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第15話 王都帰還の朝
王都へ戻る朝、雪峡は珍しく晴れていた。
私は裏路線帳、偽証紙、封蝋片、旧街道記録の写し、再開市後の正規宿帳を箱へ詰める。証拠は多い方がいい。王都は、一つの真実では動かない。
「荷はこれだけか」
ヨナスが箱を持ち上げる。
「十分重いです」
「なら、馬車は俺が手配する」
表へ出ると、王都行きの朝便が一台待っていた。車体は地味だが、足回りはしっかりしている。路線表にはヨナスの字で「最優先」と小さく書いてあった。
「辺境伯がここまでする必要はありません」
「必要かどうかは俺が決める」
言葉は短いのに、胸が少しだけ忙しくなる。
私は笑ってしまった。
「そういうところ、ずるいです」
「何がだ」
「黙っているのに、ちゃんと大事なことだけは言うところ」
ヨナスは一瞬だけ目を細めた。笑ったのかどうか、雪の反射でよくわからない。
「王都で無理はするな」
「しません。今回は、宿帳を持って行きますから」
「ああ。帰りの路線も空けておく」
帰り、という言葉が自然に出たことが嬉しかった。
王都へ向かう馬車が動き出す。窓越しに見えたヨナスの姿は、朝の門の前で長く動かなかった。
戻る場所があると思えるだけで、街道の色が少し違って見えた。




