第12話 整理と方針
「で、整理しましょうか」
オカルト研究部の部室で、リーネは机の上に紙を広げた。
昨夜のパーティで拾った話を、順に書き出していく。
「一つ。シリウス殿下が、教団のすごい人に魔道具を作ってもらったと言っていたこと。
二つ。その話をグレン殿が止めたこと。
三つ。殿下は次の定期討伐に同行すること。
四つ。第二騎士団は王都周辺の討伐担当であること。
五つ。商会の話では、その辺りで魔物が強くなり、騎士団は魔道具を多用しているらしいこと」
レイヴンが紙を覗き込んで、小さく頷いた。
「ずいぶんと、同じ場所に集まりましたね」
「ああ。偶然にしては出来すぎている」
王都周辺の討伐、第二騎士団、シリウス殿下の魔道具、それに教団。
まだ一本に繋がったわけではないが、無関係とも思いづらい。
(昨夜の収穫としては十分でしょう)
「ただ、殿下の言う教団が、そのまま死神教団を指すかは分かりません」
「殿下自身が、どこまで知っているかも怪しいね」
「ええ。あの殿下、深く考えずに口にしていそうではありますから」
シリウスは悪い意味で裏表のある人物には見えなかった。
だからこそ、周囲に何かあるなら、本人よりもそちらの方が気になる。
「でも、あのグレンとかいう護衛騎士が、止めたこと自体は確かです。あの場で隠したい話題だった、ということですから」
「中身を聞けなかったとしても、収穫はあったわけだ」
「ええ。追いかけ回すよりは、あれで十分ですね」
レイヴンが少しだけ口元を緩めた。
どうやら同じことを考えていたらしい。
「それと、話は変わるが……君は気がついたかい?」
紙から目を上げずにレイヴンが聞いてきた。
「なんのこととは聞きませんよ。ヴィクトル様ですよね? ミゼリオール家との関係の話をした時、一瞬だけ妙な顔をされた気もしますし」
「……気づいていたんだね」
「ええ。ただ、何かはわかりませんけどね」
少なくとも、今すぐそちらに踏み込む理由はなかった。
「となると、次に触れられそうなのは殿下の魔道具ですね」
「ああ。もう一度見られれば十分違う」
「できれば触りたいところです」
「昨夜の会場では無理だろう。グレン殿がいる」
「見ていないようで、よく見ていましたからね」
シリウスが懐から出した瞬間、グレンはすぐに止めた。
あの反応を見る限り、ただの自慢の品で片付けていいものではなさそうだ。
「でも、ちょうどよく誘われましたからね」
リーネは紙の上で指先を滑らせた。
今書いた三つ目と四つ目をなぞる。
「殿下は自分から見に来るかと言っていました。少しくらいは成長したところを見せたいのでしょう」
「君は泣き虫と言っていたけどね」
「事実でしたので」
「本人の前で言うことではないかな」
「でも、おかげでちょうどいい口実ができましたよ」
少なくとも、リーネが見学に行く理由としては十分だ。
しかもシリウスの方が乗り気なら、魔道具をもう一度見せびらかしてくる可能性も高い。
(子どもの自慢話は、二回目の方が長いものですしね)
「殿下への話は私がしておきましょう」
「助かる。騎士団側はもう少し僕の方で当たってみるよ」
「お願いします」
これで全部……ではなく、リーネはもう一つ名前を思い浮かべた。
「ノエラにも話を振ってみますか」
「ユランシエル嬢に?」
「ええ。ノエラの魔道具を見る目は確かですからね。昨夜の話を聞けば、何か思うところがあるかもしれません」
「連れていくかは、反応を見てからだね」
「いきなり危ない場所に連れ出すつもりはありませんよ。まずは相談です」
ノエラは好奇心が強い。
だが、だからといって何でも巻き込んでいいわけではない。
そこは話してから決めればいいだろう。
「では、ひとまず次は二つですね。殿下への返事と、ノエラへの相談です」
「忙しくなりそうだ」
「ええ。でも、ようやくカケラが見えてきましたね」
リーネは書き終えた紙をくるりと丸めた。
その表情は薄く笑みを浮かべているようにも見えた。




