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王立学園の死神は放課後に命を弄ぶ ~両親を殺された侯爵令嬢が死神となって悪人を楽しくざまぁする異世界近代魔法ミステリー!?~  作者: 猫月九日
第四幕 王都の闇編

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第23話 濡れ衣と焼死体

-----グレン視点-----


「まだ見つからんのか」


 王城近くの第二騎士団詰所で、グレンは吐き捨てた。

 目の前に並んでいるのは、役に立たない報告ばかりだった。シリウスの姿がどこにもない。

 王都に散らせた部下たちも、戻ってくるたびに首を振る。


「申し訳ありません!」


「謝罪はいらん。さっさと探せ」


 怒鳴りつけると、騎士は顔を青くして飛び出していった。

 詰所の中には、もう半分も人が残っていない。皆、王都中を走り回らせている。

 皆、この緊急事態にかかりきりになっている。


 ミゼリオール侯爵令嬢が、殿下を連れ去った。


 グレンがそう言って、皆がそれに従っている。

 あの女が悪い。そう思わせてしまえば、それで十分だった。


 今日に限って、シリウスはグレンに何も言わず出かけた。

 向かった先がリーネ・ミゼリオールのところだと知った時点で、この作戦を思いついた。


 あの女は、最初から妙だった。


 元婚約者だと聞いた時は、少しばかり未練でもあるのだろうと思った。

 だが、そうではなかった。シリウスの持つ魔道具を気にしたり、森の討伐にもついてきた。

 しかも、ユランシエル家の娘まで連れてきた。


 あの魔道具には、死神教団が入手した特別な魔石を使用している。

 森で変質した魔物から取れたものだ。

 あれが壊れ、あれよあれよという間にユランシエル家の人間にまで渡った時点で、笑い話では済まなくなっていた。


(くそっ、だからあんな魔道具渡したくなかったんだ)


 グレンの家は、代々、秘密裏に死神教団と繋がっていた。

 自分もその一人として動いてきたし、第二騎士団長になってからは、できることが一気に増えた。


 その中でも一番大きかったのが、シリウスだ。


 一人でも王族と協力関係を得られれば、それだけで動きやすくなる。

 あの王子は単純だった。信仰だの救いだのと言ってやれば、すぐその気になる。

 教団にとっても、自分にとっても、その価値は大きかった。


(それが、なぜ今になってこんなことにっ!)


 今日、シリウスはあの女から何かを聞いたはずだ。

 死神教団のことや、森のこと、それとも魔道具も。

 具体的に何を話したのかまではわからない。

 だが、グレンに疑いを向ける可能性は十分にあった。


 グレンの対応は早かった。


 リーネがシリウスを連れ回している。

 元婚約者同士で人目を避けて会っている。

 誘拐でも駆け落ちでもいい。先に噂が固まれば、後からどうにでもできる。


 見つけ次第、シリウスを連れ戻す。

 必要なら、あの女をそのまま消す。


 まだ間に合う。王都中にいる騎士がすぐに見つけ出すだろう。

 焦る必要はない。

 ただの子どもが騎士団から逃げられるはずはないのだから。


 そう思っていたところへ、扉が勢いよく開いた。


「団長!」


 駆け込んできた部下は、顔色が悪かった。

 ただ事ではないと、それだけでわかった。


「……何だ」


「スラムの端で火事です! 小屋が燃え、中から二人の遺体が見つかったと!」


「遺体だと? それがどうした。それよりも……」


 早く二人を見つけ出せと言う前に、部下が口を開いた。


「それが……殿下とミゼリオール嬢のものではないかと……!」


 何を言われたのか、一瞬わからなかった。


 だが、気がついたときには詰所を飛び出していた。


 馬を飛ばし、スラムの端へ向かう。

 近づくにつれて、鼻につく焦げた匂いが強くなっていく。


 小屋の周りは、野次馬で膨れていた。

 第二騎士団の騎士たちが押し返しているが、ざわめきは収まらない。その前に立っていたのは、レイヴン・ガレンティだった。


「……レイヴン卿」


 自分でもわかるほど、声が掠れていた。

 あの女の協力者だ。


 レイヴンは静かに振り返って、一礼した。

 いつも通りの顔だった。それが今は妙に腹立たしい。


「グレン団長」


「どういうことだ」


「火が見えたので駆けつけました。中に二人、倒れていました。もう助からない状態でした」


「確認したのか」


「ええ。残っていた上着と持ち物から、殿下とリーネ嬢で間違いないかと」


 淡々としていた。

 こいつは本当に第一発見者なのかと疑いたくなるくらいには、落ち着いていた。


 だが、今はそこに引っかかっている余裕がない。


 焼け跡の奥に、黒く崩れた塊が見えた。

 人の形をしているようにも見える。だが、近づいて確かめる気にはとてもなれなかった。


「……なぜ、二人がこんな場所にいる」


「僕にもわかりません」


 レイヴンは短く答えた。


 その横で、野次馬たちの声が耳に入る。


 元婚約者だったらしい。

 逃げてきたんじゃないか。

 駆け落ちだろう。

 いや、心中かもしれない。


 勝手なことばかり言っている。

 だが、その勝手な話が、もう形になりかけていた。


「なぜ……」


 ようやく、頬から血の気が引いているのがわかった。


 こんなつもりではなかった。


 連れ去りでも、駆け落ちでも、適当な話を作るだけでよかったのだ。

 見つけて連れ戻し、リーネに罪を被せる。それで終わるはずだった。


 なのに、ここには焼死体がある。

 第二王子の死体がある。


 護衛対象の王子を死なせた。

 そんなもの、言い逃れができるわけがない。


 第二騎士団も終わる。

 教団にも火が飛ぶ。

 自分だけで済む話ではなくなる。


 頭の中が真っ白になった。

 何から塞ぐべきか、すぐに出てこない。


「団長」


 呼ばれて、辛うじて顔を上げた。


「……この場を封鎖しろ」


 絞り出せたのは、それだけだった。


 足元が少し揺れた。

 それでも倒れなかったのは、ただ運がよかっただけかもしれない。



 そんなグレンの様子を、焼け跡から少し離れた場所で眺めている者がいた。

 もちろん、グレンには見えていない。


「顔面蒼白で面白いですねぇ」


 透明化したリーネが、その様子を見ながら薄く笑っていた。


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