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第19話 通信塔の中で武器が完全に壊れたうえ、仲間とも離れ離れになりました

通信塔へ入った第7小隊。


ですが、

キョウジのアークブレードの不調は悪化していきます。


そして塔の内部には、

クロウラー級が潜んでいました。

歪んだ隔壁を抜けると、吹雪の音が一気に遠ざかった。


代わりに聞こえてきたのは、古い設備が立てる低い駆動音と、どこかで断続的に弾ける漏電の音だった。


旧ハルシオン長距離通信塔の内部には、湿った冷気が滞留している。


壁際には太いケーブル束が走り、床には保守用レールが残されていた。頭上では配管と支持材が何層にも重なり、その先は暗闇へ消えている。


外から見た時以上に、内部は複雑だった。


「思ったより残ってますね」


カイが周囲を見ながら言った。


「もっと崩れてると思ってました」


「人が使わなくなっただけで、全部壊れたわけじゃないってことだろ」


キョウジはそう答えながら、手にしたアークブレードへ目を落とした。


高架で起きた出力低下。


最初は0.6秒。


次は2.1秒。


今は発振している。


だが、さっきまでと同じように使えるとは思えなかった。


『もう一度診断します』


ミオの声が届く。


キョウジは歩きながら、柄の診断モードを起動した。


表示された数値をミオへ送る。


数秒後。


『コア出力は正常です』


「そこはさっきと同じか」


『はい。ただし、制御系統から発振部へ向かう途中で電圧低下が発生しています』


「場所は絞れない?」


『ある程度は可能です』


ミオが診断図を共有する。


中央のコア。


その周囲を通る制御系。


発振器。


出力部。


いくつかの経路が色分けされ、その途中に異常を示す表示が出ていた。


『コアそのものではありません。制御部から発振器へ送る経路のどこかで伝達が不安定になっています』


「断線?」


『完全断線ではありません。目視で確認できる焼損や断裂もありません』


カイが横から表示を見る。


「じゃあ現場修理は?」


『推奨できません』


ミオは即答した。


『冷却系にも僅かな遅延があります。原因を特定するには分解が必要です』


キョウジは診断表示を閉じた。


「使えるうちは使うしかないな」


『使用回数は最低限にしてください』


「分かってる」


『本当に?』


キョウジが少しだけ眉を上げる。


「今日はみんな疑うな」


カイがすぐに返した。


「高架であんな使い方した後ですからね」


「仕方なかっただろ」


「それは分かってます」


少しだけ間が空く。


「だから、次は仕方なくなる前に言ってください」


キョウジは答えず、前を見る。


「了解って言わないんですか?」


「聞こえてる」


「一番信用できない返事ですね」


後ろを歩いていたグレンが小さく笑った。


リオだけは黙っている。


高架を渡ってから、ほとんど口を開いていなかった。


誰も無理に話しかけなかった。


4人分の足音だけが、暗い通路へ続いていく。


         ◇


しばらく進むと、通路の幅が広がった。


天井も高くなり、古い搬送設備らしいレールが壁際へ沿っている。


その先で、カイが足を止めた。


「上です」


キョウジも顔を上げる。


最初は配管の影にしか見えなかった。


だが、動いた。


天井へ張りつくようにして、黒い影がいくつも這っている。


細長い四肢。


曲がった爪。


低い姿勢のまま、壁や天井を自在に移動するアバレント。


クロウラー級。


『確認できるだけで8体』


ミオ。


『奥にも反応があります』


グレンが左腕の大型シールドを構えた。


右手にはハルバード型アークブレード。


「正面から全部相手にする必要はないな」


「ああ」


キョウジは周囲を見る。


通路中央には倒れた資材棚。


右側には保守用の柱。


左側には配管が密集している。


「抜けるぞ。無理に倒すな」


カイが蛇腹剣型アークブレードを起動した。


青白い刃が形成され、数歩進んだところで刀身を節ごとに展開する。


最初のクロウラーが天井から落ちてきた。


グレンが前へ出る。


爪が盾へ食い込む。


グレンは真正面から押し返さず、身体を半歩ずらして衝撃を流した。


体勢を崩したクロウラーの横を、リオが駆け抜ける。


双剣が一度だけ閃き、脚の付け根を切る。


倒し切らない。


進路だけを作る。


「右!」


カイが声を飛ばす。


柱の裏から2体目が飛び出した。


蛇腹剣が伸び、柱を回り込むようにしてクロウラーの胴へ絡みつく。


カイが引いた。


身体の向きが強引に変わり、そのまま資材棚へ叩きつけられる。


「今です!」


4人がその横を抜ける。


後ろから爪が床を削る音が響いた。


別の個体が追ってくる。


リオが振り返りかけた。


「そのまま行け!」


キョウジが言う。


足を止めない。


追いつかれそうになった個体だけをグレンが盾で押し流し、カイが足を取る。


キョウジも一度だけアークブレードを起動した。


青白い刃は形成された。


今度は消えない。


迫ったクロウラーの前脚を切り払い、そのまま進路を塞ぐ配管へ蹴り飛ばす。


『出力は維持されています』


ミオから報告が入る。


「今は、だろ」


『はい』


「嫌な言い方だな」


『事実です』


その返事を聞きながら、キョウジは刃を止めた。


余計には使わない。


4人はクロウラーの群れを完全に倒すことなく、通路を抜けていった。


         ◇


第3保守区画を過ぎたところで、目の前の空間が突然広がった。


巨大な縦穴。


かつて資材や人員を上下へ運んでいた昇降機用のシャフトだった。


今は箱もなく、中央には暗い空間が上下へ伸びている。


壁際には非常用の階段が何層にも続いていた。


リオが下を覗き込む。


「……深い」


「上もな」


グレンが見上げる。


最上部は暗く、ここからでは見えない。


『目的階層は現在位置より上です』


ミオが言った。


『昇降機は完全停止。復旧は不可能です』


カイが階段を見る。


「つまり、歩けと」


『はい』


カイは小さく息を吐いた。


「最上部まで登らされるって、ユーリなら得意げに言ってたでしょうね」


言った直後。


カイの表情が止まった。


誰もすぐには返さなかった。


高架で通信塔を見上げた時。


ユーリは確かにそんなことを言っていた。


帰ったら自慢できる。


最上部まで登ったって。


リオが少しだけ俯く。


グレンは何も言わない。


キョウジは階段へ視線を戻した。


「行くぞ」


それだけ言った。


カイも余計なことは言わなかった。


4人は非常階段を上り始めた。


         ◇


階段は想像以上に傷んでいた。


手すりが途中で途切れ、踏板の一部は腐食している。


何層か上がるたびに踊り場へ入り、また次の階段へ進む。


キョウジは先頭に立たず、中央より少し後ろを歩いていた。


武器の状態を考え、グレンとカイが前。


リオがその後ろ。


キョウジが最後尾。


上るたびに古い金属が軋む。


『上方に反応』


ミオ。


『クロウラー級、4体』


グレンが足を止めた。


「狭いな」


階段の幅は広くない。


ここで4体まとめて来られると、かわす場所がほとんどない。


「前2人で止める」


カイが言う。


「リオは隙間を抜けた奴だけ。隊長は――」


「後ろにいる」


キョウジが答える。


「今度は信用していいですか?」


「今回はな」


グレンが苦笑する。


「毎回そう言えばいい」


天井近くから金属を引っ掻く音が響いた。


クロウラーが降りてくる。


1体目をグレンの盾が受ける。


カイの蛇腹剣がその横を通り、2体目の脚へ絡みついた。


リオは前へ出すぎず、階段の隙間から飛び込んできた3体目へ双剣を合わせる。


キョウジは後ろで4体目を警戒した。


その時だった。


上から落ちてきたクロウラーが、壊れかけた踊り場へ着地した。


金属が大きく鳴る。


床が沈む。


「まずい!」


カイが叫ぶ。


クロウラーがリオへ向かう。


キョウジは反射的にアークブレードを起動した。


何も起きなかった。


「……おい」


もう一度。


発振しない。


青白い光すら出ない。


『出力ゼロ!』


ミオの声。


『発振部への電力供給が途絶しています!』


完全に止まった。


キョウジは舌打ちし、柄を握ったまま前へ出る。


武器としては死んでいる。


それでも、何も持たないよりはましだった。


クロウラーがリオへ飛びかかる。


キョウジが横から柄を叩き込む。


頭部へ一撃。


倒せない。


だが、軌道はずれた。


「隊長!」


「前見ろ!」


リオが体勢を立て直し、双剣で脚を切る。


グレンが盾で押し込み、カイが蛇腹剣を巻きつけて壁へ叩きつけた。


その瞬間。


足元から嫌な音がした。


キョウジが下を見る。


踊り場の支持材へ亀裂が走っている。


「離れろ!」


全員が動いた。


だが、遅かった。


金属が折れる。


踊り場の端が大きく沈んだ。


リオが上側へ飛ぶ。


グレンも手すりを掴んで体勢を立て直す。


カイは蛇腹剣を柱へ絡ませた。


キョウジの足元だけが崩れる。


身体が下へ傾いた。


「隊長!」


カイが振り返った。


蛇腹剣をこちらへ伸ばす。


「掴んでください!」


節状の刀身がキョウジの前へ垂れる。


掴める距離だった。


だが、その先を見る。


カイは自分の身体を柱へ固定している。


踊り場そのものも崩れかけている。


ここでキョウジの全体重が加われば、カイごと引き落とす可能性がある。


一瞬で判断した。


「駄目だ!」


「何言ってるんです!」


「それ以上伸ばすな!」


床がさらに沈む。


キョウジは手を伸ばさなかった。


「隊長!」


次の瞬間。


支持材が完全に折れた。


足元が消える。


キョウジの身体が暗いシャフト側へ落ちた。


「キョウジ!」


ミオの声。


何かへ肩がぶつかる。


さらに下の配管へ背中が当たった。


身体が回る。


次の瞬間、別の踊り場へ叩きつけられた。


息が止まった。


数秒。


動けない。


耳鳴りだけが続く。


「……っ」


息を吸う。


痛い。


右肩。


背中。


だが、意識はある。


手足も動く。


『キョウジ! 応答してください!』


ミオの声が雑音混じりに届く。


「……生きてる」


ゆっくり身体を起こす。


「肩は痛いが、立てる」


『骨折反応はありません。ただし右肩に強い打撲反応があります』


上を見る。


かなり落ちた。


カイ達の姿はもう見えない。


通信にも雑音が混じっている。


『隊長!』


今度はカイの声。


遠い。


『聞こえますか!』


「聞こえてる」


『今そっちへ――』


「来るな」


『でも――』


「崩れた場所を無理に降りたら、全員同じことになる」


雑音が入る。


キョウジは周囲を見る。


この階層から別の保守通路へ入れそうだった。


「そっちは上へ進め」


『隊長を置いて?』


「置いていくんじゃない。合流できる道を探せ」


少し間が空いた。


「カイ」


『……はい』


「指揮を頼む」


通信の向こうで、カイが息を吐いたのが分かった。


『了解しました』


リオの声も入る。


『隊長、本当に動ける?』


「問題ない」


『その返事、信用していい?』


「今日はみんなそれ聞くな」


少しだけ沈黙があった。


その後。


グレンの低い声が届いた。


『先で待つ』


雑音が混じる。


それでも、次の言葉ははっきり聞こえた。


『必ず来い』


キョウジは一度だけ目を閉じた。


「ああ」


立ち上がる。


壊れたアークブレードを握り直す。


青白い刃はもう出ない。


「必ず行く」


通信の向こうで、3人の足音が遠ざかっていった。


キョウジも反対方向へ向き直る。


旧通信塔の下層。


仲間とは分断。


そして。


手元に残ったアークブレードは、完全に沈黙していた。

お読みいただきありがとうございます。


アークブレード、完全停止。


さらに階段が崩落し、


キョウジだけが下層へ落下しました。


上にいるカイ、リオ、グレン。


下にいるキョウジ。


「先で待つ。必ず来い」


次回。


キョウジは、

古い整備室で1本の武器を見つけます。

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