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王立学園の死神は放課後に命を弄ぶ ~両親を殺された侯爵令嬢が死神となって悪人を楽しくざまぁする異世界近代魔法ミステリー!?~  作者: 猫月九日
第四幕 王都の闇編

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第28話 父と告白

「失礼します」


 扉をノックして、レイヴンが執務室へ入った。

 室内は執務机が一つのシンプルな部屋だ。

 そしてその執務机で書類に目を落としていたヴィクトル・ガレンティが、ゆっくり顔を上げた。


「……急に二人きりで話したいとは、珍しいな」


 広い机の向こうから向けられる視線は穏やかだ。

 けれど、その声音は硬い。


「殿下とミゼリオール家の令嬢の件か。随分な騒ぎになっているようだな」


 レイヴンはその言葉に答えずヴィクトルの前に立つ。

 父の顔をまっすぐ見据えたまま、短く首を振った。


「いいえ、今日お時間をもらったのは、その件ではありません」


 レイヴンの言葉を聞き、一瞬だけ、ヴィクトルの眉が上がった。


「……そうか。では、何の用だ」


 じろりと睨むように見てくる父親にレイヴンは少しだけ間を置いてから、口を開く。


「父上はご存知だと思いますが、殿下の護衛は第二騎士団のグレン様が務められています」


 ヴィクトルの目が細くなる。


「ああ、そのとおりだが……」


 それがどうしたとでも言いたげな様子だった。しかし、同時に何かを察したのか、それ以上の発言は許さないような空気も漂わせている。


「殿下の遺体を発見した際に、そのグレンに不審な行動があったので、追跡をしました」


 しかし、レイヴンはそれを意にも介さず、続ける。


「……」


「追跡した結果、彼は城下の外れにある屋敷へと向かいました。そしてそこには地下に隠された拠点が存在しました」


「……そこに入ったのか」


 ヴィクトルの目がさらに鋭くなった。


「……父上は、死神教団という名をご存じですか?」


 問いの直後、執務室が静まり返った。


「……名前だけはな。有名なカルト宗教団体だからな」


「では話が早いです」


 レイヴンが机へ歩み寄り、書類を数枚置いた。

 紙が重なる乾いた音が、やけに大きく響く。


「地下拠点はその死神教団のものでした。中には人体実験がされたような記録が残っていました。その中からこれが見つかりました」


 それは、人体実験の記録の一部だった。

 そして、出来上がった人工魔石の出荷先のリストも含まれていた。

 その中には、エネルギー省の名前と判があった。


「……」


 ヴィクトルは書類に目を落としたまま、しばらく何も言わない。


「……デタラメだな」


 否定の言葉は早かった。

 しかし、視線は変わらずに書類に落ちたままだ。


 短い沈黙のあと、ヴィクトルがようやく顔を上げた。


「こんなくだらない戯言なんぞ気にするな」


 そう言って、書類を机の上に放り投げた。


「いいえ、僕はこれを無視できません」


 迷いのない返答だった。

 ヴィクトルの目がさらに細くなる。


「……理由を聞こうか」


 その時だった。

 執務室の空気がわずかに揺れ、レイヴンの隣にリーネが姿を現した。


「理由ですか? この方は、私の使徒になったんですよ」


 ヴィクトルの視線が、まっすぐリーネへ向く。

 さすがに驚いたらしいが、露骨に動揺するほどではない。


「死神……」


 呟きは、驚きというより確認に近かった。


(前に会った時から、何か勘づいてはいたみたいですね)


 リーネがそう見ていると、ヴィクトルは小さく息を吐いた。


「……ずいぶんと面倒なものを連れてきたみたいだな」


「ええ。ですので、あなたの命令よりも私の命令が優先されます」


 そこで初めて、ヴィクトルの表情が崩れた。


「……そういうことだったか。ならば、死神教団は……」


「ええ。私自ら対処しました」


 それで十分だったらしい。

 ヴィクトルは椅子へ深く座り直し、目を閉じるようにして一度だけ額へ手を当てた。


「そうか」


 そのまま少し黙ってから、机の上の書類を揃える。

 ようやく話す気になったようだった。



「王都で使うエネルギーは、年々増えている」


 唐突ではあったが、弁明ではなく説明から始めるつもりらしい。

 リーネは口を挟まず、先を待つことにした。


「もちろん、エネルギーは人々の生活を豊かにするために必要なものだ。しかし、考えたことはあるか? エネルギーが足りなくなると、どうなるか」


 リーネは思い出した。

 そういえば、以前とある事件の時に、王都のエネルギーは足りるはずがないという陰謀論者がいたことを思い出した。


「そして、今まさに王都はその状況に直面している」


 険しい顔をしたヴィクトルが顔を上げた。

 そこには強い意思が感じられた。


「人々の水準を下げることはできない。消費を減らすことはできない。むしろ、エネルギー生産量は増やす必要がある」


 言いたいことはわかってきた。


「そこで死神教団の人工魔石ですか……」


「ああ、そうだ。もちろん、その名前で売り込みに来たわけではないがな。高出力の魔石は王都のエネルギー問題を解決するための救世主だった」


「どういう作り方をしているかは知らなかったんですか?」


「それを知ったときにはもう遅かった」


 レイヴンの肩がわずかに強張った。


「遅かった、で済ませるんですか。あのような暴挙を……!」


 ヴィクトルは視線を落としたまま答える。


「王都のエネルギーの一割ほどが、すでにやつらに依存していた。わかるか? この巨大な都市の一割がやつらの手の内だったんだ」


「その間に、何人死んでもですか」


 レイヴンが一歩前に出ようとして、足を止めた。

 怒りを抑え込んでいるのがわかる。

 しかし、その声は抑え込んでいるぶんだけ、返って重みが増していた。


「……否定はしない」


 机を挟んでいるのに、執務室の空気が一気に狭くなったように感じられた。


「それが、父上の出した答えですか」


「ああ」


 短い返事だった。


「正しかったとは言わない。ただ、あの時の私にはそれしか選べなかった」


「違います」


 レイヴンははっきりと、即座に否定した。


「選べなかったんじゃない。父上は、それを選んだんです」


 ヴィクトルは答えなかった。

 その沈黙が、そのまま答えだった。


「つまりあなたは、人の生活を守るために、人を犠牲にする道を選んだ」


 あまりにも冷酷な正論だった。

 それを追求できたのは、レイヴンとヴィクトルの関係性があってこそだった。


「……そういうことになるか」


 半ば自覚はしていたのだろう、しかし、突きつけられた事実をゆっくりと受け入れるように目を閉じた。


 その瞬間、この場にあった圧が一気に解放されたような気がした。


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