第十六話 帰りたい家族
障子がゆっくり開く。
ギィ……。
古い木が擦れる音。
その向こうに立っていたのは――
五人。
父親。
母親。
少女。
少年。
そして、まだ幼い子ども。
酒見村で生贄にされた一家。
透は息を呑んだ。
「……この人たちが。」
佐伯ミオも言葉を失う。
写真で見た姿。
記録に残された名前のない家族。
その本人たちが、今、目の前にいる。
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しかし、何かがおかしい。
亡霊なのに。
彼らの表情には怒りよりも悲しみが強く残っていた。
父親が一歩前へ出る。
「……あなたたちは。」
声はかすれていた。
「私たちを助けに来たのか。」
透は答えに詰まる。
助けたい。
そう思った。
だが、自分たちもまた呪いの中にいる。
「分からない。」
透は正直に言った。
「でも、何が起きたのか知りたい。」
父親は少しだけ目を伏せた。
「知っても……何も変わらない。」
「私たちは、もう帰れない。」
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突然、酒蔵の奥から村長の声が響いた。
「余計なことを吹き込むな。」
五人の亡霊が一斉に振り返る。
その瞬間、空気が変わった。
父親の表情が苦痛に歪む。
「……まだいるのか。」
村長の影が壁に映る。
姿は見えない。
しかし声だけが響く。
「お前たちは村を守るために選ばれた。」
「今も役目を果たせ。」
母親が初めて怒りを見せた。
「違う。」
「私たちは……守ったんじゃない。」
「奪われたんです。」
その言葉と同時に、酒蔵全体が揺れた。
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村長の声が低くなる。
「ならば、次の者たちに受け継がせるだけだ。」
透は叫ぶ。
「ふざけるな!」
「何百年も人を巻き込んで、何が守りだ!」
すると村長の影が透を見る。
「お前も同じだ。」
「再生数のために飲んだ。」
「注目されるために印を押した。」
透は言葉を失う。
否定できなかった。
最初は怖かった。
でも。
動画の再生数。
失った評価。
過去の炎上。
それを取り戻したい気持ちがあった。
村長は続ける。
「この儀式は、人間の欲を利用する。」
「だから何度でも蘇る。」
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その時。
少年の亡霊が透の前に立った。
「違う。」
少年は村長を見る。
「この人は……僕たちを知ろうとしてる。」
村長の影が揺れる。
「黙れ。」
瞬間。
少年の姿が苦しそうに歪む。
透が叫ぶ。
「やめろ!」
その声に反応して、机の模様が光る。
透の手の黒い染みが熱を持つ。
まるで呪いが怒っているようだった。
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ミオが古い帳面を開く。
そして、ある記述を見つける。
「待って……。」
「ここ……書き足しがあります。」
ページの端。
後から書かれた文字。
> 生贄は、選ばれたのではない。
> 選ばされた。
> 本当の儀式の目的は――
その続きは破られていた。
しかし、最後の一行だけ残っている。
> 「村長自身が、最初の席だった。」
三人は顔を見合わせる。
「……どういう意味?」
その瞬間。
酒蔵の奥。
村長の影が初めて揺らいだ。
怒りではない。
恐怖だった。
少年が小さく呟く。
「知らなかったんだ……。」
「村長も……騙されてた。」
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突然。
スマートフォンが鳴る。
現実世界からの通知。
チャレンジ参加者の新着動画。
タイトル。
> 『100日限界チャレンジ 六日目』
投稿者。
白石レナ。
透の顔から血の気が引く。
「……レナさんは失踪したはず。」
動画を開く。
暗い部屋。
机。
黒い模様。
そして画面の奥から、レナの声。
> 「助けて……。」
> 「でも……飲まなきゃ。」
動画の最後。
レナの背後に、亡霊の一家が立っていた。
その中央で少年がこちらを見つめる。
そして小さく呟く。
> 「次は、あなた。」
画面が暗転する。
表示された日数。
六日目。




