第十七話 六日目の配信
画面が暗転した。
神谷透は、しばらくスマートフォンを握ったまま動けなかった。
白石レナ。
失踪したはずの彼女が、動画の中で助けを求めている。
それなのに――
配信日は「六日目」。
まるで、何事もなかったように続いている。
「……生きてる。」
黒田蓮が呟く。
「いや……。」
佐伯ミオは首を振った。
「違います。」
「これは、生きている人間の配信じゃない。」
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透はもう一度、動画を再生する。
最初の数秒。
レナはいつもの笑顔だった。
机の前に座り、日本酒を置いている。
「こんばんは。」
「今日も100日チャレンジ六日目です。」
声は明るい。
しかし目だけがおかしい。
笑っているのに、助けを求めている。
「今日はちょっと変なことがあって……。」
レナがカメラを見る。
「昨日から、部屋に誰かいるんです。」
コメント欄が流れる。
> 「怖い話?」
> 「演出でしょ?」
> 「続きは?」
レナは首を振る。
「違う。」
「本当にいる。」
その瞬間。
画面の端に何かが映る。
濡れた着物。
白い手。
レナは気付いていない。
しかしコメント欄が一気に変わる。
> 「後ろ!」
> 「振り向いて!」
> 「誰かいる!」
レナが振り返る。
そこには誰もいない。
そして、彼女は安心したように笑った。
「ほらね。」
「誰も――」
その瞬間。
画面の奥から声がする。
「ここにいるよ。」
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透は動画を止めた。
「……。」
三人とも言葉が出なかった。
あまりにも自然だった。
編集ではない。
本当に、その場に何かがいた。
「レナさんは……。」
蓮が呟く。
「毎日、配信してるんですか?」
ミオはスマートフォンを確認する。
顔色が変わった。
「違います。」
「この動画……。」
「投稿時間がおかしい。」
「何日前ですか?」
透が聞く。
ミオは震える声で答える。
「未来です。」
「投稿時間……明日の夜になっています。」
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その瞬間。
酒蔵の少年が透を見る。
「だから言った。」
「時間が違う。」
透は少年を見る。
「どういうことだ?」
少年は悲しそうに答える。
「ここでは、百日が普通じゃない。」
「外の一日と……。」
「中の一日は違う。」
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ミオが古い帳面を開く。
「だから記録が……。」
「明治の人たちも、百日目の日付が合わなかった。」
帳面には奇妙な記録があった。
実際には三ヶ月しか経っていないのに、
本人たちは百日過ごしたと言っていた。
逆に、
一年以上経っているのに、
外では数日しか経っていなかった例もある。
「この場所は……。」
透が呟く。
「時間を食べる。」
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その時。
酒蔵の外から、大きな音がした。
ドンッ。
誰かが扉を叩いている。
一回。
二回。
三回。
村長の声が響く。
「帰る時間だ。」
「六日目が終わる。」
少年が怯える。
「早く逃げて。」
透は少年を見る。
「君たちは?」
少年は首を振った。
「僕たちは……ここから出られない。」
「でも。」
少年は透の手を見る。
黒い染み。
「あなたはまだ完全じゃない。」
「だから……。」
「まだ選べる。」
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扉が大きく揺れる。
ミオが叫ぶ。
「出口は!」
少年は奥を指差した。
「昔の逃げ道。」
「でも……。」
少年の顔が暗くなる。
「そこには、最初に逃げようとした人がいる。」
「誰?」
少年は答えた。
「僕のお父さん。」
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三人は暗い通路へ走る。
背後で酒蔵の扉が開く音。
そして村長の声。
> 「六日目終了。」
> 「次は、七日目。」
透たちは知らなかった。
この時点で、
SNS上では新たな異変が始まっていた。
100日チャレンジ参加者の動画。
そのすべてに――
同じ時間。
同じ場所。
同じ声。
「乾杯。」
という音が入り始めていた。




