表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『百升ノ音(ひゃくしょうのおと)』  作者: こうた
第一章 印を押した夜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/19

第十六話 帰りたい家族

障子がゆっくり開く。


ギィ……。


古い木が擦れる音。


その向こうに立っていたのは――


五人。


父親。


母親。


少女。


少年。


そして、まだ幼い子ども。


酒見村で生贄にされた一家。


透は息を呑んだ。


「……この人たちが。」


佐伯ミオも言葉を失う。


写真で見た姿。


記録に残された名前のない家族。


その本人たちが、今、目の前にいる。



---


しかし、何かがおかしい。


亡霊なのに。


彼らの表情には怒りよりも悲しみが強く残っていた。


父親が一歩前へ出る。


「……あなたたちは。」


声はかすれていた。


「私たちを助けに来たのか。」


透は答えに詰まる。


助けたい。


そう思った。


だが、自分たちもまた呪いの中にいる。


「分からない。」


透は正直に言った。


「でも、何が起きたのか知りたい。」


父親は少しだけ目を伏せた。


「知っても……何も変わらない。」


「私たちは、もう帰れない。」



---


突然、酒蔵の奥から村長の声が響いた。


「余計なことを吹き込むな。」


五人の亡霊が一斉に振り返る。


その瞬間、空気が変わった。


父親の表情が苦痛に歪む。


「……まだいるのか。」


村長の影が壁に映る。


姿は見えない。


しかし声だけが響く。


「お前たちは村を守るために選ばれた。」


「今も役目を果たせ。」


母親が初めて怒りを見せた。


「違う。」


「私たちは……守ったんじゃない。」


「奪われたんです。」


その言葉と同時に、酒蔵全体が揺れた。



---


村長の声が低くなる。


「ならば、次の者たちに受け継がせるだけだ。」


透は叫ぶ。


「ふざけるな!」


「何百年も人を巻き込んで、何が守りだ!」


すると村長の影が透を見る。


「お前も同じだ。」


「再生数のために飲んだ。」


「注目されるために印を押した。」


透は言葉を失う。


否定できなかった。


最初は怖かった。


でも。


動画の再生数。


失った評価。


過去の炎上。


それを取り戻したい気持ちがあった。


村長は続ける。


「この儀式は、人間の欲を利用する。」


「だから何度でも蘇る。」



---


その時。


少年の亡霊が透の前に立った。


「違う。」


少年は村長を見る。


「この人は……僕たちを知ろうとしてる。」


村長の影が揺れる。


「黙れ。」


瞬間。


少年の姿が苦しそうに歪む。


透が叫ぶ。


「やめろ!」


その声に反応して、机の模様が光る。


透の手の黒い染みが熱を持つ。


まるで呪いが怒っているようだった。



---


ミオが古い帳面を開く。


そして、ある記述を見つける。


「待って……。」


「ここ……書き足しがあります。」


ページの端。


後から書かれた文字。


> 生贄は、選ばれたのではない。




> 選ばされた。




> 本当の儀式の目的は――




その続きは破られていた。


しかし、最後の一行だけ残っている。


> 「村長自身が、最初の席だった。」




三人は顔を見合わせる。


「……どういう意味?」


その瞬間。


酒蔵の奥。


村長の影が初めて揺らいだ。


怒りではない。


恐怖だった。


少年が小さく呟く。


「知らなかったんだ……。」


「村長も……騙されてた。」



---


突然。


スマートフォンが鳴る。


現実世界からの通知。


チャレンジ参加者の新着動画。


タイトル。


> 『100日限界チャレンジ 六日目』




投稿者。


白石レナ。


透の顔から血の気が引く。


「……レナさんは失踪したはず。」


動画を開く。


暗い部屋。


机。


黒い模様。


そして画面の奥から、レナの声。


> 「助けて……。」




> 「でも……飲まなきゃ。」




動画の最後。


レナの背後に、亡霊の一家が立っていた。


その中央で少年がこちらを見つめる。


そして小さく呟く。


> 「次は、あなた。」




画面が暗転する。


表示された日数。


六日目。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ