第十話 最初の警告
午前一時。
神谷透は眠ることができなかった。
机の上の黒い模様は、昼間よりさらに濃くなっている。
光の加減ではない。
まるで、木の中へ染み込んでいた黒が少しずつ浮かび上がってきているようだった。
透はノートパソコンを開く。
「酒見村」
「百日」
「生贄」
検索欄へ何度も打ち込む。
しかし検索結果に出てくるのは、自分たちのチャレンジ動画ばかり。
明治時代の記録は一件も見つからない。
「消されてる……。」
その時、一通のメールが届いた。
件名も送信者名もない。
本文は短かった。
> 『検索しても無駄だ。』
その下には添付ファイルが一つ。
透はしばらく迷った末に開く。
そこに映っていたのは、黄ばんだ集合写真だった。
写真の裏には鉛筆でこう書かれている。
> 昭和二十七年 百日耐久会
透は目を見開く。
「昭和にも……?」
写真には十人ほどの若者が酒瓶を持って笑っている。
しかし、机の上にはあの黒い模様。
しかも写真の隅には、
「七十八日目」
という札が立て掛けられていた。
「百年以上前だけじゃない……。」
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さらに添付されていた資料には、手書きの一覧表があった。
年代挑戦者結果
明治38年生贄一家全員失踪
昭和27年百日耐久会10人失踪
平成11年酒豪サークル6人失踪
令和4年非公開調査中
透は画面を見つめたまま固まる。
「令和四年……?」
三年前にも誰かが挑戦していた。
しかしニュースにもネットにも、その事件は残っていない。
「全部、消されてるのか……?」
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突然、スマートフォンが鳴る。
佐伯ミオからだった。
「神谷さん!」
息を切らした声。
「見つけました!」
「何を?」
「昭和の生存者です!」
透は思わず立ち上がる。
「生き残った人がいるのか!」
「一人だけです。」
「どうして助かった?」
ミオは少し黙った。
「それが……。」
「その人は百日目の前日にチャレンジをやめています。」
透の鼓動が速くなる。
「じゃあ助かる方法がある!」
「でも。」
ミオの声が震えた。
「その人、もう三十年以上、お酒を一滴も飲めないそうです。」
「酒瓶を見るだけで発狂するって……。」
部屋の空気が一気に冷えた。
やめれば命は助かる。
だが、一生消えない恐怖が残る。
チャレンジのルールは本当だった。
その時だった。
コンコン。
玄関から音がした。
夜中の一時。
訪ねてくる時間ではない。
「……誰だ?」
透は息を殺して近づく。
ドアスコープを覗く。
誰もいない。
ほっとして鍵から手を離した、その瞬間。
足元に視線が落ちた。
ドアの下の隙間から、一枚の古い和紙がゆっくりと差し込まれてくる。
震える手で拾い上げる。
そこには筆文字で、たった一行だけ書かれていた。
> 「酒を調べるなら、酒蔵へ来い。」
紙の右下には、黒い模様が押されていた。
そして、その下には地図。
目的地は――
酒見村跡地。
第一章はここから、SNS上の怪異だけでなく、呪いの発端を探る現地調査へと進んでいく。明治時代の悲劇と現代のチャレンジが、少しずつ一本の線でつながり始める。




