の根幹を

書き換える超希少クラスの名を出されたのだ。


「はいはい、全部しゃべりますよ」


 観念した様子で、西の商人・・・

 いや、グラッドの間者が口を割り始めた。


「どうせ、星脈調律でバレるんだ」


「(お? 星脈調律師ってダメもとで言ってみたが、

 そんなこともできるんだ? こりゃ、ナイスな情報だな)」


「グラッド様は最初から、

 冬の軍勢をリブラに誘い出す計画だったのだ。

 君たちを……敵を足止めして消滅させるための

 『防衛の盾』にするために、

 「夏の精霊のベール」を餌にしてここに先回りさせたんだよ」


「チッ……あのアゴヒゲ、全部計算ずくで

 俺たちをここの防衛戦を丸投げしやがったな……!」


ニノはグラッドの姑息な「仕様書」に激しい舌打ちを送りながら、

男の言葉から瞬時に状況の裏付けを繋ぎ合わせていた。


グラッドは先日、ゲートランドで起きたクーデターの際、

冬の精霊に魂を売った売国奴たちを一人残らず『国外追放』に

するという冷酷な大粛清を行った。


だが、それは冬の精霊――凍てつく絶対零度そのものである神の

領域を、真っ向から否定したに等しい。


そのような反抗的な行動には必ず報復が待っている。

大陸の北半分を永久凍土に変えてしまえるほどの魔力を持った、

冬の軍勢の南下は最初から確定していたのだ。


地理的に見れば、

王都ゲートランドから北に三日進んだ場所に

この交易都市リブラがあり、そこからさらに

北にわずか十キロ進んだ場所に、

冬の精霊軍の「進軍拠点」がある。


元々はゲートランド軍も監視だけして放っておく程度の

小規模な拠点に過ぎなかったが、グラッドの大粛清によって

「報復」のトリガーが引かれた今、極北の本拠地から南下してきた

数千の本隊がその拠点へと一気に流れ込み、瞬く間にリブラを

飲み込む絶望の牙城へと膨れ上がっていたのだ。


冬の軍勢の最終目標は王都の壊滅。

だが、軍を南下させるルートの途中に、

自分たちの氷の魔力を打ち消す天敵『夏の精霊のベール』を

有するリブラがあるのは邪魔でしかない。


しかし、逆に考えると好都合。

グラッドの手に渡ると非常に厄介なモノだが、

冬の精霊軍が先に奪取すれば、これ以上の先制はない。


だから奴らは、まずリブラを襲撃してベールを

強奪・破壊し、障害をすべてなくしてから

一気に王都へ南下する計画だったのだ。


グラッドはその

「敵はベールを奪うために必ずリブラを通る」という

地理的・戦略的弱点を完璧に逆手に取った。


本物かどうかも怪しいベールをリブラの大会の

賞品として演出し、エルザたちを配置したのだ。

冬の精霊軍の「報復の本隊」を、王都ではなく、

このリブラで迎え撃たせて磨り潰すために。


すべてを理解したニノが、そのハメ技のような戦略に

奥歯を噛み締めた、まさにその瞬間だった。


「キャーーー!!!!」

「冬の精霊軍が押し寄せてきたぞ!?」


領主の館の窓ガラスを激しく震わせるほどの、

凄まじい地鳴りと住人たちの絶叫がリブラの街に響き渡った。


冬の精霊軍・本隊の強襲。


ニノとコハルが館のバルコニーから北の地平線を見下ろした瞬間――

地吹雪を纏い、大地を瞬時に凍らせながら進軍してくる、

数千もの氷の魔獣や雪男の超巨大な大群と

それの指揮を執る、悪魔兵が視界を埋め尽くした。


画面ゲームの向こうのデータではない。

本物の「戦争」の圧倒的な規模感と、

肌を刺すような本物の死の気配。


(マ、マジかよ。画面の向こうのゲームじゃねえんだ……。

 本当にこの数を相手に、俺たちの魔力は持つのか?

 クソ、異世界に来てたった10日そこらの元社畜に、

 こんなデスマーチの現場をワンオペで回せるわけねえだろ……っ!)


ニノの背中に冷たい汗が流れる。

いくらある程度の能力を使えるようになったとはいえ、

戦闘に関しては、圧倒的に経験値がない。

初めて直面する本物の大軍勢を前に、

ニノはリアルな恐怖と焦燥に呑まれそうになっていた。


「…コハル、今から戦争だ…」


「……え、待って? 嘘でしょ……?」


「コハル……?」


――俺の隣で、

一緒になって怯えるかと思われたコハルが、

全く違う理由で顔を真っ赤にしてプルプルと震え出した。


「えーーーっ!!!! 今日のこの後のスケジュールって、

 リブラのかわいい服見に行くスケジュールじゃん!?

 『今から戦争』?ってなにっ!?なにっ!?なにっ!!??

 ウチ、めっちゃ楽しみにしてたのに!!

 なに勝手に予定入れてくれてんの!?

 マジありえないんだけどっ!!!!(怒)」


コハル、まさかの大激怒。

冬の精霊軍勢の恐怖など1ミリも関係なく、

「楽しみにしていたショッピングの

 予定をキャンセルさせらされた」という、

ギャルとして絶対に許せない怒りが彼女の魔力を

上限突破カンストさせた。


「はいはい、まずは全滅っと」

明らかにコハルの雰囲気が変わる。

コハルのこんな目つき初めて見る。

睨んでいるのか、哀れんでいるのか・・・

とにかく、ニノですら恐怖の圧で体を動かすことがきない。

領主と間者は、すでに気絶していた。

「・・・99%は死ね。1%は詫びろ」


コハルは腰を深く落とすと、

両手を大きく脇へと引き絞り、

手のひらを前方へ向けて“構え”を取る。


ニノからバイパスされた大地の星脈エネルギーが、

凄まじい密度で充填され始めた。


――キィィィィィィィィィィン!!


リブラの街の空気が、

一瞬でガタガタと悲鳴を上げて震え出した。


「っ!! コ、コハル!!! コハルさん!?

 もうそれぐらいで……っ!」


隣にいたニノの顔が恐怖で更に引きつる。

引き絞られたコハルの両手の間に形成されたそれは、

既に直径70メートルか80メートルはあろうかという、

直視することすら不可能なほど白く狂い輝く熱量の球体へと

膨れ上がっていた。


リブラの街の遥か上空まで達し、まるで地上にもう一つの

太陽が出現したかのように視界のすべてを真っ白に埋め尽くす

その魔力は、もはや一国の王宮どころか、

国そのものを消滅させられるレベルに感じる。


「このカキ氷どもーーーーッ!!!」

 シロップを食らわすからねーー!!☆」


コハルが激昂と共に、その両手を勢いよく前方へ突き出す。

その瞬間、彼女を中心に暴走した天文学的な熱魔力が一気に収束し――


ドォォォォォォォォォォンッ!!!!!


北から進軍してくる冬の精霊軍に向けて、

直径100メートルは確実にあると思われる、

文字通り空を穿ち、空間の法則ごと蒸発させるレベルの

超巨大な「波動砲」が一直線に撃ち放たれた。


ズドバババババババガァァァァンッ!!!!!!





――その頃、数キロ先から進軍する冬の精霊軍の前線では。



「冬の精霊様と我々『悪魔兵』に牙を剥く愚かさ、

 その身で知るがいい。グラッドの小賢しい誘導など、

 すべては我らの計算通りよ。まずはこのリブラを蹂躙し、

 『夏の精霊のベール』を強奪する。

 障害をすべて絶滅させたのち、

 そのまま王都を血の海へ沈めてくれるわ」


氷の魔獣の背に乗った冬の精霊軍の指揮官・ドルード少将は、

自らの完璧な勝利を確信して高笑いを上げていた。

隣に控える一般悪魔兵も、絶対的な勝利の確信に

傲慢な笑みを浮かべる。


「さすが少将殿! 実に合理的な進軍ルートであります!

 人間の浅知恵など、我らの氷の軍勢の前には――」


一般悪魔兵が言いかけた、その時だった。


――キィィィィィィィィィィン!!


突如、地平線の彼方、リブラの街の方角から

世界の法則がバグったような甲高い駆動音が響いてきた。


「……ん? 何だ、あの音は。

 リブラの防衛魔導器か?」


ドルード少将が怪訝そうに目を細めた瞬間、

リブラの領主の館の方から、

凄まじい速度で膨れ上がる『何か』が見えた。

直視することすら不可能なほど白く輝く、

直径数十メートルを超える狂った熱量の球体。


「……何だ、あれは」


ドルード少将が呆然と呟いた直後、

大気を激しく震わせて、地平線の彼方から少女の怒号が響き渡った。


『――このクソカキ氷どもーーーーッ!!!☆』


パァァァンッ!!!!!


乾いた破裂音が響いたかと思えば、

その白く輝く球体が膨脹しながら突き進んできた。

いや『突き進む』という生易しいものではない。

直径100メートルは確実にある光の濁流(波動砲)が、

文字通り空と大地を穿ちながら、

空間ごとすべてを蒸発させて迫ってくるのだ。


「…少将殿、あれ、

 あかんヤツっぽくないですか?」


あまりの次元の違う光景を前に、

脳の処理が完全に追いつかなくなった一般悪魔兵が、

素の顔で後ろの指揮官を振り返る。


「うむ…………って、あ。」


迫り来る直径100メートルの絶対的な絶望の光。

少将が己の死を理解した瞬間、

彼らの視界は文字通り真っ白に染まった。


「――ぎゃー!!!!」


ドォォォォォォォォォォンッ!!!!!


叫び声すら一瞬で掻き消され、

ドルード少将も、褒め称えていた一般悪魔兵も、

背後の数千の氷の軍勢も、

恐怖や痛みを実感する暇すら与えられず、

分子レベルで完全にこの世から消滅された。


「はぁ……はぁ……。

マジむかつく。次はないからねっ!☆」


ふう、と可愛く息を吐きながら、

何事もなかったかのようにパタパタと手で顔を仰ぐコハル。

当の本人は「ちょっとゴミ箱をひっくり返した」くらいの

軽いテンションだが、彼女が睨み据えていたはずの北の地平線は、

今や更地を通り越して『完全な虚無』と化している。


(……確かに、次はないだろうなぁ。

 物理的に、この星が持たねえよ)


ニノは心の中で全力のツッコミを入れながら、

ただただ呆然とコハルを見つめることしかできなかった――。

直径100mってどうよ!?って思いますよね。

やっぱ。

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