第七話 増える参加者
研究室の机に浮かび上がる黒い模様。
神谷透は写真を何度も拡大した。
木目の上を、まるで墨が染み出すように黒い線が伸びている。
「……誰かが描いたんじゃないのか?」
すぐにミオへ電話をかける。
呼び出し音が続く。
十秒。
二十秒。
三十秒。
ようやく繋がった。
「神谷さん……。」
ミオの声は震えていた。
「私、描いてません。」
「でも写真には……。」
「写真を撮るまでは何もありませんでした。」
一瞬、電話の向こうが静かになる。
そして、小さな声で続けた。
「今……机を見たら、もっと増えています。」
透は息をのむ。
「部屋から出ろ!」
「もう出ています。」
「でも……。」
「廊下の机にも同じ模様があります。」
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その夜。
SNSでは異変が起きていた。
「#100日限界チャレンジ」が、国内トレンド一位になっていた。
動画は次々と投稿される。
美容系。
料理系。
ゲーム実況者。
会社員。
大学生。
高校卒業を迎えた若者。
酒好きだけではない。
「面白そうだから。」
ただ、それだけの理由で参加する人が増えていた。
透は配信を見続ける。
ある動画では、若い男性が笑顔で乾杯している。
「百日なんて余裕!」
次の動画では、女性配信者が友人と乾杯している。
「みんなもやろう!」
コメント欄は盛り上がっていた。
> 「参加しました!」
> 「今日が一日目です!」
> 「机の模様、描きました!」
透は思わずスマートフォンを握り締める。
「やめろ……。」
「それ以上広めるな。」
しかし、その声は誰にも届かない。
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翌朝。
ニュース速報が流れた。
『人気動画企画「100日限界チャレンジ」が急拡大』
司会者は笑顔で紹介している。
「著名な配信者も多数参加し、若者を中心に話題となっています。」
画面にはチャレンジ動画が映る。
ぼかしは入っているが、黒い模様だけははっきり見えていた。
透は青ざめる。
「テレビで流すな……。」
その瞬間、テレビ画面が一瞬だけ乱れた。
ノイズ。
そして、ほんの一秒。
酒蔵の暗い通路が映った。
誰も気付かない。
司会者はそのまま笑顔で番組を続けている。
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午後。
黒田蓮からメッセージが届いた。
酒専門チャンネルで人気の配信者だ。
> 「神谷さん、一度会えませんか?」
> 「この酒、何かおかしい。」
透はすぐに了承した。
待ち合わせは、蓮がよく利用している小さな居酒屋。
店に入ると、蓮は一本の日本酒を机に置いた。
「昨日、この酒を開けたんです。」
瓶は半分以上残っている。
「でも。」
蓮は小さく囁いた。
「毎朝見ると、減ってるんですよ。」
「飲んでないのに。」
透の視線が瓶へ向く。
その透明な酒の中に。
一瞬だけ。
小さな子どもの顔が、ゆっくりとこちらを見上げた。
透は反射的に瓶を取り落とした。
ガシャン。
酒が床へ広がる。
店中に日本酒の香りが漂う。
店主が慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
透は震える声で聞いた。
「……今、この瓶の中に何か見えませんでしたか?」
店主は不思議そうに首をかしげた。
「何も。」
「酒がこぼれただけですよ。」
透は床を見る。
こぼれた酒が、床板の上でゆっくりと流れ、
あの黒い模様を描き始めていた。




