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第11話 王都輸送局の裏路線帳
密輸小屋の押収品の中に、革表紙の薄い帳面があった。
表には何も書かれていない。けれど火にかざすと、油で隠された数字が浮く。路線番号、便名、荷の振替先。裏路線帳だった。
「ここを見て」
私はヨナスに頁を示す。
「迎賓館発の冬季救恤便が、ノイパス手前で『夜便七番』へ切り替えられている。正規の宿帳からは消えて、裏路線帳だけに残る仕組みです」
「署名は?」
「副局長ハルトマン、局付書記オスカー、そして確認印がリディア」
オスカーの名を見ても、涙は出なかった。ただ、やっぱりそうだったのだと静かに思った。
さらに最後の頁には、王都へ戻る贅沢品の品目と仕向け先が並ぶ。葡萄酒、絹布、香木、宝飾箱。迎賓館の賓客名に紛れ、誰にも怪しまれないようになっていた。
「帳場を使って洗っていたのね」
私は頁を閉じる。
「迎賓館の宿帳はただの宿泊記録じゃありません。誰が、どの便で、どれだけの箱を通したかまで管理する。そこを奪えば、輸送そのものを好きに曲げられる」
ヨナスが低く息を吐いた。
「王都は君の仕事を知らなかったんじゃない。知っていて奪った」
その言葉は痛かった。けれど同時に、曖昧だった怒りの形をはっきりさせた。
私は裏路線帳を布で包み直す。
これで足りるとは思わない。
けれど、王都へ戻る理由としては十分だった。




