第13話 雪峡宿場の再開市
宿場が正しく動き始めると、人は目に見えて戻ってきた。
朝便の到着が揃い、食糧庫の残数を毎日帳場前に掲示し、宿代も薪代も明朗にする。たったそれだけで商人たちは顔を上げる。
「ちゃんと泊まれる宿場は、噂で広がるねえ」
イルゼが笑う。
再開市の日、広場には干し果物、革靴、薬湯、織物が並んだ。去年は雪で半分も開けなかったというから、これは十分な賑わいだ。
私は宿帳台を広場脇へ運び、その日の発着と宿泊を公開記録にした。誰がいつ着き、どの便で出るのか。抜け道を減らすには、人目にさらすのが一番早い。
「堂々としているな」
ヨナスが温かい香辛料湯を差し出す。
「隠れる方が、もう疲れました」
杯を受け取ると、指先にほのかな熱が移った。
「王都では、こういうこともひとりでやっていたのか」
「ええ。だからこそ、奪われたとき全部崩れたんです」
「今はひとりじゃない」
その言葉は短くて、けれど不思議なくらい胸に残った。
夕方、再開市へ偽の急報が届く。南斜道で山賊が出たという噂だ。商人たちがざわついたが、私は差出人の印を見て首を振る。
「この印、昨日まで閉じていた王都臨時窓口のものです。わざわざ今日のために作られた偽物です」
広場の空気が変わる。
人前で嘘を見抜くと、宿場そのものが味方になる。
ノイパスはもう、黙って搾られる宿場じゃなかった。




