表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『百升ノ音(ひゃくしょうのおと)』  作者: こうた
第一章 印を押した夜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/15

第十二話 酒蔵の子ども

「一緒に飲もう。」


暗闇の中から聞こえた声。


幼い少年の声だった。


神谷透は息を止める。


ライトの先にいるのは、小さな男の子。


古い着物。


裸足。


顔色は青白く、生きている人間には見えない。


その手には、ひび割れた酒杯が握られている。


「……君は誰だ?」


透の声は震えていた。


少年は首を傾げる。


「僕?」


少し考えるようにして答えた。


「僕は……待ってる人。」


「ずっと。」



---


佐伯ミオが一歩前へ出る。


「あなたは……酒見村の?」


少年はミオを見る。


そして、嬉しそうに笑った。


「知ってるんだ。」


「僕たちのこと。」


その瞬間。


地下の空気が変わった。


壁に刻まれていた数字が、次々と浮かび上がる。


一日目。


二日目。


三日目。


まるで、過去の時間が戻っていくようだった。



---


少年は酒杯を見る。


「お父さんが言ってた。」


「酒を飲めば、神様が助けてくれるって。」


透は胸が苦しくなった。


この子は信じていた。


本当に助かると思っていた。


しかし――


誰も助けには来なかった。


「君たちは……何をされたんだ?」


透が聞く。


少年はしばらく黙った。


そして、小さな声で言った。


「村の約束を破ったから。」


ミオが反応する。


「約束?」


少年は頷く。


「でも……僕たちは悪くなかった。」


その言葉だけが、酒蔵の中に響いた。



---


突然。


奥の酒樽から音がした。


ドン……。


ドン……。


中から誰かが叩いている。


蓮が後ずさる。


「中に……誰かいる。」


少年は悲しそうな顔をする。


「まだ帰れてない。」


「みんな……まだ閉じ込められてる。」


透は樽を見る。


表面には爪痕。


そして、黒い模様。


「この印は……。」


少年は透の机に浮かんだ模様を見た。


「席。」


「僕たちが座る場所。」


透の背筋が凍る。


「俺たちは……何になるんだ?」


少年は答えなかった。


代わりに、ゆっくり透の手を見る。


黒い染み。


模様に触れた時についたもの。


少年は呟いた。


「もう少しだね。」


「あと……九十日。」



---


その瞬間。


スマートフォンの通知音が鳴った。


圏外だったはずなのに。


画面には一つの通知。


> 『神谷透さんが酒見村跡地でライブ配信を開始しました』




「……え?」


透はスマートフォンを見る。


自分は配信ボタンを押していない。


しかし画面には、自分たちの姿が映っていた。


地下酒蔵。


三人。


そして――


少年。


コメント欄が高速で流れる。


> 「後ろの子ども誰?」




> 「演出すごい!」




> 「怖いけど面白い!」




> 「もっと見せて!」




透の顔が青ざめる。


「見られてる……。」


ミオが画面を見る。


コメントの中に、一つだけ違うものがあった。


投稿者名。


百升ノ音


> 「四人目の席が決まった。」





---


その瞬間。


少年の表情が変わった。


さっきまで悲しそうだった顔。


それが少しずつ歪んでいく。


「違う……。」


少年が呟く。


「僕じゃない。」


「僕たちじゃない。」


透が聞き返す。


「何が違う?」


少年は地下のさらに奥を見る。


震えながら言った。


「もっと怖い人がいる。」


「僕たちを閉じ込めた……」


「本当の人が。」



---


奥の暗闇。


誰もいないはずの場所から、


ゆっくり足音が近づく。


一歩。


また一歩。


少年は怯えた。


「村長が来る。」


そして。


暗闇の中から現れた影が、


静かに笑った。


> 「まだ儀式は終わっていない。」




> 「次の酒を。」




その手には、


村長の印が刻まれた古い徳利が握られていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ