↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/34

第4話 ハウラーの群れが俺たちを襲わず逃げてきたので、奥にいる「何か」から逃げることにしました

第7小隊の次の任務は、旧地下鉄Cラインの巡回。


ハウラーの痕跡が増えている。


ただ。


どうやら増えた理由は、繁殖ではなさそうです。



第7小隊の今回の任務は、旧地下鉄Cラインの巡回だった。


セーフハウス候補の確認、旧電力ラインの調査、そして予定地点までの巡回。


やることは、その3つだ。


「予定通りなら、今日中には戻れそうですね」


カイが端末を閉じた。


第7小隊の副隊長であるカイは、右脇腹の負傷から数週間ぶりに復帰したばかりだった。すでに復帰審査は通っている。


それでもユーリは気になるらしい。


「副隊長、本当に平気なんです?」


「装備室でも聞いただろ」


「聞きましたけど、『問題ない』しか言わなかったじゃないですか」


「じゃあ今は長く言う」


カイが少し考える。


「問題ないから、ここにいる」


ユーリはすぐに顔をしかめた。


「長くなっただけで内容一緒ですよ」


リオが笑う。


「痛くなったら、ちゃんと言ってね」


「そこまで信用ない?」


「信用してるから言ってるの」


そのやり取りを聞いて、セナまで笑った。


卓を囲んでいるのは6人。


キョウジ、カイ、リオ、ユーリ、セナ、ガンツ。


ただ、椅子は1つ余っている。


ユウトが死んだからだ。


誰も、その空席には触れなかった。


キョウジは端末の地図を拡大する。


「最近、ハウラーの痕跡が増えてる」


全員の視線が集まった。


「ただし、今回は巣を探す任務じゃない。予定地点まで行って、見つけたものを持ち帰る。それで十分だ」


『地表昇降機からC-12までは、実移動距離で約9kmです』


ミオが補足する。


ユーリが嫌そうな顔をした。


「9km……」


セナが横から言う。


「帰りもあるよ」


「今のは聞かなかったことにする」


「じゃあ言わなかったことにする」


「助かる」


キョウジは端末を閉じて立ち上がった。


「30分後。昇降機前に集合」


         ◇


地表へ出ると、旧ハルシオン市街は白い雪に覆われていた。


崩れた高層建築の間を、かつて道路だった場所が伸びている。その両側には、長い年月を雪に埋もれてきた大量の車両が残されていた。


ユーリがその残骸を見ながら言う。


「これ全部、昔は道路だったんですよね」


「そうらしいな」


「毎日こんなに車が走ってたのかな」


セナも周囲を見回す。


リオが答えた。


「これでも足りなかったんじゃない?」


地表で人間が暮らしていた時代。


何万人、何十万人、それ以上の人間が毎日のように地上を移動していた。


ネオ・ヘイヴンで暮らす今となっては、簡単には想像できない光景だった。


「隊長」


カイが足を止めた。


防護壁に、4本の深い爪痕が残っている。


雪に覆われていないところを見ると、新しいものらしい。


「ハウラーでしょうか」


「追えるか?」


カイが周囲を確認する。


「雪が崩れてます。難しいですね」


キョウジはすぐに判断した。


「位置だけ記録する。追わない」


任務外のものを不用意に追わない。


地表で生き残るための基本だった。


         ◇


旧地下鉄Cラインの入口にも、複数の足跡が残されていた。


新しいものと古いもの。


地下へ向かっているものもあれば、外へ出ているものもある。


「かなり使われてますね」


カイが言う。


『現在、大型の生体反応は確認されません』


ミオの報告を聞き、キョウジは地下へ続く階段を見た。


「予定通り入る」


6人で階段を降りていく。


地表の風音はすぐに遠ざかり、代わりに水滴の落ちる音が聞こえ始めた。


古い地下鉄施設は暗い。


隊員たちのライトが、壁や床を順番に照らしていく。


「ここ、店があったのかな」


セナが壁際を見る。


『旧施設図では商業区画です』


「駅で買い物して、そのまま電車乗ってたんだ」


ユーリが感心したように周囲を眺める。


キョウジは前を見たまま言った。


「観光は帰ってからにしろ」


「帰ってから地下鉄観光する場所ないですよ」


「じゃあ諦めろ」


         ◇


線路へ降り、そのまま奥へ進んだ。


しばらくすると、爪痕が目立つようになってきた。


最初は数本だったものが、進むほど増えていく。


壁にも、床にも、横穴の周囲にも残っていた。


泥の上には足跡もある。


「巡回報告より多いですね」


カイがそう言った直後、後方で水が跳ねた。


全員が足を止める。


ガンツが振り返った。


「俺じゃない」


ライトを向ける。


横穴から線路へ向かって、濡れた足跡が続いていた。


さっき通った時にはなかったものだ。


キョウジがアークブレードを抜いた。


「来るぞ」


暗闇の奥から唸り声が聞こえた。


やがてハウラー級が姿を現す。


1体、2体、3体。


さらに2体が続き、全部で5体。


第7小隊はすぐに迎撃へ入った。


カイの蛇腹剣が伸び、ハウラーの動きを止める。


セナのソードが首元を切り裂き、ガンツは大型シールドで突進を受け流す。


リオが双剣で側面へ入り、ユーリのアークアンカーが逃げ場を奪う。


キョウジもアークブレードを振るい、5体を順番に仕留めていった。


戦闘は数分もかからなかった。


「怪我は?」


確認すると、全員から問題なしの返事が返る。


だが、カイは倒したハウラーではなく、足元の泥を見ていた。


「隊長」


「何だ?」


「これを見てください」


今倒した5体の足跡に混じって、もっと小さな痕跡が残っている。


リオも覗き込んだ。


「この大きさ、今の中にはいなかったよね」


「いませんでした」


カイは周囲へライトを向ける。


泥の上だけではない。


壁際や横穴の周辺にも、同じような痕跡が残っている。


「それに、足跡の数が多すぎます」


倒したハウラーは5体。


だが、この場所を通った個体は明らかにそれより多かった。


キョウジは奥の暗闇へ目を向けた。


「記録しておけ。先へ進む」


         ◇


セーフハウス候補は、古い保守室だった。


厚い金属扉が残っており、内部も大きく崩れてはいない。


カイが一通り確認する。


「これなら使えそうですね」


「条件付きだな」


キョウジが壁の奥を示した。


小さな穴が開いている。


その周囲にも、さっき見つけたものと同じような爪痕が残っていた。


「この大きさなら、小型個体が入れます」


カイが言う。


「塞げる?」


「補強すれば」


「なら、その条件も含めて報告だ」


続いて旧電力ラインも確認した。


出力は低いが、導通反応は残っている。


ここまでの任務は、ほぼ予定通りに進んでいた。


         ◇


確認作業を終え、第7小隊は15分の休憩を取った。


キョウジは端末へ記録された足跡を見ていた。


古いものと新しいもの。


それぞれが向いている方向。


隣で見ていたカイも、やがて同じことに気づいた。


「……これ」


「分かったか?」


「新しい跡ほど、奥から戻ってきています」


セナが端末を覗く。


「戻ってる?」


「そう見える」


その時だった。


左側の側線から、爪が床を叩く音が聞こえた。


しかも1体ではない。


「来る!」


ガンツがシールドを構え、リオとセナもすぐに武器を抜いた。


暗い側線からハウラー級が飛び出してくる。


1体、2体、3体。


その後ろからさらに続き、全部で6体。


第7小隊は迎撃できるように身構えた。


だが、先頭のハウラーは襲ってこなかった。


キョウジたちの前を横切り、そのまま反対側の通路へ走っていく。


続く個体も同じだった。


「……無視された?」


ユーリが呟く。


「撃つな」


キョウジが制止する。


「通せ」


6体すべてが目の前を駆け抜けた。


群れの中には、先ほど痕跡だけを確認した小型の個体も混ざっていた。


最後の1体まで暗闇へ消えたところで、カイが群れの出てきた方向を見る。


「こっちへ集まってるんじゃない」


その先は物流駅側へ続いている。


「奥から逃げてきてる」


ユーリもそちらを見る。


「俺たちより急いでましたよね」


その直後。


足元から低い振動が伝わった。


ドン、と重い音が地下へ響く。


全員が黙る。


少しして、もう一度。


今度は天井から埃が落ちた。


『隊長』


ミオの声が入る。


『探査範囲の外縁で、大型の生体反応を一時検出しました』


「ハウラーか?」


『体格推定が一致しません』


3度目の振動が来た。


さっきより近い。


キョウジは迷わなかった。


「戻るぞ」


ユーリが聞く。


「確認しなくていいんです?」


「俺たちの仕事じゃない」


第7小隊はすぐに撤退を始めた。


         ◇


走り始めて約1分。


背後から大きな破砕音が響いた。


『大型反応、後方約280m』


ミオが報告する。


「速度は?」


『第7小隊を上回っています』


「最悪だな」


一度確認したセーフハウスへ戻る案が浮かぶ。


だが、カイがすぐに首を振った。


「あそこは出口が1つです」


「籠もれば終わるな」


「そうなります」


「別経路は?」


『前方120mに非常階段があります』


「現状は?」


『未確認です』


「十分だ」


旧商業区画を走り抜ける。


やがて、非常階段へ続く金属扉が見えた。


ガンツが押す。


動かない。


「下がれ」


もう一度、力を掛ける。


カイも加わった。


錆びついた金属が軋み、固定部分が裂ける。


扉が開いた。


「通れ!」


6人が次々と中へ滑り込む。


その直後、背後で壁が壊れるような音が響いた。


         ◇


非常階段は、地表まで約38m続いていた。


何度も折り返しながら上へ伸びている。


カイが見上げた。


「走るしかないですね」


「他に案は?」


「ないです」


「なら行くぞ」


6人が階段を上り始めた。


その時、下の方から大きな音がした。


何かが姿を現す。


最初に見えたのは、太く黒い前肢だった。


続いて、細長い巨体が暗闇から出てくる。


肢は6本以上。


目らしいものは見当たらない。


頭部には縦に裂けた口があり、全身は黒い外殻に覆われていた。


その身体に、何か白いものが挟まっている。


やがて、それが階段へ落ちた。


骨だった。


ハウラーの頭骨。


ユーリの声が震える。


「……食ってる?」


大型個体が階段側へ身体を向けた。


目はない。


だが、こちらの存在には気づいている。


次の瞬間、複数の肢を壁へ掛けた。


キョウジが叫ぶ。


「上がれ!」


大型個体は、階段を使わず壁を登ってきた。


第7小隊は何度も折り返しながら上がらなければならない。


相手は壁を一直線に進める。


このままでは追いつかれる。


「隊長!」


カイが途中で足を止め、蛇腹剣型アークブレードを展開した。


「上の1段を落とします!」


「やれ!」


ガンツ、リオ、ユーリ、セナを先へ行かせる。


残ったキョウジとカイは、階段を支える鉄骨へ向かった。


カイの蛇腹剣が支柱へ食い込む。


1本目を切る。


続いて2本目。


下から大型個体が急速に迫ってくる。


「隊長、先に!」


「切った奴が最後まで見ろ」


「そういうところだけ律儀ですね!」


「今さら知ったか!」


最後の支柱を切断した。


階段の一部が大きく傾き、そのまま鉄骨ごと下へ崩れ落ちる。


大型個体へ直撃した。


黒い巨体は崩れた階段に巻き込まれ、そのまま下層へ落ちていく。


轟音が地下へ響いた。


「行くぞ!」


キョウジとカイも残った階段を駆け上がった。


         ◇


地表出口を抜けると、すぐに雪と冷気が吹きつけてきた。


キョウジは周囲を確認する。


ガンツ。


リオ。


ユーリ。


セナ。


カイ。


そして自分。


6人全員いる。


「ミオ。大型は?」


すぐには返事がなかった。


数秒後。


『地下約30mで反応を確認』


キョウジは地下へ続く出口を見る。


『生体反応は――』


さらに少し間が空いた。


『消えていません』


あれだけの高さから、崩れた階段ごと落とした。


それでも。


地下にいる何かは、まだ生きていた。

お読みいただきありがとうございます!


ハウラーは第7小隊を襲わず、


何かから逃げていました。


そして現れた黒い大型個体。


非常階段ごと落としても――


まだ生きています。


次回、第7小隊は地上でも追われます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。