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第2話 初任務で死んだ新人を連れて帰ったら、第7小隊が5人から4人になりました

地表任務から帰還した第7小隊。

朝は5人。

帰ってきた時には4人でした。


帰還用昇降機が、地表からネオ・ヘイヴンへ向かってゆっくりと降下していた。


数時間前にも乗った、同じ巨大な鉄の箱。


壁際の座席も、中央へ固定された資材も変わっていない。


だが、行きと帰りでは1つだけ大きく違うものがあった。


中央に置かれた、黒い搬送棺。


その中にはユウトがいる。


今日、第7小隊へ配属されたばかりの新人。


初めて地表へ出て、その初任務で死んだ。


昇降機の中では、誰もほとんど口を開かなかった。


低いモーター音だけが、一定の間隔で鉄の壁を震わせている。


キョウジは壁へ背を預けたまま、黒い棺を見ていた。


朝、同じ昇降機で地表へ向かっていた時。


ユウトは何度もソード型アークブレードの安全装置を確認していた。


そしてレイジへ聞いた。


「自分……生きて帰れますかね」


レイジは答えた。


「知らん。ただ、俺たちは全員、帰るつもりで行く」


帰ってきた。


ほとんど全員が。


ただ1人を除いて。


棺の横にはガンツが立っていた。


昇降機が揺れるたび、黒い棺へ手を伸ばして固定具を確認する。


外れていないことくらい、本人にも分かっているはずだった。


それでも揺れるたびに触れていた。


向かい側では、セナがユウトのソード型アークブレードを抱えている。


新品に近い。


グリップにもほとんど傷はなく、刃元にも使い込まれた跡はない。


武器が馴染むより先に、持ち主がいなくなった。


昇降機がまた揺れた。


セナの腕の中でソードが僅かに傾き、隣にいたリオがすぐに手を添える。


「落とすよ」


「……うん」


それだけだった。


少し離れた場所では、ユーリがアークアンカーのワイヤーを巻き直していた。


一度巻く。


途中で重なる。


ほどいて、また最初からやり直す。


それでも、また綺麗に巻けない。


普段ならまずやらないミスだった。


リオが足先でユーリの装備を軽く示した。


「そこ」


「あ?」


「重なってる」


ユーリが手元を見る。


確かにワイヤーが噛んでいた。


「……悪い」


珍しく何も言い返さず、また最初から巻き直す。


第3小隊も静かだった。


レイジ。


ツキノ。


アシュ。


セイル。


ダリウス。


ユウトは第3小隊の隊員ではない。


それでも、同じ地表へ出た人間が1人死んだ。


それだけで、昇降機の中の空気は重くなる。


『隊長』


静かな回線へ、第3小隊のオペレーターであるノアの声が入った。


『帰ったら一杯どうです?』


レイジが顔を上げる。


「お前、明日も勤務だろ」


『明日のぼくなら頑張れます』


「根拠は?」


『願望です』


アシュが少しだけ笑った。


ほんの一瞬だった。


すぐに俯く。


ノアが続ける。


『今ので1人は笑いましたね』


「十分だろ」


『もう少し欲しかったんですけど』


「欲張るな」


そこで会話は途切れた。


また、モーター音だけが残る。


その時、キョウジは少し離れた場所にいる若いエンジニアへ目を向けた。


今回が初めての地表任務だったらしい。


顔色が悪い。


握った拳にも力が入っている。


黒い搬送棺から目を離せずにいる顔を見れば、何を考えているのかは分かった。


自分たちの作業が遅かったせいだと思っている。


レイジも気づいたらしい。


「おい」


若いエンジニアが肩を震わせる。


「……はい」


「ずいぶん落ち込んでるな」


「すみません」


「謝るな」


男が顔を上げた。


「でも、俺たちの作業がもっと早ければ……」


「関係ない」


レイジは即答した。


「俺たちは護衛だ」


「でも」


「お前らを守るのが俺たちの仕事だ」


若いエンジニアは黙った。


レイジは黒い棺へ目を向ける。


「ダクトは直った」


「……はい」


「今も下で何万人も息してる」


男の目が揺れた。


「任務は成功だ」


「でも、あの人は……」


「ユウトだ」


キョウジが口を開いた。


若いエンジニアがこちらを見る。


「名前くらい覚えていてくれ」


少し間を置く。


「初陣だった」


男はもう一度、黒い棺へ目を向けた。


「……ユウト」


初めて、その名前を口にする。


レイジが続けた。


「ユウトが前へ出たことも、お前たちがダクトを直したことも、どっちも必要だった」


若いエンジニアは黙って聞いている。


「だから、死んだ仲間のためにも胸を張れ」


しばらくして、小さな声が返ってきた。


「……はい」


昇降機はそのまま、地下へ向かって降り続けた。


         ◇


やがて減速が始まり、昇降機がゆっくり停止した。


扉が開く。


そこにあったのは、ネオ・ヘイヴンの白い照明だった。


帰ってきた。


すでに待機していた回収班が、黒い搬送棺を運び出していく。


第7小隊もその後を追った。


通路の先には、大きな文字が表示されている。


《RETURN CHAMBER》


リターンチャンバー。


ネオ・ヘイヴンでは、死亡した人間はここへ送られる。


遺体は処理され、残された記憶情報は《レムナント》として保存される。


それが、この街における死者の帰還だった。


黒い棺が認証区画へ入る。


青白い光が外装を端から端までなぞっていく。


==========


GRID-07


YUTO


RETURN PROCESS ACCEPTED


==========


認証が終わると、奥の搬入口が開いた。


黒い棺が静かに進んでいく。


セナは瞬きもせず、それを見ていた。


ユーリはユウトのソードを抱えている。


ガンツは棺へ近づき、最後に一度だけ手を置いた。


それから。


黒い棺は白い通路の奥へ消えた。


扉が閉まる。


もう見えない。


キョウジは残った第7小隊の顔を見る。


リオ。


ユーリ。


セナ。


ガンツ。


4人。


朝は5人だった。


「今日の任務は以上だ」


全員へ声を掛ける。


「装備を返したら休め」


ユーリが腕の中のソードを見る。


「これは俺が返してきます」


「ああ。頼む」


第7小隊が歩き出す。


4人で。


キョウジは少しの間、その背中を見送っていた。


5人で地表へ出た。


4人で帰ってきた。


数字だけ見れば、1人減っただけだった。


だが、その1人が誰だったのかを、キョウジたちは知っている。


         ◇


数時間後。


ネオ・ヘイヴンの人工の空は、夜へ切り替わっていた。


黒いジャケットへ着替えたキョウジは、1人で中層区画を歩いていた。


通りにはネオンが灯っている。


屋台からは合成肉を焼く匂いが漂い、酒場からは笑い声が聞こえてきた。


子どもたちが通路を走り抜けていく。


誰も、今日の地表任務を知らない。


ユウトが死んだことも知らない。


それでいい。


第4外縁ダクトは動いている。


街には空気が流れている。


誰かが食事をしている。


誰かが酒を飲んでいる。


誰かが笑っている。


そのために、自分たちは地表へ行った。


そんなことを考えながら歩いているうちに、キョウジの足は自然と墓所へ向かっていた。


         ◇


墓所の入口には、飾りらしいものが何もなかった。


花もない。


石碑もない。


無機質な壁と、認証用の端末があるだけだ。


キョウジが認識バンドをかざす。


扉が開いた。


背後で閉まると、それまで聞こえていた街の音が一気に消えた。


奥には無数の収納部が並んでいる。


ここへレムナントが収められる。


人が生きていた記憶。


その人間が最後に残したもの。


キョウジは端末を操作した。


「ユウト。GRID第7小隊」


検索結果が表示される。


==========


RETURN PROCESSING


==========


まだ処理中だった。


明日か。


あるいは明後日。


それくらいには、ユウトのレムナントもこの場所へ戻ってくるのだろう。


キョウジは表示を閉じた。


そのまま奥へ歩いていく。


向かう場所は決まっていた。


何度も来た区画。


そこに、1つだけ空の収納部がある。


==========


E-3147


EMIL AMAGI


RETURN PENDING


==========


エミル・アマギ。


5年前、地表任務中に消息を絶った。


死亡確認なし。


遺体もない。


当然、レムナントも存在しない。


だから、ここには何も入っていない。


「律儀だな」


キョウジは空の収納部を見る。


この街はまだ、エミルが帰ってくる場所を残している。


5年間。


ずっと。


そして今日。


キョウジは彼女を見た。


吹雪の向こう。


長い髪。


外套をまとった細い人影。


僅かな時間しか見えなかった横顔。


疲れていたのかもしれない。


見間違いだったのかもしれない。


頭では、いくらでも理由を考えられる。


それでも。


「……エミルだった」


小さく呟く。


墓所の中で、その声に答える者はいなかった。


空の収納部を見ているうちに、昔の記憶が蘇ってくる。


         ◇


「ねえ」


エミルがキョウジの肩へ頬を乗せていた。


「もし私が先に死んだらさ」


「縁起でもないこと言うなよ」


「仮の話」


「聞きたくない」


「聞いてよ」


エミルが少し笑う。


「ちゃんとお墓参り来てくれる?」


「行かない」


「最低」


「墓参りなんか必要ないだろ」


「なんで?」


キョウジは肩へ乗ったエミルの顔を見る。


「生きて帰ってくればいい」


エミルが少しだけ目を丸くした。


それから笑う。


「じゃあ」


もう一度、キョウジの肩へ頬を乗せた。


「帰るしかないか」


         ◇


記憶が消える。


目の前にあるのは、何も収められていない収納部だった。


エミルはまだ、ここへ帰ってきていない。


キョウジは手を伸ばしかけた。


だが、触れる直前で止める。


「……約束、まだ終わってないな」


空の収納部へ背を向ける。


そしてキョウジは、1人で墓所を後にした。

お読みいただきありがとうございます!


ユウトはリターンチャンバーへ。


そして墓所には、


5年間ずっと空いたままのエミルの場所。


本当に彼女は生きているのか。


次回――

死んだはずの恋人を見たので5年前の任務記録を調べたら、なぜか閲覧禁止になっていました

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