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王立学園の死神は放課後に命を弄ぶ ~両親を殺された侯爵令嬢が死神となって悪人を楽しくざまぁする異世界近代魔法ミステリー!?~  作者: 猫月九日
第四幕 王都の闇編

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第31話 役割と断罪

「……何だ、これは」


 レイヴンが低くそう言った。

 黒い煙を取り込んだ直後のエグバートは、腕や首筋に黒い筋を浮かべたまま立っている。

 その全身を薄く黒いオーラが包んでいた。


「……ぅ……なるほど……」


 しかし、エグバートはただ立っているだけなのに、少し無理をしているように見える。


 リーネは大鎌の柄を握り直しながら、目の前の状態を確かめる。


「魂石から無理やりエネルギーを引き出して、自分の能力を引き上げている状態ですね」


 魂石を通常の魔石のように使用している。ただ、その量が尋常ではないため、エグバート自身の身体にも負荷がかかっているのだろう。


「……興味深い……と言いたいところですが、これはめんどくさいですね」


「おわかりになりますか。さすがは本物の死神様だ」


 エグバートは口元だけで笑った。


「死神様がもたらした魂石は、人の役に立てるべきものです」


 その首筋に浮いた黒い筋が、わずかに脈打つ。


「だからこそ、このように使うのも問題ないのです!」


 エグバートが右手を構え、黒いオーラを弾丸のようにリーネに向かって打ち出した。


「はぁっ!」


 レイヴンの剣が黒い凶弾を切り裂き、そのままエグバートに向かって切り込んだ。

 しかし、剣はオーラに受け止められるように防がれた。


 リーネの目には、エグバートのオーラが少しだけ薄くなったのが映った。

 しかし、とエグバートは握っていた魂石を握りこむと、薄くなった分が、そのまま補われていく。


「はぁ……人の命を燃料にしているんですね」


 思わずため息をついたリーネ。


「燃料などではありません。有効活用です」


 再び、エグバートが黒いオーラを打ち出す。

 レイヴンが受け止めるが、エグバートが打ち出す度にオーラが薄くなり、すぐに回復することを繰り返す。


「死神様がもたらした恵みを、人の世に下ろす。それの何が間違いなのでしょう」


「返すべきものを使い潰しておいて、よくもまあ」


「使い潰すのではありません。有効に使うのです」


「……死神教団も同じような思想で動かしていたんですか?」


 リーネがそう言うと、エグバートの目がわずかに細くなった。


「……さすが、死神様。おわかりですか」


「ええ。理屈が同じですから」


 彼らはスラムから人をさらって、それを人工魔石にしていた。

 これも一種の「有効活用」だったのだろう。


「役に立たぬまま朽ちるより、人の世を支える石になる方がずっと良い」


 当然のことを説明するような口ぶりだった。


「スラムの役に立たぬ人間を、役に立つ形へ変える。それもまた救いでしょう」


 リーネは小さくため息をつく。


「死神の真似事で人を壊しておいて、救いとは便利な言葉ですね」


 けれど、その声音はよく冷えていた。


「失望されましたかな」


「いいえ。最初から期待していませんよ」


 レイヴンがもう一度踏み込む。

 受けた反動で、エグバートのオーラがまた少し薄くなった。



 エグバートの手が、当たり前のように次の魂石へ伸びる。


「さすがに死神として放置はできませんね」


 リーネはそう言うと、大鎌を背中にしまい込み、両手を合わせた。


「……死神様にはこの思想をご理解いただけぬようですねえ」


 どうやらそれだけでリーネが何をやろうとしているかエグバートはわかったらしい。


「ええ、それが私の仕事ですからね。神にお返ししますよ」


 魂石を武器として扱うのであれば、奉納してしまえばいいだけのことだ。


「それは困りますね」


 エグバートの視線が睨むようにはっきりとリーネへ定まる。


「レイヴン様」


「何秒いる?」


「数えられるくらいで十分です」


 それだけで通じたらしい。

 レイヴンがすばやくリーネとエグバートの間へ入る。


「あなたは勘違いしていますね」


「死神は、正しいから魂を扱うわけではありませんよ」


「……何を」


「役割だからやっているだけです」


 リーネがゆっくりと目をつぶった。


「ですから、返すべきものは私が返します」


 奉納の準備が整ったことがわかったのだろう。

 しかし、エグバートは焦ることなく、リーネに問いかけてくる。


「よろしいのですか? このまま発動すれば、レイヴン様まで巻き込みますよ」


 余裕たっぷりの口調だった。


「リーネ嬢! 僕に構うことなく……!」


 レイヴンがリーネに向かって叫ぶ。しかし、それを全部言い切ることはなかった。


「……ああ、そういえばそんなことを言いましたっけ」


 目をつぶったまま、リーネはにやりと笑った。


「あれは嘘です」


「……」


「加減ができないと本当に思っていたのですか?」


 単に邪魔だから追い払っただけで、魂石だけの奉納なんて、リーネにとっては簡単なことだ。


「やめなさい!」


 初めて、エグバートが焦ったような口調で叫んだ。


「嫌です」


 エグバートがリーネへ向かおうとする。

 しかし、レイヴンがそれを許さない。


「……使徒ごときが、よくもまあ」


「これが僕の役割だからね」


 剣を構えたまま、レイヴンは一歩も引かない。


「リーネ嬢に届かせる気はありませんから」


「邪魔だ!」


 黒いオーラがもう一度打ち出された。

 レイヴンはそれを正面から受ける。


 マシンガンのような連射が続く。

 次第に、レイヴンが追えなくなり、攻撃がレイヴンに当たり始める。


 しかし、その数秒で十分だった。


「神にいただいた命を今、お返しします」


 その言葉が落ちた瞬間、執務室の空気が震えた。

 エグバートが握っていた魂石が、懐にしまってあった魂石が、一斉に震え始める。


「これは……神の恵みだぞ……!」


 嘆くような声を上げるエグバート。


「ええ。だから返しているんですよ」


 魂石が全部、消えた。

 補充できるものがなくなった瞬間、エグバートを包んでいたオーラが一気に薄れる。

 取り込んだ黒い煙も、魂石を燃料に保っていただけだったらしい。


 そこで初めて、エグバートの膝が落ちる。


 崩れたところへ、レイヴンが一気に踏み込む。

 腕を捻り上げ、そのまま机へ押しつけた。


「終わりです」


 エグバートは押さえ込まれたまま、リーネを見る。

 苦しそうではあるが、それでもどこか笑っているようにも見えた。


「貴方様は……本当にお母様に……似ていらっしゃる」


「それは褒め言葉ですか?」


「ええ、とても。最後まで、こちらの理屈に乗らないところが」


「そうですか」


 リーネは大鎌を下ろす。


「私と比較されて母に失礼でしょう?」


 エグバートの顔が硬直する。そしてそのまま、体ごと消えていった。



 騒ぎを聞きつけたギルド職員が扉の外に集まり始めてきた。

 レイヴンが短く事情を伝え、職員達が慌てふためき、走り回る。


「終わりましたかね」


「終わった、とは言い切れませんけど」


 部屋を見回してから、リーネは続ける。


「少なくとも、仕事は果たせましたね」


 小さく息を吐く。


「これで一区切りです」



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