第5話 偽物の通行証紙
宿帳庫の最下段には、湿気を避けるために古い証紙見本帳が入っている。
私は一枚ずつ照らし合わせ、偽の通行証紙を本物の横へ並べた。模様は似ている。けれど本物には極細の銀糸が入っていて、光にかざすと街道紋が浮く。偽物は、ただ白いだけだった。
「王都の紙商会が絡んでいるわね」
「証紙の紙そのものを抜いたのか」
ヨナスが肩越しに覗く。
「ええ。しかも銀松印の蝋を混ぜている。迎賓館とノイパスを同じルートで繋いでいる証拠です」
私は宿場の帳場へ戻り、発着台に新しい規則を書いた。
宿泊客は全員、宿帳と通行証紙を二重照合。夜間便は宿場門で必ず記録。薪券と飼葉券は帳場印と厩舎印の両方が揃わない限り引き換え不可。
「面倒だって文句が出るよ」
イルゼが眉をひそめる。
「正しい手順を面倒と言う人ほど、抜け道を知っています」
その日の夜、さっそく不機嫌な商人がひとり現れた。青印の証紙を出し、「王都特別便だ」と威張る。けれど宿帳へ名を書かせると、筆跡が前週の閉鎖済み宿場の記録と一致した。
私は静かに言う。
「その便は一週間前に峠越えしたことになっています。もう一度、正しい名を書いてください」
商人の顔色が変わった。逃げようとしたところを門番が押さえる。
荷には乾燥肉と書かれていたが、中身は王都向けの高級葡萄酒だった。
抜け道は、もう一つふさがった。
そして私は確信する。
宿場は見捨てられたのではなく、意図的に弱らされていたのだ。




