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王立学園の死神は放課後に命を弄ぶ ~両親を殺された侯爵令嬢が死神となって悪人を楽しくざまぁする異世界近代魔法ミステリー!?~  作者: 猫月九日
第四幕 王都の闇編

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第10話 社交界とワルツ

「ミゼリオール侯爵令嬢、並びにガレンティ侯爵子息、ご到着」


 会場の入口で名前を読み上げられた。

 大広間の視線が一斉にこちらを向く。


(思った以上に注目されていますね)


「気にしなくていい」


 レイヴンが小さく言った。


「気にしてないですよ。ただ多いなと思っただけです」


「そうか」


 手を引かれて中へ進む。

 シャンデリアの下で楽団が音楽を奏でていた。あちこちで挨拶らしきものが交わされている。立食用のテーブルには酒や軽食が並べられていた。


(騎士団の制服も見えますね、あちらの一角)


 今日の目的は二つ。

 魔石不足や魔物討伐に関する話を周囲から拾うこと。

 それ以外はどうでもいい。このところ入れ込んでしまったが、ダンスはあくまでもおまけのようなものだ。


「リーネ嬢、こちらは――」


 レイヴンが何人かの貴族にリーネを紹介していく。

 名前を覚えているふりをして頷く。覚えているのは三割もない。


「ガレンティ卿、お久しぶりです」


「ええ、お久しぶりです」


 レイヴンの返事は短い。短いが、無礼にはならない加減になっている。どうやらレイヴンはこの手の挨拶には慣れているようだ。

 リーネは横で軽く会釈をしておく。


「リーネ嬢もご立派になられて。ミゼリオール侯のお孫さんでしたな」


「はい。えっと……」


 相手の名前は分からない。

 知らなかったら聞くしかない。


「……どちら様でしたっけ?」


 リーネの言葉に相手が一瞬固まった。


「リーネ嬢……」


 レイヴンが呆れたような声でため息をついた。


「ハートウェル子爵は、ミゼリオール侯の部下のようなものだ……」


「おっとそれは失礼しました。祖父は仕事のことはなかなか話しませんでしたので」


「い、いえ……それでは私はこれで……」


 ハートウェル子爵がぎこちなく笑って去っていく。

 レイヴンが小さく息を吐いた。


「リーネ嬢」


「はい」


「さすがに貴族相手にあれはまずいぞ。知らなかったとしても知っているふりをするべきだ」


「正直なのが取り柄ですので」


「君らしいといえば君らしいがな」


(怒っていないみたいですね、そこまでは)


 レイヴンの口調は淡々としていたが、嫌そうな様子はなかった。

 むしろどこか、慣れているような気配さえある。


(諦めの境地でしょうか)


 その後も何人かに紹介された。

 今度は名前を間違えないように、相手が名乗ってくれるのを待つことにした。


「ガレンティ卿、最近の魔石の流通については――」


 商人風の男性がそう切り出した瞬間、レイヴンが軽く目線でリーネに合図を送ってきた。


(よく聞いておけということでしょうかね)


「ええ、商会の方々もご苦労されているようですね」


「いやはや、騎士団様の方も魔道具に頼ることが増えているようで……」


 そのあたりの話を、リーネは横で黙って聞いていた。

 商人の口ぶりからすると、流通量の低下はそれなりに知れ渡っているらしい。

 騎士団が魔道具を多用しているという話も、商会で聞いた通りだ。


(少なくとも、嘘ではなさそうですね)


 話が一段落して、商人が去っていく。


「目的は果たせそうかい?」


 レイヴンが小声で聞いてきた。


「ええ、少なくとも、知る人は知っているということがわかりました」


 もちろん、原因などについては、もうちょっと探る必要がある。

 そのためには、もっと詳しい人に話を聞く必要があるのだろう。

 そろそろ、騎士団の人たちとも話をしたいところだ。


 そんなことを考えた、その時、楽団の音楽が変わった。

 ワルツの旋律が会場に流れ始める。

 あちこちでカップルがフロアに進み出ていた。


「リーネ嬢」


 レイヴンが当たり前のように手を差し出してくる。


「……踊ろうか」


「ええ」


 リーネはその手を取った。

 そもそも、ダンスパーティーということはこれがメインなのだから。


 フロアに出る。

 レイヴンの右手がリーネの腰に回り、左手がリーネの右手を握った。

 ノエラに教わった通りに、軽く相手の肩に手を置く。


「リードする」


「お願いします」


 最初の一歩が踏み出される。

 ノエラの仕込みのおかげか、足が勝手に動いてくれた。前、横、閉じる。後ろ、横、閉じる。


(思ったよりは動けますね)


 レイヴンのリードはとても丁寧だった。

 次の動きの予兆を、手と腰の押し引きで小さく伝えてくる。それに合わせるだけで、自然にステップが繋がっていく。


「思っていたよりも上手いね」


「ええ、練習をしましたからね」


「ノエラ嬢か。ずいぶんと熱心に教えていたみたいだね」


(鼻歌つきでしたよ、と言ったら笑うでしょうか)


 二曲目の途中で、レイヴンがふっと小さな声で言った。


「似合っているよ。朝とは違う」


「……」


 リーネは一瞬きょとんとした。

 朝とは違う、というのはドレスのことだろう。それは分かる。


「おやおや」


「……ん?」


「私を口説いてどうするつもりですか?」


 レイヴンが目を見開いた。

 次の瞬間、視線を斜め上に逸らした。


(あら、思ったより効きましたね)


「冗談ですよ」


「……そう」


「真に受けないでください、レイヴン様らしくない」


「いや……すまない」


 ステップが少しだけ乱れた。

 すぐに戻ったが、リーネには分かった。


(レイヴン様でも、こういう冗談には弱いんですね)


 二曲が終わる頃、リーネはなんとなく機嫌がよかった。

 理由はよく分からない。

 ただ、踊ること自体が思っていたよりも嫌いではなかったのだろう。


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