第4話 凍った馬車溜まりと空の食糧庫
翌朝、私は一番に食糧庫へ入った。
扉を開けた瞬間、空気が軽すぎるとわかった。本来なら穀物と干し肉の重い匂いがこもるはずなのに、ここにあるのは冷えた木箱と雪だけだ。
「帳簿じゃ、燕麦が四十袋あることになってる」
イルゼが低く言う。
「でも現物は十八袋。しかも半分は中身が痩せてるよ」
私は袋口の札を一枚ずつめくった。番号は合っているように見える。だが札穴の周りに、迎賓館でしか使わない青印紐の毛羽が残っていた。
「ノイパスの札ではありません。王都で差し替えられた後、こちらでつけ直しています」
「そんなことまでわかるのかい」
「雪峡の紐は湿りで締まります。これは色で似せただけです」
厩舎も同じだった。帳簿では馬飼葉三十日分があるはずなのに、実際は十五日分しかない。しかも飼葉には細かい砂が混じっている。
「宿場を弱らせたい誰かがいる」
私がつぶやくと、ヨナスが背後で足を止めた。
「冬に宿場が止まれば、街道の脇道を使う者には都合がいい」
馬車溜まりの車輪痕もおかしかった。正規の発着路より、閉鎖された南斜道に向かう跡の方が新しい。夜の便が、記録に載らない場所へ荷を流しているのだ。
私は手帳へ次々と印をつける。
「必要なのは宿帳の再照合、食糧庫の棚卸し、南斜道の監視、そして薪券の発行管理です」
「全部やれ」
ヨナスは即答した。
「帳面だけの人間じゃないらしい」
その一言で、胸の内側に張りつめていたものが少し緩んだ。
王都では誰も、私の言葉をこんなふうに受け取らなかった。




