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『百升ノ音(ひゃくしょうのおと)』  作者: こうた
第二章 増殖する印

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第26話 十一日目の写真

写真を見た瞬間、黒田蓮は言葉を失った。


そこに写っているのは、間違いなく自分だった。


古い酒蔵。


黒い模様が描かれた机。


その前に座る蓮。


そして――


蓮の背後には、何十人もの亡霊が立っている。


写真の右下には、日付が印刷されていた。


十一日目。


「……明日じゃないか。」


蓮の声が震える。


透は写真を奪うように取り上げた。


「これ、いつ撮られた?」


「分からない。」


ミオが写真の裏を確認する。


何も書かれていない。


ただ、一箇所だけ黒い染みがある。


その染みは、あの呪いの模様と同じ形だった。



---


「写真の場所を調べましょう。」


ミオが言った。


「でも、ここは酒見村じゃない。」


写真の背景を拡大する。


古い木造建築。


壁に掛けられた酒樽。


そして奥にある小さな看板。


文字を読み取る。


「○○酒造」


「酒蔵ですね。」


蓮が言う。


ミオは首を振った。


「違います。」


「この建物……今は存在しません。」


「取り壊された?」


「昭和四十年代に廃業しています。」


透が尋ねる。


「場所は?」


ミオが地図を開いた。


「……大阪です。」



---


その日の午後。


三人は古い酒蔵跡へ向かった。


そこには現在、住宅が建っていた。


しかし、その一角だけ妙に空いている。


草が伸びた空き地。


ミオが古い資料と照合する。


「間違いない。」


「ここです。」


透は周囲を見渡した。


「何もないぞ。」


蓮が笑おうとする。


「だったら写真は偽物――」


その瞬間。


空き地の奥から、


カンッ。


酒杯を置く音がした。


三人が振り向く。


誰もいない。


しかし地面には、


古い木の板が一枚だけ落ちていた。


蓮が拾う。


板には黒い模様。


そして、その横に文字が刻まれていた。


> 十一日目の席




蓮の顔から笑みが消える。



---


夜。


三人はその場を離れた。


だが蓮の様子がおかしい。


「さっきから、何か聞こえないか?」


「何が?」


「……酒を注ぐ音。」


透には聞こえない。


ミオにも聞こえない。


蓮だけだった。


トクトクトク……。


どこかで酒を注いでいる。


蓮が耳を塞ぐ。


「ずっと聞こえる。」


「蓮。」


透が肩を掴む。


「大丈夫か?」


蓮は答えない。


その視線は、


透の後ろに向いていた。


「……透。」


「何だ?」


「お前の後ろ。」


透が振り返る。


誰もいない。


しかし蓮は青ざめている。


「違う。」


「今、一瞬だけ――」


蓮は言葉を失った。


「昔の服を着た女がいた。」



---


その夜。


蓮は一人で自宅へ戻った。


酒は飲みたくなかった。


しかし、チャレンジの時間が近づく。


机。


模様。


酒。


スマートフォン。


蓮は酒瓶を見つめる。


「……飲めばいいんだろ。」


蓋を開ける。


すると、


部屋の隅から声がした。


> 「違う。」




蓮が振り向く。


誰もいない。


> 「その酒じゃない。」




「……誰だ?」


> 「それは、あなたのための酒じゃない。」




蓮の手が止まる。


酒瓶のラベルを見る。


普通の日本酒。


だが、ラベルの文字がゆっくり変化した。


黒田蓮


その下に、


十一日目


さらにその下に――


奉納者


「……何だよ、これ。」



---


突然、スマートフォンが配信を開始した。


蓮は操作していない。


カメラには、


酒を持った自分が映っている。


そしてコメントが流れ始める。


> 「始まった!」




> 「今日も限界まで!」




> 「十一日目!」




> 「蓮、後ろ!」




蓮が画面を見る。


背後に誰かが立っている。


古い着物の女性。


濡れた髪。


顔は見えない。


蓮は振り返る。


誰もいない。


画面を見る。


まだいる。


女性が少しずつ近づいてくる。


そして――


カメラのすぐ前まで来た。


顔が見える。


女性ではなかった。


蓮自身だった。


もう一人の蓮。


その顔は泣いていた。


> 「飲むな。」




本物の蓮が震える。


「……じゃあ、どうすればいい?」


鏡の中の蓮が答える。


> 「俺を、先に殺せ。」





---


翌朝。


透のスマートフォンが鳴った。


着信。


蓮。


「もしもし?」


返事がない。


「蓮?」


微かな音だけが聞こえる。


カンッ。


酒杯の音。


そして蓮の声。


> 「透……。」




> 「写真の意味、分かった。」




「何だ?」


しばらく沈黙。


そして、


> 「あの写真は未来じゃない。」




透の背筋が凍る。


> 「過去なんだ。」




「……どういうことだ?」


> 「十一日目に消えた人間が、昔にもいた。」




> 「俺はその人と同じ場所に立ってる。」




電話の向こうで、


何かが倒れる音。


そして蓮の最後の言葉。


> 「透。俺の後ろにいる奴――お前の名前を呼んでる。」




通話が切れた。


同時に、透のスマートフォンへ一枚の画像が届いた。


今度の写真には、


蓮はいなかった。


そこに写っていたのは――


透自身。


そして写真の日付は、


十二日目。

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