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王立学園の死神は放課後に命を弄ぶ ~両親を殺された侯爵令嬢が死神となって悪人を楽しくざまぁする異世界近代魔法ミステリー!?~  作者: 猫月九日
第四幕 王都の闇編

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第20話 記録と母

(暇になりましたね)


 レイヴンはグレンのことを調べに行き、ノエラは休んだあとはリーネの渡した魔石に夢中になった。

 さらに、もうひとつノエラには一つ調査を頼んでおいた。こちらも含めて時間がかかるだろう。

 リーネとしては二人の調査を待つだけ。つまりやることがない。


(そういえば、そろそろ向かったほうがいいですかね)


 そんな時に思い出したのは死神の責務。

 魂石の奉納だ。

 最初に死神ギルドで奉納をして以来やっていないため、そろそろ溜まっているのではないかと思ったのだ。


 そういうわけで、死神ギルドへ向かうことにした。

 死神ギルドに一人で行くのは、リーネとしてはかなり珍しい。

 いつもはレイヴンと一緒に行くことが多いからだ。


(こんな自主的に仕事をしに行く、なんて立派な死神なんでしょう)


 そもそも、今まで放置していたことなどあまり考えず、リーネは死神ギルドの門をくぐった。


「……ふむ?」


 死神ギルドは他のギルドとは違って、教会のような建物をしているため、受付のようなものはない。

 いつもは誰かしら、大抵はギルドマスターのエグバートが出てきて対応をしてくれるのだが、今日に限っては誰も来ない。


(勝手にやって勝手に帰っても……ああ、鍵があるんでしたっけ?)


 奉納のための部屋には鍵がかかっているため、勝手に入ることができないのを思い出した。

 リーネとしては壊してというか、すり抜けて入ることもできるが、それはそれで面倒なことになりそうなので、やめておくことにした。


「おや、何かご用でしょうか?」


 しばらくどうしたものかと悩んでいると、奥から一人の女性がやってきた。


「どうも、魂石の奉納に来たんですけど、ギルドマスターはいますか?」


「奉納……あっ! す、すみません! 今、ギルマスは少し外に出ていまして……!」


 ギルド職員はどうやらリーネが死神であることに気がついたようで、少し慌てたものの、すぐに落ち着きを取り戻した。


「少しすると帰ってくると思うのですが……」


「ふむ……」


(やっぱり鍵を……いや、そうですね……)


「その辺を少し見て回っていても?」


 待つ間暇になるので、せっかくなら探索をしようかと思い至った。


「はい。奥の部屋には入れませんが、それ以外でしたら構いませんよ」


「ありがとうございます」


 許可をもらって、リーネはふらふらと奥へと向かった。

 何度か来たことはあるが、今までは決まった部屋に通されたりしていたので、こうして自由に歩き回るのは初めてのことになる。


 廊下を歩いていくと、ふと開いている扉を見つけた。

 なんの気もなしに中を覗くと、机と棚がいくつも並んでいる。事務部屋みたいなところらしい。


「おや? 先程の……」


 先ほど入口で会った女性が本棚の前で何かを整理していた。

 リーネに気がついたのか手を止めて、軽く会釈してくる。


「失礼いたします。何か御用でしょうか」


「いえ、なんとなく気になっただけなんですけどね」


 リーネは部屋の中を軽く見回した。


「ここは、事務部屋……いえ、資料室みたいなところですか?」


 外側から見たら事務部屋に見えたが、奥には棚のようなものがいくつも並んでいた。


「ええ、過去の記録などを保管している部屋になりますね」


「死神ギルドの記録というのは、どういうものになるんでしょう?」


「一番はお遺体や魂石に関してですね。どこからどれだけ持ち込まれて、どれだけ奉納されたかなどの記録を残しています」


「それでこれだけの量になるんですか?」


「ええ、この王都の死神ギルドが出来てからの記録がすべてここにありますから」


「へぇ……」


 相当な量だ。王都にはいろいろなところからの遺体などが持ち込まれる。それでこれだけの量になるのだろう。


「凄いですよね。私もこの仕事についてからまだ十年くらいになるのですが、その期間だけでも本棚が2つほど埋まっていますよ」


「十年ですか……それは……大変ですね……」


 ぺらりとめくってみると、細かい字でびっしりと書かれた記録が出てきた。


「慣れてしまえばそうでもありません。でも、最初の頃は大変でしたよ。前任者の方が突然亡くなられてしまって、引き継ぎも何もない状態でしたから」


 そう言いながら、職員は苦笑した。

 よほど大変だったのだろう。

 いったいどれほど悩まされたのか、見ただけでも想像ができる。


 だから、だろうか。


「前任者の方はどういう方だったのですか?」


 いつもは気にしないそんなことを聞いたのは。


「えっと、私は後に入ったのであまり良く知らないのですが……確か貴族の縁戚の方だったと思うのですが……えっと、このあたりの記録がおそらくそうだと思うのですが……」


 職員は少し奥の棚からファイルを一つ取り出してきた。


「……あ、ありました。えっと前任者の名前がですね……」


 リーネもその書類を覗き込むと、そこに書かれていた名前は……


「シエーナ・ミゼリオールさんという方ですね」


 知っている名前だった。


「……ああ」


 思わずため息が出た。


「どうかなされましたか?」


「いえ……ちょっと……納得しただけです」


 ミゼリオール。リーネと一緒の家名だ。

 それだけではない。

 シエーナ・ミゼリオールは、リーネの母の名前だ。知っていて当然だった。


「ありがとうございます」


「いえ? お役に立てたならよかったです?」


 職員は首を捻ったものの、それ以上深く聞かなかった。

 それがむしろありがたかった。



 母が死神ギルドで働いていた。

 そんな話は、一度も聞いたことがなかった。


(どうして教えてくれなかったんでしょうね)


 話す必要がなかっただけかもしれない。

 あるいは、何か理由があったのかもしれない。


 叔父の事件については、一つの解決をした。

 けれど、まだわかっていないことはある。


(これが何に繋がっていくのかわかりませんが……)


 きっと重要な事実を自分は得た。なぜかそんな確信があった。



「リーネ様」


 声をかけられてそちらを見ると、扉の外からエグバートが顔を出した。


「どうも、お待たせして申し訳ありません」


 きっとリーネが来ていることを知り、急いでやってきたのだろう。

 少し慌てたようにエグバートが言ってきた。


「いえ、こちらも突然来ましたので。それにそれほど待っていませんから」


「それならよかった」


 エグバートは細かいことを聞かずに、いつもの穏やかな顔で頷いた。


「奉納の準備ができております。ささ、こちらへ」


「はい」


 案内されて、遺体の安置所へ。そこで魂石に変えた後に、奉納の部屋へとやってきた。

 前にも来た場所だ。大きな扉も、天窓のある部屋も、もう少しだけ見慣れてきた気がする。


「いつものように、お一人でよろしいですかな」


「ええ、その方が楽ですから」


 リーネがそう言うと、エグバートは鍵を開けて中へ通し、そのまま静かに扉を閉めた。


 一人になる。

 目の前には、奉納を待つ魂石が並んでいた。


 その一つを手に取る。

 淡く光る石を見ていると、ふと、昨日見た石のことが頭をよぎった。


 理由はわからない。

 色も形も違うはずなのに、どこかで見たものに似ているような気がする。


(……なんでしょうね)


 今ここで考えても仕方がない。

 それでも、心のどこかに小さな引っかかりだけは残った。


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