第14話 『本物の令嬢』の白い旅装手袋
再開市の翌朝、リディアがノイパスへやって来た。
白い毛皮の襟、白い旅装手袋、白銀の髪飾り。雪峡の白さを自分の舞台だと思っているみたいな姿だった。
「お義姉様、お元気そうで安心いたしました」
広場には商人も宿泊客もいる。彼女は最初から人前で演じるつもりだ。
「王都から視察に?」
「ええ。私、街道局から冬道契約の補佐役を任されましたの。だって私は、本来なら迎賓館の席に座るべき家の娘ですもの」
その言い方に、広場の何人かが眉をひそめた。イルゼなどは露骨に顔をしかめている。
私はリディアの白い手袋へ目を向けた。左の指先にだけ、銀松蝋の青い染みが残っている。昨夜か今朝、封蝋を扱ったばかりだ。
「視察の前に、宿帳へお名前を」
「まあ、私にまで?」
「ここでは全員です」
リディアは笑顔のまま署名した。花字は相変わらず綺麗だったが、最後の払いが震えていた。
私は署名の下へ、到着便名を書き込む欄を指す。
「どの便でお越しになりました?」
一瞬、彼女が黙る。
正規便で来ていれば、南門の記録に残っている。けれど今朝、その名はなかった。
「特別便ですの」
「その特別便の証紙を見せてください」
白い手袋の先が、わずかに止まった。
広場が静まり返る。
リディアは笑顔を崩さないまま言った。
「王都で、お義姉様はずいぶん疑い深くなられましたのね」
「帳場は、最初からそういう場所です」
私は淡く微笑み返した。
白い手袋は綺麗でも、その内側の指までは隠せない。




