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第10話 吹雪の日の臨時便

その翌日、雪峡は大吹雪になった。


 正午便は峠で足止め、夕方便は橋の手前で引き返し。宿場は一気に騒がしくなる。商人、旅役人、巡礼帰りの夫婦、みな顔を青くして帳場へ押しかけた。


「順番にお聞きします」


 私は路線表を広げ、空いている客間、余った寝具、食糧庫の残数を書き出した。


 イルゼが炊き出しの段取りを組み、厩舎番が馬を引き入れる。ヨナスは橋番へ人を走らせ、夜半までに通せる臨時便の準備を整えた。


「南斜道は?」


「封鎖したままだ。使わせない」


 吹雪の夜、私は旧街道記録と現在の路線表を並べ、最も安全な迂回発時刻を計算した。昔の雪崩記録と風向きを照らせば、夜明け前の一刻だけ通せる。


「四刻前に出せば、谷風が弱まる」


 ヨナスは一度だけ頷いた。


「その便で老人と体調の悪い者を先に出す」


 臨時便が無事に宿場門を抜けたとき、帳場前で安堵の息が広がった。


 その混乱の中、ひとりだけ不機嫌そうな男がいた。昨夜の密輸小屋と同じ印の手袋をしている。


「王都ではこんな面倒な照合はしない」


「ここではします」


 私が言い切ると、男は舌打ちして去った。


 吹雪は人の本音を隠せない。


 そして正しい宿帳は、宿場への信頼を取り戻し始めていた。


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