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王立学園の死神は放課後に命を弄ぶ ~両親を殺された侯爵令嬢が死神となって悪人を楽しくざまぁする異世界近代魔法ミステリー!?~  作者: 猫月九日
第四幕 王都の闇編

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第11話 父と王子

 ワルツが終わった後、手を繋いだまま中央から遠ざかったリーネたち。

 その時、レイヴンが会場の一角に視線を向けた。


「父上が来ている」


 リーネがそちらに目を向けると、何人かの貴族と話している中年の男性がいた。

 背が高く、姿勢が良い。顔立ちはレイヴンに似ていた。少し冷たく見えるところまで似ている。


(あれが噂の元スパイの親玉ですか)


「ご挨拶した方がいいですかね?」


「君がよければそうしてくれるとありがたいね」


「ええ、では貸しひとつで」


「ははっ、貸しが溜まっていくなぁ」


 レイヴンに連れられて近づくと、相手がちょうど話を切り上げるところだった。

 そのタイミングを見計らったように、レイヴンが声をかけた。


「父上」


「レイヴンか」


 呼ばれた男が、ゆっくりと振り向いた。

 息子を見るにしては、特に温かくも冷たくもない目だった。


(距離がありますね)


「こちらはミゼリオール侯爵令嬢、リーネ嬢です」


「リーネ・ミゼリオールです。お初にお目にかかります」


「ああ、君が噂のミゼリオール家の子か。私はヴィクトル・ガレンティ。そちらにいるレイヴンの父親だ」


 差し出された手を握って離す。握り方も、挨拶の角度も、隙がない。


(政治家の挨拶みたいですね。いや、間違ってはいないですか)


 ヴィクトルは王国において確か重要な地位にいたはずだ。詳しくはリーネは覚えていない。


「レイヴンが世話になっているようだ」


「こちらこそ、お世話になっています」


「学園では研究部でも一緒と聞いている」


「ええ、生徒会長との兼任になりますが、積極的に顔を出してもらえています」


 短い返答が続く。レイヴンとヴィクトルの間にも、会話らしい会話はほとんどなかった。来賓に対応しているような空気だ。


(レイヴン様の身のこなしは、この人譲りですね)


 立ち姿も、視線の配り方も、リーネには覚えがある。腑に落ちる反面、少し妙な気持ちにもなった。


(レイヴン様が育ったら、この人に……いや、ちょっとイメージがずれますね)


 想像して少し笑ってしまいそうになるのをこらえながらリーネは話題を変えた。


「ともかく、今後もレイヴン様にはお世話になることになるでしょう。加えて、ミゼリオール侯爵家としても、ガレンティ家とは良好な関係を築いていきたいと思っています」


「ああ……こちらこそよろしく頼むよ」


(うん……なんか一瞬……)


 ヴィクトルの表情が一瞬だけ、歪んだ気がした。

 しかし、それを確かめる間もなく、


「ああっ! あれは! もしや!」


 少し遠くから聞き覚えのある声がした。


「リーネ殿! リーネ殿ではないか!?」


 人の波を分けてこちらへ向かってくる人影がある。


(おやおや、随分と懐かしい顔ですね。そうか、彼も来ていたのですね)


「お久しぶりです」


 やってきたのは、リーネよりも少し背の小さな男の子だった。

 そして、そんな彼の胸には王族であることを示す、金色の王冠の紋章がついている。


「シリウス殿下」


 彼の名前はシリウス。この国の第二王子だ。

 そして、リーネの元婚約者でもある。


「リーネ殿、久しいな! 元気そうで何よりだ」


「おかげさまで。ちなみに殿下、最後にお会いしたのは婚約破棄の場でしたでしょうか」


「うっ……そ、そうであったか」


 シリウスが一瞬言葉に詰まった。すぐに気を取り直す。

 昔のままだ、とリーネは思った。


「それで、婚約破棄もした価値のない女に今更なんの御用です?」


「あ、それは……その……」


 リーネのちょっとした皮肉に、シリウスは肩をすぼめて、しどろもどろになった。


 ちなみに、シリウスはリーネよりも三つほど歳下のまだ男の子という感じだ。

 当時はリーネのことを姉のように慕っていた。

 リーネもちょっと手のかかる弟のような感じで接していた。


(まあ、婚約破棄もこの子というよりは、周りの大人たちの都合で決まったことですしね)


「冗談です。昔の話です。当時はあれは合理的な判断でしょう」


「そ、そうか? 許してくれるのか?」


「許すもなにも、特に気にしていません」


「そうか……」


 リーネの言葉にシリウスはほっとしたように息をついた。


「そ、そうそう、紹介しておこう。我が護衛のグレンだ。第二騎士団長を務めておる」


「グレンと申します」


 後ろの大柄な男が短く頭を下げた。四十代ほどで、声も低く、無駄がない。


(第二騎士団長ですか。これはこれでちょうどいいですね)


 第二騎士団は王都周辺の魔物討伐担当だ。

 商会で聞いた「魔物異変」の現場を、最も近くで見ている人物ということになる。


(覚えておくべき顔ですね)


「第二騎士団長がご一緒とは、殿下もずいぶんと大事にされているのですね」


「違うぞ! ただ守られているだけではない。次の第二騎士団の定期討伐にも同行することになっておるのだ」


「……あの泣き虫殿下が、少しは戦えるようになられたのですか」


 つい口から出た。シリウスはむしろ嬉しそうに胸を張った。


「泣き虫泣き虫と言うな! なんなら見に来るか!」


「お忙しい殿下のお邪魔をするのも申し訳ないですし、暇でしたら」


「ふっ! そうだ、それに装備もこんな代物が手に入ったのだ! 見てくれ!」


 シリウスが急に懐から何かを取り出した。

 手のひらに収まるくらいの、装飾のある金属製の道具。中央に小さな魔石らしきものがはめ込まれていた。


「教団のすごい人が作ってくれたんだぞ! 討伐にも持っていくつもりだ」


「殿下」


 グレンが短く言った。声に少し硬さがある。


「殿下、その話は」


「む、いいではないか。リーネ殿は信用できる相手だ」


「……場をお考えください」


 シリウスが少ししぼんだ。魔道具を懐に戻す手つきが、惜しそうだった。


(教団と言いましたか? ふむ、それに殿下の魔道具を、第二騎士団長が話題にされたくない、ということですか)


 話の中身ではなく、止めたという事実だけが残った。それで十分だ、とリーネは思った。


「殿下、そろそろ」


「分かったわかった。またな、リーネ殿!」


 シリウスが手を振って去っていく。グレンが最後にもう一度こちらに目礼をして、王子の後を追った。


(殿下らしい慌ただしさですね)


 ただ、収穫は二つあった。

 第二騎士団長グレンが、シリウスの魔道具の話を止めたこと。

 そして、次のその騎士団の討伐に殿下が同行するということ。


(行く先が決まりましたかね)


 リーネはレイヴンと顔を見合わせた。

 レイヴンも同じことを考えているようだった。


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