表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/20

第19話 もう帳場の影には戻らない

王都から、迎賓館へ戻らないかという打診が来たのはその一週間後だった。


 離任処分の取り消し、帳場主任への復帰、体面の回復。書面だけ見れば、以前の私なら迷ったかもしれない。


 けれど、返事を書く手は止まらなかった。


「謹んで辞退いたします」


 私は宿場の帳場机で、その一文を静かに書き切る。


 ノイパスでは、朝便の時刻を問う旅人がいて、湯沸かし場の薪数を確かめるイルゼがいて、厩舎番が新しい馬の癖を記録し、ヨナスが毎朝路線表を持ってくる。


 ここでは、帳場が影ではない。


 人を通し、食べ物を届け、無事に眠らせるための、宿場の真ん中だ。


「王都へは戻らないのか」


 夕刻、ヨナスが書面を見て聞いた。


「戻りません」


「惜しくないか」


「ええ。席を惜しむより、失わずに済んだものの方が多いとわかったので」


 私は宿帳を閉じる。


「仕事も、居場所も、自分で選び直せます」


 ヨナスは短く頷いた。


「なら、次は肩書きも選び直せ」


「肩書き?」


「宿場運営統括。補佐は外す」


 思わず言葉を失うと、彼はいつもの調子で続けた。


「異論があるなら、明日の帳場で聞く」


 異論なんて、もうどこにもなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ