第27話 帰還直後に緊急再招集を食らったので、最速で指揮個体を討伐して寝ることにした
いつもお読みいただきありがとうございます!
前回(第26話)は第8小隊の視点から、アバレントたちの不気味な連携と「5年前の嫌な記憶」が描かれました。
そして今回は舞台が戻り、第2小隊――シエルたちの出番です。
過酷な任務から帰還してようやく手に入るはずだった「休日」を理不尽に奪われた3人。
文句を言い合いながらも、現場に出れば最強の連携を見せる第2小隊の活躍をお楽しみください!
地下都市ネオ・ヘイヴン、GRID本部。
地上任務から戻って数時間。
ベッドへ倒れ込む寸前で届いた緊急再招集に、俺は心底うんざりしていた。
「本部直々って、何だろうね」
金髪ショートのアンが首を傾げる。
「ろくな話じゃないに決まってる」
「まだ何も聞いてないじゃない」
「帰ってきたばかりの部隊を呼び戻して、いい知らせだったためしがあるか?」
「ないな。ゼロだ」
後ろを歩く黒髪長身のラルクが、迷いなく切り捨てた。
「今日は部屋で泥のように寝る予定だったんだよ。完璧だったのに」
「随分と小さい完璧ですこと」
「休みの予定に規模なんか関係ない」
「俺は美味い飯を食う予定だった」
「それだけ!?」
「大事だろ」
「はぁ……こっちも小さい」
そんなアホな口論をしながら、ブリーフィングルームの扉を開けた。
◇
部屋の中央に浮かぶ立体地図。
作戦コードを見た瞬間、俺たちの気怠さは消えた。
――C-12。
担当官が冷淡に告げる。
「第2小隊にはC-12地区へ向かってもらう。第7小隊が接触した大型個体――変異指揮種の討伐だ」
「第7小隊の被害は?」
「2名死亡。1名は大型個体との交戦によるものだ」
空気が冷える。
「残った群れとボスの始末ですね。データさえ貰えれば十分です」
俺が頷いた瞬間、隣のラルクが手を挙げた。
「担当官。これ、今日じゃないとダメですか?」
「……何か問題が?」
「いや、うちの隊長が今日は寝たいらしいんで」
「お、おいバカ!!」
吹き出すアン。
凍りつく担当官。
「……シエル部隊長、支障があるのか?」
「ありません! こいつの戯言です!」
「くだらん雑談は任務後にしろ」
部屋を出た瞬間、俺はラルクの鳩尾に軽く拳を叩き込んだ。
「何で本部に休日の直談判してんだよ!」
「聞くだけならタダだろ」
「『隊長が寝たいんで』は草」
「アンも煽るな! 寿命が縮んだわ!」
◇
昇降機で地上へ向かう。
「そういえばさ、広場にいた大道芸人、どっちがジョンだっけ?」
「任務直前にその話いる!?」
「暇なんだもん。隊長は何考えてたの?」
「帰ったら何食うか」
「似たようなもんじゃん!」
赤が火吹きか、白がジャグリングか。
不毛な議論を続けていると、耳元の通信機から呆れた声が割り込んできた。
『……そろそろ話しかけてもよろしいですか』
専任オペレーターのペイロだ。
「ペイロ、聞いてたの? どっちがジョン?」
『知りません。あまりにくだらなすぎて通信に入るタイミングを逃しました』
「相変わらず口が悪いな、お前」
『では、任務の話をします』
プシューッと扉が開き、極寒の風が吹き込んできた。
◇
一面の銀世界。
人類が地下へと追いやられ、足を踏み入れることすら禁じられた極寒の地上。
見上げる空は、地下のスクリーンとは違う重苦しい鉛色だ。
『目的地はC-12地区。北西へ約6.8キロです』
「いい散歩だな」
「帰ったら大道芸人見に行こうね」
「はいはい」
軽口を叩き合いながらも、旧高速道路へ足を踏み入れた瞬間、俺たちの意識は完全に戦闘へ切り替わっていた。
死角を潰す三人陣形。
崩れかけたサービスエリアや商業地区の残骸を抜け、雪に埋もれた廃墟を進む。
『――停止してください』
ペイロの警告で、全員がピタリと足を止めた。
『左前方90メートル、熱源反応。……追加多数! 10、20、なお増加中!』
「やっぱり湧いてきやがったな」
ラルクがハルバードを構える。
建物の陰から飛び出してきたのは、爛れた皮膚と剥き出しの牙を持つ四足の異形――中型アバレント『ハウラー級』の大群!
「ラルクは右! アンは左と後ろ!」
「了解!」
「前は俺が通す!」
背中から引き抜いた両刃剣が、甲高い起動音とともに青白い光刃を吐き出す。
突っ込んできた先頭を、すれ違いざまに首筋から両断!
返す刃で背後の2体目の頭蓋を叩き割る!
右から回り込む獲物はラルクのハルバードが受け流して喉を突き破り、左からの影はアンの大鎌が壁へ叩きつける!
『敵反応40を超過!』
「聞かなきゃよかった!」
「気にするな、手元だけ見ろ!」
俺が切り裂き、ラルクが押し返し、アンが死角を狩る。
だが――ある地点を境に、群れの動きがガラリと変わった。
ただ突っ込んでくるのではなく、統率されたように左右へ展開し、前方を塞ぎ始めたのだ。
「……ラルク」
「ああ。ただ数で圧してきてるんじゃないな」
こいつらは、俺たちを殺そうとしているんじゃない。
この先の「何か」へ行かせないために壁を作っている!
「ペイロ、第7小隊のデータと照合!」
『一致します! 大型個体に近づくほど、統率行動が強化されています!』
「当たりだ。ボスが近いぞ!」
俺たちは戦術を切り替えた。
殲滅じゃない。「突破」だ!
ラルクが前列を強引にこじ開け、アンが左右を刈り取る!
開いた最短ルートを、俺が光刃を煌めかせて駆け抜ける!
『大型熱源、至近! 北東約200メートル!』
崩れた高架をくぐり抜け、開けた交差点へ躍り出た。
周囲のビルは基礎ごと抉られ、凄まじい暴力の爪痕が円状に広がっている。
その時。
周囲を取り囲んでいたハウラー級たちが、ピタッと威嚇を止めた。
怯えるように身を低くし、蜘蛛の子を散らすようにサァッと左右へ退いていく。
「……来るぞ」
俺たちは武器を構え、背中を合わせた。
『大型反応、急速接近!』
「どこからだ!?」
『――上です!!』
ズドォォォォォンッ!!!!
頭上の高架が爆ぜ、灰色の空から巨大な影が降ってきた。
激突と同時に、数トンの雪と瓦礫が爆風のように吹き荒れる。
瞬時に左右へダイブし、距離を取る。
白煙の奥から響く、地を揺らす重低音の唸り声。
『照合完了。第7小隊を壊滅に追い込んだ大型個体――変異指揮種です!』
煙が晴れる。
そこにいたのは、通常種の数倍はある巨躯に、黒鋼の装甲を纏った異形。
第7小隊の仲間を食らい、この廃墟に君臨し続けていた「残された標的」。
ドスン、と太い前脚が一歩踏み出されるだけで、アスファルトが粉々に砕け散る。
「まいったな」
俺は両刃剣のグリップを強く握り込み、ニヤリと笑った。
「予定通りにシャワー浴びて寝るのは……少し遅くなりそうだ」
怪物の鼓膜を裂く咆哮が、死んだ街を揺るがした。
第27話をお読みいただきありがとうございました!
休みたいシエルのささやかな願いを打ち砕き、頭上から派手に降ってきたのは、第7小隊を壊滅させた因縁の「変異指揮種」。
果たして第2小隊はコイツを最速で片付けて、無事にベッドへ潜り込むことができるのか――!?
次回、シエルたちの本領発揮となる大型種との激突です。お楽しみに!
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