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王立学園の死神は放課後に命を弄ぶ ~両親を殺された侯爵令嬢が死神となって悪人を楽しくざまぁする異世界近代魔法ミステリー!?~  作者: 猫月九日
第四幕 王都の闇編

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第32話 対策と報告

 あれから、早いもので一週間が経った。

 今回の件もようやく落ち着いてきて、今日はノエラのところに来ている。

 レイヴンは後から来る予定になっているが、今この場にいるのはリーネとノエラだけ。


「それでどうなりそうですか?」


 机の上には図面と資料が広がっていた。

 ノエラには王都のエネルギーについての調査をしてもらっている。


 ノエラが資料をめくる。

 リーネもその横から覗き込んだ。


「短期的には混乱しますわ。けれど、王都の機能が止まるほどではありません」


「ほう」


 ずいぶんあっさり言い切るものだ。

 本当に大丈夫らしい。


「もともと全てを魂石由来に頼っていたわけではありませんもの。足りない分を楽な供給で埋めていただけですわ」


「楽な供給があれですか……」


 確かに倫理を気にしなければ、効率は最高級だっただろう。


「言い方を変えれば、見ないふりをしていた分ですわね」


 ノエラは別の紙をリーネへ向けた。


「正規の人工魔石の製造ラインを急いで回せば、三ヶ月ほどで不足分の六割程度は埋められる見込みですわ」


「全部ではないんですね」


「急に全部は無理ですわ。そこまで簡単なら、最初からこんなことにはなっていませんもの」


「それもそうですね」


 しかし、その面倒を惜しんだ結果が今回の騒動だったわけだ。



 そうして話していると、ガラガラとドアが開く音がして、レイヴンが入ってきた。


「お待たせ」


 戻ってきたレイヴンは、少しだけ疲れているように見えた。


「ずいぶん時間がかかりましたね」


「報告が多くてね」


「ガレンティ様の方も、大変でしたのね」


「まあね」


 レイヴンが少しだけ息を吐く。


「ヴィクトル様の件ですよね? どうなったんですか?」


「ああ、簡単に言うとだね、国は父の悪事を隠蔽するみたいだよ。ただし、首輪付きっていう感じだね」


 嫌な言い方だった。


「そうですか、確かに今解任したら大変なことになりますものね」


 理由も外に話すこともできない以上、それが落としどころなのだろう。


「今回は、インフラの移行を優先した感じだね。でも、事態が落ち着いたら解任は決定している感じだね」


 少しだけ黙る。


「ずいぶん現実的ですね」


「嫌な意味で、ね」


「でも、そちらの方が王都は助かるんでしょう?」


 レイヴンは少しだけ視線を落とした。


「……そうだね」


「私としても、新しい人に説明するよりは楽ですわ」


 実務が関わるノエラとしては助かったのだろう。ほっと息をついている。



「あ、そうそう。そういえば、王城に行った時に会ったけど殿下が君に会いたがっていたよ」


「殿下が?」


「礼を言いたいそうだ。今は、グレンの目を気にしなくてもいいからね」


 シリウスとはあの事件以来、会っていない。

 嘘ではあるものの、心中騒ぎなんてものを起こしてしまった以上、なかなかあちらも忙しかったようだったが、ようやく落ち着いたのかも知れない。


「ふむ、では、挨拶くらいはしておきましょうか」


「リーネ様にしては、早いですわね」


「こういうのは早いほうがいいんですよ」


 そう言って、リーネは連絡を入れた。


(正直、先延ばしにしてまた変な事件になっても困りますしね)



 連絡を入れると、今すぐに会いに来るとのことだった。

 ちょうどリーネとしても出かける予定があってので、ちょうどいいタイミングだった。


 学園の校門近くまで行くと、シリウスがこちらに向かって大きく手を振っている。

 当然グレンの姿はなかった。


「リーネ殿!」


「おや、殿下。これは奇遇ですね」


「奇遇もなにも! 先ほど連絡をしたばかりだろう!」


「気づかれましたか。成長しましたね」


 シリウスは一瞬だけむっとした顔をしたが、すぐに真面目な顔へ戻った。


「あまり時間もないので本題に入るが……今日は礼を言いに来たのだ」


「礼、ですか?」


「そうだ。余はずっと、周りに言われたまま信じて、考えたつもりになっていた」


 そこで、シリウスが自分の手を握って見つめる。


「だが、今回は違った。余は自分の目で見たし、自分がどれだけ何も分かっていなかったかも知った」


「……」


「これからは、ちゃんと自分で見て、自分の頭で考える」


 そう宣言をして、シリウスはリーネの目を真っ直ぐと見つめた。

 そこには、今までのシリウスとは違う、少しだけ大人びた表情があった。


「ええ。いいですね。それが正しい成長です」


 シリウスが少しだけ視線を逸らす。


「いずれ、また胸を張って会いに来る」


「ほう」


「その時は、もう少しまともな王子になっているはずだ」


「期待しないで待っていますね」


「そこは期待するところだ!」


 リーネが少しだけ笑うと、シリウスも少しだけ笑って背を向けた。


「次こそはちゃんとするからな!」


「はいはい」


 シリウスが去っていく。


「ちゃんとするとはなんでしょうね?」



 シリウスとの話を終わらせたあと、リーネはカルド商会へ向かった。

 目的はアリアに会うことだったのだが、一緒にカナックもいた。


 リーネが部屋へ入ると、アリアはリーネの顔を見るなり静かに頭を下げた。


「お時間をいただいて、すみません」


「いやいや、ちょうど暇をしていましたので」


 カナックが席を立つ。


「私は外しておこう」


「いえ、お父様もここにいてください」


 前よりは自然な呼び方だった。

 まだ少しぎこちないが、関係を改めようという意思が感じられた。


「神父様のことです」


 アリアが真面目な顔をしてリーネを見る。

 アリアには、神父のこと、行方不明の間何をしていたのか、そして、彼がどういう人物なのか、事細かく話してある。

 もっとも、アリアはその話を聞いた時は、顔を青白くして、気を失ってしまうくらいだったのだが。


「リーネ様に聞いてから、色々と考えました」


「ええ」


「最初は、やっぱり少しだけ、ショックでした。いえ、今でも正直、ショックです」


 胸元の半月のペンダントに、アリアの指先が触れる。


「でも、それだけでした」


 そこで少しだけ間が空く。


「神父様がしてしまったことは、なくならないんだと思います」


 迷いはなさそうだった。


「だから、一緒に償っていくしかないんだと思いました」


「一緒にですか?」


「ええ、それが、あの人に育てられた私のせめてもの恩返しだと思います」


 育てられた恩。でもきっとそれ以上に、アリアは神父のことを嫌いになれなかったのだろう。


「アリアがそう決めたのであれば、私もそれを応援しよう。彼には返しきれないほどの恩があるからな」


「ありがとうございます。お父様……」


 アリアは一瞬だけ表情を緩めたが、すぐにまたリーネへ向き直る。


「リーネさんには、感謝しています」


「そうですか?」


「はい」


 アリアは膝の上で手を重ねた。


「リーネ様であれば神父様を断罪してしまうことも、きっとできたはずです」


 アリアは一度だけ息を吸った。


「きっとその方が正しいのでしょう」


 罪を犯した大きさ、当然神父のことを恨む人だっている。

 その人からすれば、きっと神父が生きていることすら許せないのだろう。

 断罪は、そういう人たちの気持ちを考えれば、当然のことだった。


「でも、リーネさんはそうしなかった」


 小さかったが、はっきりしていた。


「私のために、そうしてくれたんですよね」


 リーネは少し考えてから、首を縦に振った。


「……まあ、そうなりますかね」


「ありがとうございます」


 アリアはもう一度、深く頭を下げた。


「私は友だちに、ずっと助けてもらってばかりです」


 少し困ったように笑う。


「別に大したことはしていませんよ」


 肩をすくめてから、リーネは続けた。


「世の中のためとか、そういう大きな話ではありません」


 そこで一度だけ、アリアを見る。


「そもそも、今回私はアリアのために動いただけです」


 リーネは少しだけ肩をすくめる。


「なにしろ、友人ですからね」


 アリアが目元を押さえる。

 泣きそうではあったが、ちゃんと笑っていた。


「……ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね」


 手を伸ばしてきたアリアの手を、リーネはしっかりと握り返した。


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