表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『百升ノ音(ひゃくしょうのおと)』  作者: こうた
第一章 印を押した夜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/15

第九話 止まらない配信

夕暮れの街。


神谷透と黒田蓮は無言のまま別れた。


「気を付けてください。」


蓮はそう言ったが、その足は自宅とは逆方向へ向いていた。


酒を買いに行く道だった。


透は止めようとした。


「蓮さん!」


しかし蓮は振り返らない。


まるで自分の意思ではないように、酒屋へ吸い寄せられていく。



---


透も家へ戻った。


玄関を開けた瞬間、強い酒の香りが鼻を突く。


「……なんだ、この匂い。」


リビングへ入る。


机の上には、日本酒が一本置かれていた。


見覚えのない銘柄。


ラベルは古びており、銘柄の代わりに墨文字で一言だけ書かれている。


献酒けんしゅ


「誰が置いた……?」


鍵は閉まっていた。


窓も開いていない。


誰かが入った形跡はない。


それなのに酒瓶だけが机の中央に置かれている。


そして、その下には黒い模様。


昨日よりも複雑になっていた。


線が増え、円が重なり、人の顔のようにも見える。


透はスマートフォンを取り出した。


葛城梨央――民俗学者の連絡先を開く。


ミオから紹介された研究者だ。


電話をかけようとした、その時。


スマートフォンの画面が勝手に切り替わる。


ライブ配信 開始


「違う!」


まだ配信するつもりはなかった。


停止ボタンを押す。


反応しない。


カメラは自動で起動し、透の顔を映し始める。


視聴者数。


3人。


5人。


30人。


500人。


5000人。


数字は異常な速度で増えていく。


コメント欄が流れ始めた。


> 「始まった!」




> 「今日は何杯飲める?」




> 「頑張れ!」




その中に混じる、同じ名前。


百升ノ音


> 「席が増えた。」





---


透はスマートフォンの電源を抜こうとした。


その瞬間、部屋中の照明が消えた。


真っ暗。


静寂。


数秒後。


パッ、と照明が戻る。


部屋の様子が変わっていた。


机の周りに、空の椅子が四脚並んでいる。


昨日までは一脚しかなかったはずだ。


「……誰が置いた?」


恐る恐る近づく。


椅子の座面は濡れている。


酒ではない。


水でもない。


甘く酸っぱい匂いがした。


その匂いを嗅いだ瞬間、頭の中へ映像が流れ込む。


暗い酒蔵。


泣き叫ぶ子ども。


「お父さん、帰りたい……。」


母親が子どもを抱き締める。


父親は必死に酒蔵の扉を叩く。


外から響く村人たちの声。


> 「百日耐えれば神がお救いくださる。」




> 「酒を飲め。」




> 「神へ返せ。」




映像はそこで途切れた。


透は床へ崩れ落ちる。


「これは……記憶?」


亡霊が見せたものなのか。


それとも、自分が幻覚を見ているだけなのか。



---


その時、テレビが勝手についた。


ニュース番組だった。


アナウンサーが深刻な表情で原稿を読んでいる。


「速報です。」


「人気動画配信者・白石レナさんの行方は現在も分かっていません。」


画面が切り替わる。


レナの部屋。


警察が捜索している映像。


だが、その映像の奥。


誰にも気付かれない位置に。


着物姿の少女が警察官を見つめて立っていた。


透は立ち上がり、テレビへ駆け寄る。


画面を指差す。


「そこだ!」


しかし、次の瞬間には少女の姿は消えていた。


ニュースは何事もなく続いている。


画面の下には新しい速報が流れた。


> 『100日限界チャレンジ参加者、現在約3万人。』




透の全身から血の気が引いた。


「三万人……。」


一つの模様が。


一つの動画が。


一つの乾杯が。


今、この瞬間も新たな「席」を作り続けているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ