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10 いっぺん死んでみる?と聞かれてますが、何か?

「やったぁ!カゲロウ殿!!

 また勝ちました♪」


『交易都市リブラ』の中央闘技場。

観客席から勇者エルザは身を乗り出し、大歓声を上げていた。


大武闘大会のリングに上がったカゲロウは、

普段の漆黒の忍者装束をバチッと纏い、

プロの忍者として圧倒的な実戦スキルを見せつけていたのだ。


初戦の相手は、

リブラのギルドでも鳴らした大剣使い、紅蓮のザコフ。


「おいおい、どこの馬の骨かと思えば

 忍者気取りの不審者じゃねえか!

 俺の魔剣『紅蓮の大太刀』で一瞬で

 炭化させてやるぜ!」


ザコフが雄叫びを上げ、刀身に激しい業火を纏わせる。

一瞬でリングの空気が熱気で歪んだ。

対するカゲロウは、細く目を細めて相手の出方を

冷静にプロファイリング(解析)する。


(ふむ……相手は火属性のコーティング魔法。

 ならば、ここは水の術系で一気に決めたいでござるな。

 火の勢いをシステムごと冷却するでござる)


「死ねぇぇ!!」


ザコフが炎の斬撃を振り下ろした瞬間、

カゲロウの姿が陽炎のようにブレた。


「忍法・水鏡みずかがみ!」


大太刀が空を切り、リングの床に激しい炎が弾ける。

だが、その背後にはすでに水流の魔力を両拳に凝縮させた

カゲロウが音もなく回り込んでいた。


「シッ!!」


ドガァァァン!!


火の属性を完全に打ち消す、強烈な水流を帯びた裏拳が

ザコフの背中に直撃。ザコフは自慢の魔剣を放り出し、

白目を剥いてリング外へと叩きつけられていった。


「勝者、カゲロウ――っ!!」


実況の声が響く。

カゲロウは観客席で応援しているエルザへ向けて、

装束の隙間から細められた目元をキラーンと輝かせ、

力強く親指を立ててみせた。


「エルザ殿! 見ていてくだされ、拙者は必ず

 夏の精霊様のベールを勝ち取ってみせるでござる!」


その確かな実力に、観客の目が変わっていく。


カゲロウの快進撃は止まらず、

大会は瞬く間に準決勝を迎えた。


次の対戦相手は、リブラの裏社会を牛耳るという

卑劣な巨漢闘士バグザード。


カゲロウが精神統一を終え、

次の試合のために薄暗い闘技場内の地下通路を歩いていた、

その時だった。

巨躯の影が、行く手を塞ぐように待ち伏せていた。

バグザードだ。


「おい、そこの忍者。

 お前、ゲートランドを救った『勇者様ご一行』の

 メンバーなんだってな、グフフ」


「……何の御用でござるか?

 拙者は次の試合に向けて忙しいのでござるが」


「まあ、そう急がなくても、

 これを見てからでもいいだろうよ、グフフ」


カゲロウが警戒して身構える。

バグザードは下品な笑みを浮かべ、手下に合図を送った。

手下は合図通り、通路の壁際に置かれていた不気味な

木製の棺桶の蓋をガサリと開けた。


「正義の勇者様は、こういうモノには弱いってか?

 あん? グフフフフフッ!!」


「なにっ……!!??」


そこには――縄でガチガチに縛られ、

口を黒い布で禍々しく覆われて涙を流している、

見ず知らずの街の少女の姿があった。


そしてその棺桶を、ギラつく刃物をかざした

バグザードの手下たちが、

逃げ道を塞ぐように不気味に取り囲んでいる。


「人質を助けて欲しければ、

 次の試合、ワザと俺に負けな!」


「おのれ、卑劣な……! そんな汚い真似、

 すぐに審判や観客にバレるでござるぞ!」


カゲロウが怒りに声を震わせるが、

バグザードは全く動じず、

むしろ楽しそうに笑い声を上げた。


「グフフ!!

 いかにも『弱みを握られてますっ!』なんて、

 周囲にバレたって全然かまわねぇんだよ!むしろ都合がいい!

 お前は俺の攻撃を一切避けずに、ボロボロになれ!!

 それを見た次の対戦者も恐怖でビビるくらいの惨状を頼むぜ?

 グフフフッ!!

 では、お互いベストを尽くそうぜ、てかっ?グフフフフフ!!」


バグザードはポンポンと、

硬直するカゲロウの肩をなれなれしく叩き、

そのままリングの方向へと立ち去っていった。


カゲロウは、棺桶の中で震える少女の姿を見つめ、

静かに拳を握りしめる。


(……夏の精霊様のベール。

 拙者が何としても手に入れねばならぬ秘宝。

 ……しかし、しかしでござる。

 ……目の前の命を見捨てて進むなど、

 拙者の忍道には無いでござる)


カゲロウは覚悟を決め、薄暗い通路から、

大歓声の響く光に満ちたリングへと

足を踏み出した。


カーン!と試合開始の鐘が鳴り、

二人がリング中央で対峙した。


「オラァッ!!」

 バグザードの宣言通りの容赦ない鉄拳が、

 無防備なカゲロウの顔面に直撃する。


ズドォォン!!


「カゲロウ殿!?

 なぜ避けないのですか!?」


観客席からエルザが悲鳴を上げる。

カゲロウは、バグザードが次の対戦者を恐怖で

戦慄させるための『凄惨な見せしめ』の生贄となり、

装束を血で染めながら、何度も何度も一方的に殴られ、

リングアウト寸前まで吹き飛ばされていった。


意識が遠のき、視界が赤く染まっていく。

床に倒れ伏しながら、カゲロウは静かに胸の中で呟いた。


(これで……これでよい。

 な、夏の精霊様のベールがなくても、

 せ、拙者には掛け替えのない仲間がいる。

 きっと仲間が夏の精霊様を救ってくれる

 ……でござる………)


ベールを諦めるのは痛恨の極み。

しかし、カゲロウの心に後悔は微塵もなかった。

夏の精霊様への愛のために、

罪のない少女の命を見捨てるなど、

『常夏衆』の忍道が許さない。


ボロボロになりながらも、

自分は一人の少女の未来を守れたのだと、

カゲロウはどこか誇らしい気持ちのまま目を閉じようとした。


しかし――


そのカゲロウの耳に、

信じられないゲスな言葉が響く。


「グフフッ! こいつ本物のバカかっ!?

 おい!野郎ども!!次の対戦者にも人質作戦でいくぜぇ!」


「っ!!!!」


カゲロウの目が見開かれる。

こいつは最初から、少女を解放する気などなかったのだ。

きっとバグザードが優勝したとしても、少女を解放などせず、

奴隷市場にでも売り出すつもりだったのだろう。


薄々感じていた不安が、最悪の形で現実となった。

ゲスどものわずかな「良心」を信じて無抵抗を選んだ結果がこれでは、

仲間に会わせる顔がない。己の甘さと、底知れない激痛のような怒りが、

カゲロウの胸中をグチャグチャにかき乱した。

悔しい…悔しい…


カゲロウはなんとか身体を動かそうとするが、

ダメージで体が追いつかない。




だが、その瞬間だった。




「グエーーーーーーーッ!!??」


突如として、バグザードの巨体が、

まるで巨大な何かに蹴り上げられたかのように宙に舞った。


彼にとって、今までに経験した中で『最強』の衝撃だった。

バグザードは一瞬で気絶し、白目を剥いた。


そのまま――。


ガスーーーーーーンッ!!!!!


凄まじい大爆音と共に、バグザードは闘技場の

石畳リングへと真っ逆さまに転落し、


メリメリメリ!!!!


まるで天から不可視の巨星でも

叩きつけられたかのように石畳にめり込んでいく。

その巨体は床の奥深くへと沈み続け、

最後にはめり込みすぎて姿も見えなくなった。


観客も何が起こったのかわからず茫然としている。


それだけではない。闘技場奥の地下通路からも凄まじい

破壊音が響き、少女を取り囲んでいた手下どもが、

不気味な棺桶ごとまとめて壁の奥深くにメリメリとめり込んで

気絶していた。

その凄まじい衝撃から見えない壁で守られるように、

人質だった少女だけは無傷のまま床の上へと転がり出て、

呆然と目を丸くしている。


あまりの瞬殺劇に、一部の気絶を免れた手下が

壁にめり込み恐怖にガタガタと震えながら血反吐を吐く。

「……な、なんだ、今の痛烈な衝撃……は……?」


何が起きたのか分からず、

闘技場全体が水を打ったように静まり返る中。

カゲロウの脳内回線に、あの冷徹な声が、

直接、静かに響き渡った。





『おい、クソ全裸。

 そんなことじゃ、お姉様は守れないわよ』





カゲロウは、不敵にニヤリと笑ってみせた。


「じ、地獄少女、いえ、ルナ殿。ふっ・・・やり過ぎでござる」


「地獄少女」って単語、勝手に使っていいんですか?

今更ですが。

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