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王立学園の死神は放課後に命を弄ぶ ~両親を殺された侯爵令嬢が死神となって悪人を楽しくざまぁする異世界近代魔法ミステリー!?~  作者: 猫月九日
第四幕 王都の闇編

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第24話 偽装死と尾行

「動きましたね」


 焼け跡から離れていくグレンの背中を見ながら、リーネは小さく笑った。

 周囲の目は、まだ燃えた小屋と騎士団に集まっている。すぐそばに立つ透明化したリーネたちに気づく者はいない。


「グレンもああやって慌てるものなのだな……」


 隣で、シリウスがぽつりと呟いた。

 その声に、リーネは少しだけ笑いを深くする。


「ええ、先程の殿下とそっくりです」


「余はあそこまでではなかったぞ!」


 ほんの少し前、部室でこの作戦を口にした時のシリウスも、なかなか見ものだった。



「ど、どうするのだ!?」


 シリウスは、焦ったような声をあげて椅子から立ち上がった。


 そのまま部室の中を二歩三歩と歩いて、またすぐに振り返る。

 落ち着かないらしい。


「このままでは、本当に余が連れ去られたことになるではないか!」


「向こうはそのつもりで騒いでいるのでしょうね」


「だから困っておるのだ! 余はともかく、リーネ殿まで悪者にされている!」


 どうやら、先に気になるのはそこらしい。

 少し前までしょげていたのに、忙しい方だ。


「今から外へ出て、違うと言えばよいのではないか?」


「今の状況でそれをしたら、殿下はそのまま囲まれるでしょう」


 静かに口を挟んだのは、レイヴンだった。


「話が広がるのは、たぶんそちらの方が早い」


 シリウスは悔しそうに黙り込んだ。

 勢いだけでどうにかできる段階ではないと、ようやく分かったようだ。


 そんなシリウスを尻目に、リーネは考えを巡らせていた。


(こんな大胆な行動に出たのだから、相手も相当焦っているでしょう)


 ともすれば、こちらから意表を突いて、こちらの思う展開にすればいい。

 そのためにはどうすればいいか……


「そうですね……死体でも作りましょうか」


 しばらく、部室の中が静まり返った。


「……は?」


 最初に固まったのは、シリウスだった。

 その横で、レイヴンだけが小さく息を吐く。


「君が何か変なことを思いついたのは分かった」


「それはどうも」


「褒めてないがな」


 そんな軽口をリーネとレイヴンはしているが、シリウスはまだ混乱中のようだ。


「待て、死体とはどういう意味だ! 余を殺すつもりか!?」


「いやいや、殿下を亡き者にするつもりはありませんよ。あくまでも死体を用意するだけです」


「は? いや、わけがわからぬのだが……」


「要するに偽物の死体を作るわけです。誰かを犠牲にするわけではありません」


「偽物の死体……? 人形のようなものということか? しかし、そんなのすぐにバレそうではないか?」


「いやいや、私が作るんです。本物の死体です」


「うん?」


 首をひねるシリウス。

 ここでようやくリーネは気がついた。自身のことについて説明していなかった。


「私にならそういうことができるんですよ。なにせ、私は死神ですからね」


 リーネの言葉に、シリウスは真顔になった。


「……死神……リーネ殿が死神……」


「ええ、以前、その力はお見せしたでしょう?」


「そういえば、大きな魔物を倒していたな……」


 あの時は誤魔化したが今回は断言する。


「そうです。あの程度の生物であれば、敵ではありません」


「そうであったか……」


 シリウスは納得したように頷き、すぐにレイヴンの方を見る。


「……レイヴン殿は知っていたのか」


「ええ。でなければあんな魔物が出るところにリーネ嬢を連れていきませんよ」


「余は知らなかったがな……」


 妙に複雑そうな顔だった。

 驚いているのに、少しだけ拗ねてもいるように見える。


(殿下、忙しい方ですね)


 シリウスの様子は気にかかるところではあるが、話を戻す。


「グレン様は今、殿下が私に連れ去られたことにしたいのでしょう?」


「う、うむ。リーネ殿に罪を着せようとしているのだろう」


「では、どういう罪を着せようとしているのでしょうか?」


「それは……リーネ殿が余のことを連れ去る……いや、もっと……そうかっ!」


「ええ、発見できない。それは大変でしょうね。でも、もっと大変なのは、殿下が死んでしまうことです」


 グレンは、リーネがシリウスを害する可能性があるとして、兵を動かした。

 そう、それは、本来はありえないこと。

 しかし、それが本当に起こってしまったらどうなるのか……


「グレンは責任を追求されるだろうな」


「ええ。きっと、いろいろなところに説明に回ることになるでしょう」


 王城へ……そしてきっと、死神教団へも。


「なるほど……面白いではないか」


 シリウスがにやりと笑った。

 この悪巧みの面白さを理解したようだ。


「乗ってくださいますか」


「もちろんだ。グレンがどんな顔をするのか、見ものだからな」


 話が早くて助かる。


「第一発見者は、レイヴン様にお願いしますか」


「僕かい?」


「ええ。適当に焼け跡で見つけたことにでもしてくれればいいです」


「……分かった。スラムで火事を見つけて消化したら遺体が出てきたとでもしよう」


「いいですね。それなら後で別の人だったという言い訳もできますしね」


 そうして段取りを決め、レイヴンが第一発見者の体で騎士団へ知らせた。



 そして今、リーネが作り上げた焼け焦げた遺体を前にグレンは期待以上にいい顔をしている。


「さてさて、どこに向かっているのでしょうか」


「この方向だと王城ではないな」


「これはもしかすると死神教団の方を優先するのかな?」


 リーネ、シリウスと合流したレイヴンの三人で姿を消したまま、グレンの後を追う。

 足取りは乱れているのに速い。焦りが、そのまま足に出ているのだろう。


 王都の通りをいくつか曲がり、やがてグレンは死神ギルドからほど近い一角で足を止めた。

 そこにあったのは、これといった看板もない、地味な石造りの建物だった。


 グレンは周囲を一度見回してから、そのまま中へ入っていった。


「ここが本拠地ですかね?」


 中は妙に静かだったけれど、奥へ進んだグレンが床の一部を持ち上げ、そのまま下へ降りていくのが見えた。


「隠し床ですか」


「いかにもという感じだね」


 地下へ意識を向けると、複数の魔素反応が感じられた。

 一人や二人ではない。ここがただの隠れ家ではなく、集まりの場であることは間違いなさそうだった。


「地下に反応がありますね。十中八九、教団の本拠地でしょう」


「なるほど」


 ようやく辿り着いた。

 あとはここを探索するだけなのだが……


「さて、殿下はここまでです」


「なんだと!?」


 突然の宣告に、シリウスは驚いてリーネを見た。


「私も行くぞ!」


「駄目です。ここからは危険です。わかっているでしょう?」


 リーネの言葉に、シリウスは言葉をつまらせる。


「しかし、リーネ殿だって、危険には変わりないではないか!」


「おやおや、お忘れですが? 私に、死神に危険があるとでも?」


 そう言われてしまっては、シリウスは返す言葉もないのだろう。

 それでも、まだ何か言いたそうな顔をしている。


「……」


「それに、別に私、一人ではありませんからね」


 そう言うと、レイヴンが迷いなく一歩前に出た。


「もちろん、お守りします」


 シリウスは、その背中を見て少しだけ眉を寄せた。

 何か言いたそうだったが、やがて小さく息を吐く。


「……今はリーネ殿のことを任せるからな。でも今だけだぞ」


「ええ。もちろん、命に代えてもお守りします」


 使徒として前に出るレイヴンを見て、リーネはほんの少しだけ口元を緩めた。


「まあ、死なない限りは回復してあげますからね。安心して盾になってください」


「……急に不安になってきたぞ」


 苦笑いをするレイヴンを見て、シリウスは笑みを浮かべ、リーネも同じように笑った。



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