第25話 見つけないで
九日目の夜。
神谷透は、朝倉カナから届いたメッセージを何度も読み返していた。
«「まだ私を見つけないで。」»
普通なら意味の分からない文章だった。
しかし、これまでの出来事を考えれば無視できない。
透は返信する。
«「どこにいる?」»
既読はつかない。
続けて送る。
«「助けに行く。」»
数秒後。
スマートフォンが震えた。
返信が来た。
«「それをすると、あなたの席が一つ増える。」»
透の指が止まる。
「席……?」
ミオへ転送する。
すぐに電話がかかってきた。
「返信しないでください。」
開口一番、ミオはそう言った。
「どうして?」
「今までの記録を見直しました。」
「失踪した人間には、共通点があります。」
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三人は再び集まった。
ミオがノートを広げる。
そこには、これまでの参加者の名前が並んでいた。
朝倉カナ。
白石レナ。
その他の失踪者。
そして、過去の挑戦者。
「失踪する前。」
ミオが説明する。
「ほぼ全員が、誰かから『助けて』というメッセージを受けています。」
蓮が驚く。
「じゃあ、それを助けに行ったら……。」
「その人の席が増える。」
透が呟く。
ミオは頷いた。
「つまり、呪いは単純に人を襲うだけじゃない。」
「人間同士に助けさせて、次の犠牲者を増やしている。」
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透は黙った。
それならカナを探せない。
しかし、
探さなければ彼女はどうなる?
「でも……。」
透が言う。
「放っておくのか?」
「それは……。」
ミオも答えられない。
蓮が口を開く。
「だったら、別の方法を探そう。」
「直接助けに行くんじゃなくて。」
「呪いそのものを調べる。」
透は頷いた。
それが今できる唯一のことだった。
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翌日。
三人は酒見村周辺の古い資料を調べた。
明治時代の酒造記録。
神社の奉納記録。
村の戸籍。
祭礼の記録。
その中から、一つの奇妙な共通点が見つかった。
酒を捧げる祭りの日には、必ず「席」が用意されていた。
神前に並べられた酒杯。
一つ。
二つ。
三つ。
そして最後に、
誰も座らない席。
ミオが資料を指差す。
「この空席です。」
「これが呪いの始まりだった可能性があります。」
透は眉をひそめる。
「空席?」
「はい。」
「神様の席?」
ミオは首を振る。
「違う。」
古文書の端に、小さく書かれていた。
«「帰らぬ者の席。」»
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その夜。
透の自宅。
机の前。
十日目のチャレンジ。
しかし、酒瓶を見るだけで吐き気がする。
以前より強くなっている。
蓋を開ける。
匂いが広がる。
透は目を閉じた。
そして聞こえた。
«「帰らぬ者の席。」»
声は一人ではなかった。
何十人。
何百人。
耳元ではなく、
部屋そのものから聞こえてくる。
透は酒杯を持つ。
「俺は……。」
「お前たちを忘れない。」
声が止まった。
初めてだった。
死者たちが静かになった。
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配信を開始する。
コメントが流れる。
«「今日も飲む?」»
«「神谷さん顔色悪い」»
«「無理するな」»
そして一つ。
百升ノ音
«「覚えているだけでは、救えない。」»
透は画面を見つめる。
「じゃあ、どうすればいい?」
コメントは止まった。
数秒後。
新しい文字が現れる。
«「席を空けろ。」»
「どういう意味だ?」
«「百日目に、百人分の席がある。」»
«「一つでも空けば、儀式は完成しない。」»
透の目が見開かれる。
初めて、
呪いを止める方法に繋がる情報が現れた。
しかし、その直後。
別のコメントが表示される。
投稿者名――
朝倉カナ
«「違う。」»
«「空席を作ると、もっと怖いものが来る。」»
そして最後に、
«「私が見た。」»
配信画面の奥。
誰もいないはずの部屋に、
一脚の古い椅子が現れた。
その椅子には、
黒い模様が描かれていた。
透は息を呑む。
そして椅子の上に、
一枚の写真が置かれていることに気付いた。
写真には――
まだチャレンジを始めていない人物が写っていた。
その人物の名前を見て、
透は凍りついた。
黒田蓮。
蓮はまだ、チャレンジを続けている。
しかし写真の日付は――
十一日目。
未来の日付だった。




