表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『百升ノ音(ひゃくしょうのおと)』  作者: こうた
第一章 印を押した夜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/15

第七話 増える参加者

研究室の机に浮かび上がる黒い模様。


神谷透は写真を何度も拡大した。


木目の上を、まるで墨が染み出すように黒い線が伸びている。


「……誰かが描いたんじゃないのか?」


すぐにミオへ電話をかける。


呼び出し音が続く。


十秒。


二十秒。


三十秒。


ようやく繋がった。


「神谷さん……。」


ミオの声は震えていた。


「私、描いてません。」


「でも写真には……。」


「写真を撮るまでは何もありませんでした。」


一瞬、電話の向こうが静かになる。


そして、小さな声で続けた。


「今……机を見たら、もっと増えています。」


透は息をのむ。


「部屋から出ろ!」


「もう出ています。」


「でも……。」


「廊下の机にも同じ模様があります。」



---


その夜。


SNSでは異変が起きていた。


「#100日限界チャレンジ」が、国内トレンド一位になっていた。


動画は次々と投稿される。


美容系。


料理系。


ゲーム実況者。


会社員。


大学生。


高校卒業を迎えた若者。


酒好きだけではない。


「面白そうだから。」


ただ、それだけの理由で参加する人が増えていた。


透は配信を見続ける。


ある動画では、若い男性が笑顔で乾杯している。


「百日なんて余裕!」


次の動画では、女性配信者が友人と乾杯している。


「みんなもやろう!」


コメント欄は盛り上がっていた。


> 「参加しました!」




> 「今日が一日目です!」




> 「机の模様、描きました!」




透は思わずスマートフォンを握り締める。


「やめろ……。」


「それ以上広めるな。」


しかし、その声は誰にも届かない。



---


翌朝。


ニュース速報が流れた。


『人気動画企画「100日限界チャレンジ」が急拡大』


司会者は笑顔で紹介している。


「著名な配信者も多数参加し、若者を中心に話題となっています。」


画面にはチャレンジ動画が映る。


ぼかしは入っているが、黒い模様だけははっきり見えていた。


透は青ざめる。


「テレビで流すな……。」


その瞬間、テレビ画面が一瞬だけ乱れた。


ノイズ。


そして、ほんの一秒。


酒蔵の暗い通路が映った。


誰も気付かない。


司会者はそのまま笑顔で番組を続けている。



---


午後。


黒田蓮からメッセージが届いた。


酒専門チャンネルで人気の配信者だ。


> 「神谷さん、一度会えませんか?」




> 「この酒、何かおかしい。」




透はすぐに了承した。


待ち合わせは、蓮がよく利用している小さな居酒屋。


店に入ると、蓮は一本の日本酒を机に置いた。


「昨日、この酒を開けたんです。」


瓶は半分以上残っている。


「でも。」


蓮は小さく囁いた。


「毎朝見ると、減ってるんですよ。」


「飲んでないのに。」


透の視線が瓶へ向く。


その透明な酒の中に。


一瞬だけ。


小さな子どもの顔が、ゆっくりとこちらを見上げた。


透は反射的に瓶を取り落とした。


ガシャン。


酒が床へ広がる。


店中に日本酒の香りが漂う。


店主が慌てて駆け寄る。


「大丈夫ですか?」


透は震える声で聞いた。


「……今、この瓶の中に何か見えませんでしたか?」


店主は不思議そうに首をかしげた。


「何も。」


「酒がこぼれただけですよ。」


透は床を見る。


こぼれた酒が、床板の上でゆっくりと流れ、


あの黒い模様を描き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ