第164話 思い出のコーヒーチョコケーキ
パティスリーで話をしていると、話題は大輝のことになった。
どうも、ティアたちは大輝のことで少し疑問に思っていることがあるようで。
「大輝って不思議だと思わない?」
ティアの意見には賛成する人が多い。
彼女は今まで様子見をしていたらしく、私と大輝の関係性を探っていたのだとか。
たしかに、大輝は科学や医学では証明できないことが多い。
毒が効かない。物理も効かない。本人がどうしたいのかわからない。
大輝自身は、死を望んでいるのかもしれない。
だけど、それが叶わないという現状。
彼が何を求めているのか。探してみつかるだろうか。
「あのやつ。オレの銃撃を無効化してきた。異界から来たのにも関わらずだ」
「まあ、大輝はこの世界初めてじゃないみたいだからね」
「そこがおかしい」
零は少し不満げな表情を浮かべる。
彼の銃撃を受けた大輝は無傷。その答えは無詠唱で硬化魔法を発動させていたことだった。
初見でできる技じゃない。それを簡単にしてしまう。
そして、一番不自然なのは、彼は現代魔法ではなく古代魔法を使う点。
いくら前世が最強の殺し屋であっても、その記憶を引き継いでいる部分が限られるはず。
だけど、本人の魔法は確実に、正確に発動されていた。
「ダインの記憶が不完全なのはたしか。我が覚えていても彼が覚えていないことがある」
「レヴェルさんでもそう思うんですね」
ステラがメリグのパフェを食べながらそう言う。
中はカカオのように茶色く。カレーにも合う。
実は大輝からカレーの隠し味がメリグの実なのではと言われた。
彼の舌は健在らしい。隠し味を伏せてもすぐに当てられる。
そんな彼が好き。でも、無理はしてほしくない。
「ダインさん。また肉付きよくなったと思います。もしかしたら……」
ステラが入口の方を見る。そこには大輝が立ち尽くしていた。
もう少しこのメンバーで話していたかったのに、ここで見つかるとは……。
しかも、大輝は鼻をひくつかせて歩いてきた。
レヴェルさんのところで止まると、ギリスのケーキをガン見する。
「なあ、レヴェル。それ一ついいか?」
やはり、ギリスのケーキ目当てだったらしい。
レヴェルさんが、ダインはこの実が好きと言っていた。
それは本当なのかもしれない。そうじゃなければ、大輝は反応しないから。
大輝は席に座ると、ギリスのケーキを注文。しかもその数が三つだった。
さすがに食べすぎな気もするけど、まあ本人が好きだから仕方ない。
「大輝、そんなに食べられるの?」
「んー。ちょっと買い過ぎた」
「でしょうね。だけど、大輝ギリス好き?」
「まあな」
そこは曇らせるんだ。大輝はフォークで大きめに切って頬張る。
以降はものすごい勢いで食べていた。やっぱり好きの力ってすごい。
すると、大輝はまた店員を呼んだ。出てきたのは調理前のギリス。
普通に食べているので、そこまで苦くないのかもしれない。
大輝と相談して一つ食べてみる。
「何これ……」
「美味いだろ?」
「美味いとかじゃなくて。口の中がねばねばする……。高カカオチョコよりも苦い……」
そんな食べ物は食べ物じゃない。だけど、余裕で大輝は食べていた。
コーヒーは苦いマンデリン。それをブラックで飲む彼。
しかし、彼は飲むたびに『苦味が足りない』と言っていた。
苦いを求めるのはどうかと思ったけど……。
彼の終着点がこのギリスなら、全てに説明がつく。
「大輝は少々風変りね」
「まあな」
「褒めてないわよ」
「褒めなくて結構」
とにかく食べることに集中したいらしい。
大輝は山盛りのギリスをひたすら食べていた。
それも飲み物を一切飲まずに。
どれだけ食べたかはわからない。なのに満足いかないらしい。
「俺なら、このギリスの苦味に深み出せるんだけどな……」
「大輝。料理下手でしょ!」
「いや、この世界の植物には詳しいぞ?」
「そういう問題じゃないよ!」
大輝はギリスを持って厨房に入っていく。
料理長と話しをしてくるようで、なんかやばい気がした。
そして、戻ってきた時には、黒いホールケーキを持ってくる。
「できたぞ!」
「早かったね……」
「まあな。魔法でちゃちゃっとだ」
「あはは……」
大輝もメウス寄りの調理法なのかと、少しだけ呆れてしまう。
そして、問題なのは目の前のホールケーキ。
真っ黒だけど、なんかいい香りがする。
「大輝。これは?」
「ん? 苦味を最大限生かしたギリスのケーキだが……」
「いや。そうじゃなくて……」
「じゃ、今年のクリスマスケーキはこれってことで」
「『ちっがーーう!』」
大輝は本当に超絶空気読めない星人だ。
というか、この世界にはクリスマスが浸透していない。
このイベントは貴族だけのものとされているからだ。
彼が本当にやりたいことが全くわからないんだけど……。
「ま、食ってみろ。美味いぞ?」
「じゃ、じゃあ……」
私はホールケーキを切り分けて皿に移す。
他のみんなも同様に盛り付けた。
一斉に口へ運ぶ。だけど、苦味がそこまでしない。
「何これ。本当に美味しいですね」
「そうね」
「うまーい!」
ステラ、ルアンナ。ティアが真っ先に感想を言った。
なんだろう。このケーキに既視感がある。
そうだ。前世で大輝が作ってくれたコーヒーチョコケーキ。
ものすごく美味しかった思い出がある。
大輝の料理は少し奇抜だけど、それでも食べられるのが特徴。
彼が作りたかったコーヒーチョコケーキの完成形。
それがこのギリスのケーキだったのかもしれない。
「ダイン。見事」
「フン……」
「大輝、すごい!」
「ありがとな!」
ここからは七人で食べる。会計は全てレヴェルさんがしてくれた。
ものすごく楽しかった時間。それがあっという間に過ぎていく。
そして、大輝は再び走り込みに向かうのだった。
食事後すぐの運動は正直控えてほしいんだけど……。
運動バカって、こういうものなのかもしれない。
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