第8話 俺たちが見つけた場所は別部隊に渡されて、ガンツを迎えに行くことも許されませんでした
第7小隊が遭遇した黒い大型個体。
解析の結果、暫定的な分類名が与えられます。
そして。
ガンツを迎えに行きたい第7小隊にも、管制から回答が届きます。
翌日。
第7小隊の待機室は、いつもより静かだった。
部屋にいるのは、キョウジ、カイ、リオ、ユーリの4人。
席はもっとある。
昨日までセナとガンツが使っていた場所も、そのまま残っていた。
ただし、2人の装備はもうない。
管理部によって回収され、ガンツが盾の補修に使っていた材料も、セナの工具ケースも片づけられていた。
人だけがいなくなった時より、何も置かれていない棚の方が、そこに誰かがいたことをはっきり思い出させる。
ユーリが空いた席を見ながら口を開いた。
「カイさん」
「どうした」
「昨日の、あの大型」
C-12で遭遇した黒い個体。
「やっぱり俺たちの動き、読んでましたよね」
カイは端末から顔を上げた。
「俺もそう思う」
「小さい奴らも、ただ襲ってきたんじゃなかった」
ユーリは昨日の動きを思い出しながら続ける。
「道を塞ぐ奴がいて、別の奴が後ろへ回って、こっちの進む方向を変えさせてた」
リオも頷いた。
「地上に出てからも同じだったよね。私たちが進もうとした方向へ先回りしてた」
ユーリの視線が、またガンツの空席へ向く。
「……ガンツさん、最後まであいつを止めてたんですよね」
「ああ」
カイが答える。
「どれくらい?」
「正確には分からない」
代わりにリオが言った。
「でも、私たちが帰れるだけの時間は作ってくれた」
ユーリはしばらく黙った。
やがて小さく息を吐く。
「迎えに行きたいですね」
キョウジが答えた。
「申請は出してある。すぐ許可されるかは分からない」
「でも、行けるようになったら行く」
ユーリは頷いた。
「……はい」
今度はリオが、もう1つの空席を見る。
「セナも、もうリターンチャンバーなんだよね」
「ああ」
「昨日まで、そこにいたのにね」
誰も答えなかった。
同じ待機室。
同じ第7小隊。
それでも、昨日までとはもう違う。
その時だった。
『キョウジ』
ミオの声が入る。
「どうした?」
『依頼されていた記録照合が一部完了しました』
全員の視線が上がった。
「ちょうどいい」
キョウジが端末を開く。
「何が分かった?」
◇
壁面モニターへ、C-12での戦闘映像が表示された。
黒い大型個体。
その周囲を動いていた小型個体。
『過去3年間にC-12地区および周辺で確認された既知のアバレントと照合しました』
ミオが説明を始める。
『形態、体格、行動速度。いずれも既知種とは大きな差異があります』
ユーリが画面を見る。
「つまり、今まで確認されてた奴とは別物ってことですか?」
『その可能性が高いです』
映像が地図へ切り替わった。
第7小隊の移動経路が青。
黒い個体の位置が赤で表示されている。
第7小隊が動くと、それに合わせて赤い点も動く。
1体が前へ回り込み、進路を塞ぐ。
別の1体が後方から距離を詰める。
第7小隊が方向を変えると、今度は小型個体もすぐに配置を変えた。
ユーリが身を乗り出す。
「ほら。やっぱり誘導してるじゃないですか」
『その可能性があります』
「まだ可能性なんです?」
『大型個体から小型個体への明確な伝達手段が確認できていません』
カイが画面を見る。
「命令を出してる様子はない」
「でも、動きだけは揃ってる」
『はい』
キョウジは映像を少し戻した。
第7小隊が方向を変えた瞬間、小型個体も動いて先回りしている。
「偶然にしては出来すぎだな」
『もう1点あります』
ミオが別の数値を表示した。
『既存種との形態照合率は23%です』
ユーリが顔をしかめる。
「低っ」
「個体差では説明できないってこと?」
『はい』
ユーリは画面の大型個体を見る。
「じゃあ、こいつら何なんです?」
『現時点では判断できません』
「分からないことばっかりだな……」
『そのための調査です』
「正論で殴らないでくれます?」
カイが少しだけ笑った。
その時、端末へ通知が表示された。
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第7小隊
任務管制室へ出頭
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ユーリがそれを見る。
「こういう時だけ早いなあ」
カイが言う。
「昨日は遅いって文句言ってなかったか?」
「ちょうどよくやってほしいんですよ」
「注文が多いな」
キョウジが立ち上がった。
「文句は歩きながら言え。呼び出しは消えないぞ」
◇
任務管制室。
壁面モニターにはC-12地区の地図と、昨日の大型個体が表示されていた。
担当官が第7小隊の4人を見る。
「解析結果が更新された」
大型個体の映像が拡大される。
「第7小隊が遭遇した個体について、既知のアバレントから大きく逸脱した形態が確認された」
担当官は続ける。
「さらに、周辺の小型個体を統率していた可能性もある」
ユーリが小さく呟く。
「やっぱり……」
「正式分類には追加情報が必要だ」
画面が切り替わる。
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暫定分類
変異指揮種
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「現時点をもって、大型個体を《変異指揮種》として扱う」
ユーリが表示を読む。
「変異指揮種……」
「今後、同様の個体を確認した場合は既知種とは分けて報告すること」
「了解」
キョウジが答えた。
担当官は次の資料へ切り替える。
表示されたのはC-12の地下商業区画。
そして、第7小隊が見つけた未登録経路だった。
「続いて、この未登録経路について」
その言葉を聞いた瞬間、キョウジは嫌な予感がした。
「調査を第2小隊へ引き継ぐ」
ユーリが顔を上げる。
キョウジも担当官を見る。
「第7小隊は、以後この調査から外れる」
室内が静かになった。
キョウジが口を開く。
「待ってくれ」
担当官を見る。
「未登録経路の調査はいい。第2小隊に任せても構わない」
少し間を置く。
「でも、ガンツがまだC-12にいる」
昨日、第7小隊から回収申請を出している。
「俺たちで迎えに行かせてくれ」
「申請は確認している」
「なら」
「許可できない」
即答だった。
ユーリの表情が変わる。
キョウジは聞いた。
「理由は?」
「変異指揮種が生存している。C-12周辺のアバレント分布も再調査が必要だ」
担当官はさらに続ける。
「それに、第7小隊は昨日2名を失った」
誰も言葉を挟まない。
「人的損耗を受けた小隊を、遺体回収のために同区域へ再投入することは認められない」
キョウジは食い下がる。
「場所は分かってる。道路管理施設まで行って、ガンツを回収して戻るだけだ」
「昨日、その区域で2名を失っている」
担当官の返事は変わらない。
「だからこそ、同じ小隊を戻せない」
正しい判断だということは、キョウジにも分かっていた。
だからこそ、余計に納得できない。
「じゃあ」
横からユーリの声が入った。
「ガンツさんはどうなるんです?」
担当官が見る。
「安全が確保され、回収可能と判断された段階で対応する」
「回収可能なら?」
ユーリの声が強くなる。
「そのままになる可能性もあるってことですか?」
「そういう意味ではない」
「では、第2小隊に頼めないんですか?」
ユーリは止まらなかった。
「どうせC-12へ行くんでしょう?」
「第2小隊の目的は未登録経路の調査だ」
担当官が答える。
「ガンツ・ベルグ隊員の死亡地点とは区域が異なる。遺体回収のための経路変更を命令する予定はない」
「でも!」
「ユーリ」
キョウジが止めた。
ユーリが振り返る。
キョウジだって納得しているわけではない。
「俺が話す」
改めて担当官を見る。
「ガンツは第7小隊の隊員だ」
「承知している」
「回収できる状況になったら、必ず俺たちへ知らせてくれ」
「要請として記録する」
キョウジはそれ以上言わなかった。
ガンツの遺体を取り戻すために、また誰かが死ぬ。
そんなことは許せない。
もし自分が隊長ではなく、担当官の位置にいたら。
同じ判断をするかもしれない。
それが分かるから、なおさら腹が立った。
◇
担当官は話を続けた。
「第7小隊には別任務を割り当てる」
地図の表示範囲が広がる。
C-12よりさらに外側。
旧ハルシオン北西部。
「48時間後、この区域の広域探索へ出てもらう」
ユーリが思わず聞き返した。
「48時間後?」
「目的はアバレント分布の調査」
担当官は地図上へ調査区域を示す。
「それと、変異指揮種と同様の個体が他区域にも存在するかの確認だ」
カイが聞く。
「未登録経路は?」
「近づくなということでしょうか」
「そう理解して構わない」
キョウジはC-12の表示を見る。
自分たちが見つけた、地図にない道。
そこは別の小隊へ引き継がれる。
ガンツを迎えに行くこともできない。
それでも48時間後、第7小隊は別の場所へ地表任務に出る。
「了解」
キョウジは答えた。
◇
管制室を出ると、最初に口を開いたのはユーリだった。
「隊長」
「何だ」
「あれ、納得してます?」
「どれだ?」
「第2小隊に取られたのも、ガンツさんのことも」
少し考えてから付け足す。
「両方です」
キョウジが笑った。
「正直でいいな」
「笑い事じゃないですよ」
「分かってる」
「だったら――」
「分かってるから、俺も迎えに行くって言ったんだ」
ユーリは黙った。
少しして、今度はカイを見る。
「カイさんは?」
カイはすぐには答えなかった。
「納得できるかどうかと、判断が正しいかどうかは別だ」
ユーリが顔をしかめる。
「またそれ……」
するとカイの声が少し低くなった。
「俺だって迎えに行きたい」
ユーリが止まる。
「でも、昨日の俺たちを見ただろ」
カイは続ける。
「戻って、もう1人死んだら、ガンツが何のために残ったのか分からなくなる」
「……それは」
「だから今は待つ」
ユーリは納得していない。
それでも反論はできなかった。
今度はリオを見る。
「リオは?」
「迎えに行きたいよ」
即答だった。
「でも」
リオは少し考えてから続ける。
「ガンツさん、私たちが迎えに行って、また誰か怪我したら困ると思う」
ユーリが聞く。
「怒るかな」
「怒らないかも」
リオは少し笑った。
「でも、すごく困った顔はすると思う」
ユーリの口元が僅かに緩む。
「……それはしそう」
「でしょう?」
ほんの少しだけ、空気が軽くなった。
しばらく歩いてから、ユーリが言う。
「俺も、そのうちこういうの割り切れるようになるんですかね」
キョウジは少し考えた。
「そのうち慣れるさ」
「慣れたくないですけどね」
「なら、そのままでいろ」
ユーリがキョウジを見る。
「ただ、その方が慣れるより難しいぞ」
少しだけ沈黙があった。
「隊長」
「何だ」
「たまに妙なこと言いますよね」
「妙ってなんだよ」
「褒めたんですけど」
「もっと分かりやすく褒めろ」
リオが笑った。
カイも少しだけ笑う。
◇
通路の分岐で、キョウジは足を止めた。
「今日はもう休め。せっかく48時間ある」
ユーリが聞く。
「隊長は?」
「俺も帰る」
『それを推奨します』
ミオがすぐに口を挟む。
ユーリが笑った。
「ほら。ミオまで」
「昨日からずっと言われてるんだよ」
『正確には3回です』
「数えてたのか?」
『記録しています』
ユーリがさらに笑う。
「じゃあ4回目も言ってもらえば?」
『必要であれば』
「いらないよ」
少しだけ。
いつもの第7小隊らしい会話だった。
それでも、この場にいるのは4人しかいない。
48時間後。
彼らはまた地表へ向かう。
ガンツを迎えに行くためではない。
自分たちが見つけた未登録経路を調べるためでもない。
別の任務だ。
仲間を失った翌日でも。
まだ1人を地表に残していても。
第7小隊の次の任務は、もう決まっていた。
読みいただきありがとうございます。
黒い大型個体は――
《変異指揮種》
として暫定分類されました。
しかし。
第7小隊が発見した未登録経路は第2小隊へ。
ガンツの回収も許可されません。
そして48時間後。
第7小隊には、もう次の地表任務が待っています。




