第165話 良い子は真似しないでね
外に出ると、さらに冷え込んでいた。
私たちはしばらく前大輝に教えてもらった公園へ。
ここは大輝がまだダインだった時、英雄ゼノンと出会った場所。
そんな思い出の場所で、大輝の妙な訓練を見せられた。
一つきになったことがある。口に入れて胃に入った鎖。
それはどうやって消しているのか。
彼の胃酸はどこの誰よりも強いんだと思う。
それでも、異常だった。大輝は悪食の中の悪食かもしれない。
「ということがあったんです」
「ほんと馬鹿馬鹿しいわね。私だったら止めてたわよ」
「わたしもです!」
「あたしも!」
女性陣はみんな理解してくれた。だけど、レヴェルさんと零は違うらしい。
レヴェルさんは別として、零が特殊だった。
彼が言うには、その訓練は死を望んでいるのと一緒。
それはたしかにそうなんだけど、大輝は異常値が高いとの見解。
さらには、その行動原理がどこにあるのかで変わってくるらしい。
大輝の場合は特異さからの判断は不可能。そして、普通の人間とは違う構造なのではという推測。
零は理系体質兼合理的体質なので、ものすごく理解しづらい。
それでも、言わんとしていることはわかった。
「ダインさんは昔からそうだったんですか?」
「え? うーん……。どうだったかな? レヴェルさんは?」
「ダインは昔から追い込むのが苦手だった。しかし、我のおかげもあるのだろう。勤勉はダメだが、運動には興味を持ったららしい」
「なんか、意外……」
大輝が追い込み苦手だったとは、到底考えられない。
彼は自分を追い込むことに快感を持っている。だから違和感がすごい。
ステラが少しだけ空を見上げた。少しだけ曇ってきている。
これから雨が降るかもしれない。早めに帰った方がいい。
「ルアンナさんは、宿泊先は?」
「決めてないわ」
「そうですか。なら私たちが入っている宿屋を紹介しますよ」
「遠慮するって言ったら?」
ルアンナはそう言ったのちに『紹介お願いできるかしら』と質問してくる。
私は彼女を宿屋に連れて行った。そこでは、大輝がまた大人数を持ち上げている。
というよりも、前回より人数が増えていた。
大体五十人ほどだろうか。それ以上いるかもしれない。
その状態で軽々と腕立て伏せをしている絵面はヤバイ気がした。
「大輝。腕の骨折らないようにね」
「問題ない。俺の骨は鉄柱より硬いからな!」
「そういう問題じゃない!」
大輝が楽しんでいるなら問題ない。だけど、彼に限界はあるのか不安になる。
むしろ、彼の限界が知りたい。知った方がいい気がする。
もしこれで怪我をされたら困るから。
多分大丈夫なんだろうけど、リハビリ明けから張り切り過ぎだ。
そもそも、まだリハビリが終わって一ヵ月半。
実際、栄養失調に近い状態から短期間で這い上がれる活力がすごい。
「ダインさん。すごいですね……」
「まあね。本気だと多分……」
「軽く五百人はいけるな。そこでようやく重く感じるくらいだ」
「だそうです」
このバカは思考もバカだった。五百人乗せられるわけがない。
まあ、そのたびにメウスに頼んでバランサー付き座椅子を増築してもらうのだろうけど。
それより、腕の骨よりも背中の骨が心配になる。
一応硬化魔法はかけているんだろうけど……。
「付与してないが……」
「ですよね……」
この前メウスに頼んで彼が鍛錬中に魔法を使ってないことを確認したばかりだ。
つまりは、彼の骨は異常に硬い。まあ、本人が鉄柱より硬いというのなら。
するとここで、ミシリと鳴った。大輝の腕が少しがくつく。
「お、きたきた」
「なにが?」
「骨が折れる感覚だよ。この感じが好きなんだ」
どこぞのドエムですか。なんですか。
むしろ、ミシミシ言ってるならやめた方がいい。
それでも、やめないのが大輝。魔法を使っている様子はない。
今の状態で、上半身を持ち上げる。その勢いは尋常ではなかった。
延べ五十人。それを持ち上げた時に彼の腕が限界を超える。
骨が折れた。そう思って目を伏せた時。
「おっし。いい感じいい感じ!」
彼の腕は元に戻っていた。限界を超えると骨が進化するらしい。
いや、骨が進化ってありえないんだけど。
それをあり得るようにしてしまうのが、大輝だった。
「おーい。レヴェル! 鎖を用意してくれ!」
「うむ」
レヴェルさんが鎖を準備し始める。しかし、それはものすごく太いものだった。
首の太さはある。それを、大輝の口へと入れていく。
太さが太さだから、とてつもなく苦しそうだった。
長さはだいたい百メートルくらい。それを全部呑み込むと、レヴェルさんがテープを取り出す。
大輝の口と鼻をテープで覆い始めると、さすがに見ていられなくなった。
完全に呼吸困難。これこそ死の縁に立たされている状況。
それでも、大輝は腕立て伏せをやめない。
どうやって酸素を取り込んでいるのかわからない。
速度はどんどん落ちていく。その分運動がきつくなっていく。
大輝の表情はものすごく青ざめていた。白を通り越している。
「大輝……!」
「……」
口が塞がれているからか、話せないらしい。
加えて、重い鎖だからか動きが鈍い。それをレヴェルさんは楽しそうに見ていた。
「ダイン。あと百セット!」
レヴェルさんが監督をする。一回のセットは五十。百セットだから五千。
これは完全に死ぬ案件。なのに大輝はやめない。
酸素が回ってないからか、彼の苦し気な顔は限界を超えようとしていた。
かなりのローペースで、約五時間。背中に乗る人を変えては五十回。
「大輝。ギブアップなら……!」
「……!」
「ミカエラさん。ダインさんは問題ないらしいですよ」
ステラがそう言うと、大輝の動きが鋭くなった。
これは精神面を鍛える訓練なんだ。
大輝は前世でも今でも拷問を受け続けている。
それに耐えられる身体と精神を作る。
彼は、本当に異常人だった。
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