第33話 墓参りとこれから
アリアとの話の後、リーネはふらふらと、王都のはずれへとやってきた。
「ここはいつも静かですね」
そこは、王都にある墓地だった。
そしてリーネは今、祖父と両親の墓の前に立っている。
「報告に来ましたよ」
少しだけ風が吹いた。
こういう場所だと、それだけでも返事みたいに見えるから不思議だ。
「今回はなかなかに面倒でした」
墓石へ視線を向けたまま、続ける。
「面倒な人がいて、面倒な理屈があって、面倒な後始末までついてきました」
口にすると、面倒なことだらけだったことに気がついてリーネは思わず苦笑いをした。
「でも……ひとまず片付いたと言っていいでしょう」
花の脇に視線を落として、小さく息をつく。
「一応、死神としての役目と……あなたたちの心残りは整理できたのではないでしょうか」
返事はない。
それでも、口にしただけでも、心の中がすっきりとしたような気がした。
リーネとしては気にしていなかったことも、心の奥底では気にしないようにしていただけなのかもしれない。
「死神なんてものになってから、退屈せずに過ごすことができるようになりました」
きっかけになったのは、やっぱりそれだった。
「死神になり、レイヴン様と出会い、ノエラに協力してもらい、アリアと友人になり、シリウス殿下と再会し……その他にもいろいろな事情や考えをする人と出会いました」
それは、リーネにとっての大きな変化だった。
「今ではすっかり私も一人のまともな人間になれたのではないでしょうかね? ふふっ」
なんとなく、想像の中で祖父が笑った気がして、リーネもつられて笑ってしまった。
お前なんかまだまだだ、と、そんなことを言われているような気がした。
「まあまあ、そもそも、一人のまともな人間になんてこだわっているのが私らしくないですからね」
人はそれぞれの個性がある。
「だから、私は私らしく、私のために死神を続けます」
それはこれからに向けたリーネなりの宣言だった。
「ですから、今日は一区切りの報告だけです」
顔を上げて、墓石をしっかりと見つめる。
「また何か片付いたら、そのうち来ますよ」
墓石に背を向け、振り返ることなく、リーネは墓地を後にした。
「おや、お一人ですか?」
部室の扉を開けると、中にはレイヴンだけが残っていた。
机の上には書類がいくらか置かれていた。
「ノエラはどうしたんですか?」
「作業も一区切りしたみたいだから、家に帰っていったよ」
「そうですか」
そもそも、今日はリーネと話すために、ノエラは部室に寄ったのだろう。
ノエラはノエラでしばらく忙しそうではある。
「それで、どうしてレイヴン様はここに?」
「なんだか、僕がいてはいけないみたいだね?」
「あら? そう言ってほしいのですか?」
「僕が傷つくからやめよう」
軽口をたたきながら、リーネは、レイヴンの前に座った。
「少し君に用があってね、すぐに戻ってくると思ったから待っていたんだ」
「おっと、それは失礼しました。少々ふらっとお墓参りをしに行っていましたよ」
「お墓参り……なるほどね」
レイヴンはそれ以上聞かない。
そういうところは楽だ。
「……」
お互いに見つめ合うようにして、しばらくの間、沈黙が続いた。
こうして二人でいるのも久しぶりのことだ。
「これで、ひとまず一件落着ですかね」
緊張とは違うけれど、なんとなく新鮮な気分になって、リーネは少しだけ笑った。
「ひとまず、とはつくけどね」
「でしょうね」
少しだけ笑う。あくまでも片付いたのは、思いの外長いこと続いてしまった、両親の因縁だけ。
しかも、ケリが付いたのはリーネの気持ちの問題だけで、実際にはまだまだ片付いていないこともたくさんあるのだ。
「まあ、しかし、あとは私がやることはありませんけどね」
リーネとしては、今回の事件は終わりだ。
細々とした事後処理に関わる気はない。
「ははっ、でも、君も退屈せずにはすみそうだよ」
レイヴンが机の端に置いていた封筒を指先で叩いた。
「ほう?」
「ギルドから預かってきた」
レイヴンは封筒を軽く持ち上げてみせる。
「次の仕事の相談だそうだ」
「相談?」
「なんでも、死神の君にしかできない仕事らしいよ?」
どうやらレイヴンも中身は知らないらしい。
差し出された封筒を、リーネはただ見るだけ。
「ふむ……さて、それを受けるかどうかは……」
「僕次第……だろ?」
「わかっているじゃないですか」
リーネは自由に死神を続ける。
「さて、レイヴン様? いえ、私の使徒さん」
リーネは笑ってレイヴンを見た。
「私がこの仕事をする代わりに、あなたは何をしてくださるのですか?」
リーネとレイヴンの関係はずっと変わらない。
たとえ、レイヴンの信用度、信頼度が上がっても、どれだけそばにいることに違和感がなくなっても。
リーネはこれからも、リーネのために死神を続ける。




