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王立学園の死神は放課後に命を弄ぶ ~両親を殺された侯爵令嬢が死神となって悪人を楽しくざまぁする異世界近代魔法ミステリー!?~  作者: 猫月九日
第四幕 王都の闇編

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第29話 裏通りと使徒

「……ふむ、満足しました」


 黙って二人のやりとりを聞いていたリーネが、つぶやいた。

 レイヴンの視線がリーネに向く。


「……満足?」


「ええ、そもそも、私は元々、この方を罪に問おうとは思っていませんでしたからね。今、色々と考えが聞けたので満足です」


 本当に満足したように、リーネは微笑んでいた。


「しかし、父上は……」


 その反面、レイヴンはまだ納得していない様子だった。


「ええ、ですから、そのあたりはお二人で話し合ってください。私にはその結論だけください」


 そもそもの話、リーネ自身はヴィクトルを裁く立場にないと思っている。

 死神教団の件は、あくまでも死神教団の問題であって、そちらは対処済みだ。

 そこでリーネの役割は終わっているとの考えだ。

 今回話を聞いたのは、あくまでも個人的な趣味とレイヴンのためだった。


「レイヴン様には、元部下として父親をどうするか決める権利はあると思いますよ」


 自分で決めろとはっきりと告げた。


「……」


 リーネの言葉を聞いたレイヴンは黙ってヴィクトルを見つめる。

 何を考えているのか、リーネには見当もつかなかった。


「リーネ嬢」


「はい?」


「少し、外していてくれるかい。もう少し二人だけで話をしたい」


 レイヴンの声には既に怒りはなかった。

 いつものように冷静で落ち着いた口調だった。

 落ち着きを取り戻したようだ。


 リーネは一度だけヴィクトルへ目を向ける。


「ええ。では、私は失礼するとしましょうかね」


 二人に背を向け、扉へ向かって歩き出す。

 そのまま出てもよかったが、せっかくだからもう一つだけ置いていくことにした。


「ああ、そうそう。今回の件とは別に、私の父が残した負の遺産は、私が責任を持って処理しますから」


 後ろで、レイヴンがわずかに眉を寄せる。

 意味がわからないらしい。


 けれど、ヴィクトルの方は違った。

 驚いたように小さく息を呑む音がする。


(ふむ、良い反応助かりますね)


 リーネはそのまま部屋を出た。



「なるほどやはりそうでしたか……おっと、どうやら来たようです。それではまた……」


 エネルギー省を出たところで待っていると、少ししてレイヴンが姿を見せた。

 壁に背を預けていたリーネは、その顔を見て満足げに微笑む。


「待たせたね」


「いえ。ふむ、その顔を見るにある程度の折り合いはついたみたいですね」


「ははっ、そう、ある程度はね……」


 父親と二人で話し合うことで、ある程度の理解はできたのだろう。

 しかし、まだ納得はしきれていない様子ではある。


「ははっ……リーネ嬢……ちょっと愚痴を聞いてもらってもいいかな?」


 レイヴンは苦笑したまま、リーネの隣に立ち、壁に背中を預けた。


「ええ、聞くだけならただで聞いてあげます」


「それは助かるな……」


 言いながら、レイヴンが空を見上げた。

 表通りの音が、遠くから薄く聞こえてくる。

 けれど、それがはっきりと聞こえてくるくらいには、二人の間には静寂が広がっていた。


「……僕は、父上の駒だったのかもしれない」


 ようやくこぼれた言葉に、リーネは思わず笑ってしまった。


「ははっ、何を今更言っているんですか?」


 そのリーネの反応にレイヴンは苦笑をした。


「否定しないんだね」


「してほしかったんですか?」


「……いや」


「でしたら、別にいいでしょう?」


 高い建物に切り取られた空を見上げる。


「それに駒として使われていたのだとしても、それは過去の話です。今は違うでしょう?」


「今、か」


「ええ。今のレイヴン様は間違いなく私の使徒です。さっきも言ったでしょう? あの人との関係は元部下。それだけにすぎません」


「一応父親ってのは変わらないんだけどね……」


 リーネの言葉に気が抜けたのか、肩の力を抜いてリーネの方を見てきた。


「君みたいに単純に割り切れたらよかったのに……」


「できないんですか?」


「うん……」


 レイヴンは小さく頷く。


「ふむ……」


 リーネはレイヴンの顔を見つつ、しばし考える。


「そうですね……レイヴン様に足りないのはやはり優先順位付けでしょうか?」


「優先順位?」


「ええ、というよりも、自覚がないという感じでしょうか」


 言いながら一歩だけ近づく。


「わかっていますか? あなたは私の使徒なのです。つまり、あなたの絶対は私になるんです」


「結局そこに繋がるのか」


「当然でしょう。絶対とはそういうことです。そういう意味では、あの死神教団の人たちのように私を崇めるのも悪くないかもしれませんね」


 もちろん、半分冗談。しかし、半分本気だ。

 要するにそのくらいの感覚でいろという話だ。


 それを理解したのか、レイヴンが小さく笑った。

 ずいぶん遅い回復だったが、ようやくいつものレイヴンに戻ってきたようだ。


「……そうだね。君を崇めてみるのも悪くないかもしれないね」


「ええ、大いに崇めてください」


 リーネは笑いながら、壁から身を離した。

 話は終わりだ。

 レイヴンも同じようにリーネの隣に立つ。


「そういえば、さっきリーネ嬢が出ていく時に話していたことだけど……」


 レイヴンの声はすっかりいつもに戻っていた。


「ああ、あれですか。何か言っていましたか?」


 リーネの言葉にレイヴンは首を振った。


「それは君から聞いたほうがいいって。何も教えてくれなかったよ」


「そうですか……ふむ……」


 リーネは少し悩んだ様子だったが、結局やることは決まっていると思い直した。


「どのみち、行こうと思っていましたからね」


 リーネは通りの先へ目を向けた。

 ここで立ち止まっている理由は、もうない。


「いったいなんの話をしているのか……」


 困ったようにレイヴンがリーネを見る。


「まあ、簡単に言えば……一番悪いやつのところに乗り込もうって話ですよ」


「えっと……まあ、いいか……とりあえず、リーネ嬢について行けばいいんだよね?」


「ええ、そうです。使徒は一蓮托生ですからね」


「ははっ、酷いことにならなきゃいいけど」


 レイヴンは少しだけ目を閉じ、それからゆっくり開いた。


「行こうか」


 その声には、先ほどまでの迷いが少しだけ薄れていた。


「はい。使徒は一蓮托生ですから」


 そう言って歩き出すと、レイヴンも隣に並ぶ。

 さっきまでのひどい顔よりは、ずっとましだった。


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