第14話 ガルム20体を倒した第8小隊と、レイス級4体を片付けた第9小隊が合同任務に呼ばれました
今回は第7小隊ではなく、
第8小隊と第9小隊が初登場です。
キョウジたち以外にも、
地表で戦っている小隊があります。
白い地表を、灰白色の影が駆け抜けていた。
雪を蹴る4本の脚が地面を深く抉り、巻き上がった雪煙の中から赤い眼光が次々と浮かび上がる。
狼型アバレント、ガルム。
かつて地表に生息していた狼の面影を残しているものの、その身体は人間の腰を優に越えるまで巨大化し、異様に発達した前脚と灰白色の外殻に覆われている。
裂けた口から白い息を漏らしながら雪原を駆ける群れは、20体を下らなかった。
「邪魔だ!」
その真正面へ踏み込んだのは、第8小隊長ヴァルカだった。
180cmを超える長身に鍛えられた身体。背中へ流れる長い金髪は、大きなリボンでまとめられている。
華やかな外見とは対照的に、右手で握っているのは無骨なハンドアクス型アークブレードだった。
飛びかかってきたガルムへ半歩踏み込み、青白く発振した刃を振り抜く。
斧刃は外殻へ食い込み、そのまま胴を断ち切った。
黒い体液を撒き散らして転がった個体を踏み越えたところへ、左右からさらに2体が迫る。
ヴァルカは右から来た1体の胸を蹴り返し、その反動で身体を捻った。
反対側から飛び込んできた個体の首元へ、斧刃を叩き込む。
『隊長、右から6体追加です』
専属オペレーター、エルドの落ち着いた声がN-LINKへ届いた。
『そちらを処理したら少し下がってください。前へ出すぎています』
「あと少しで崩せる! ここを割ったら戻る!」
『先ほどから、戻る距離より進む距離の方が長いですよ』
「細かい男だね!」
ヴァルカが口角を上げる。
その右側から新たに3体が迫った。
そこへ、十文字槍型アークブレードが横から差し込まれる。
「隊長、右です!」
第8小隊のルネ。
細身の長身に、赤いショートヘア。
横薙ぎに振った槍で2体の進路をまとめて押し返すと、すぐに柄を返し、残った1体の喉へ穂先を突き込んだ。
「こっちは押さえます。隊長はそのまま前を!」
「任せた!」
ヴァルカは切り開いた正面へ走る。
ルネは追わなかった。
代わりに、小隊長の死角へ回り込もうとする個体へ槍を向ける。
ヴァルカが前へ出るなら、その背中を守る。
彼女にとって、それはわざわざ言葉にするまでもない役目だった。
◇
雪原の反対側では、巨大なグレートソード型アークブレードが群れへ食い込んでいた。
第8小隊最年長のガレス。
厚い胸板と広い肩を持つ大柄な男で、灰色の混じり始めた長い黒髪を束ねることなく背へ流している。
迫ったガルムへ重い刀身を振り下ろす。
正面から押し潰された個体が雪へ沈み、その脇を別の1体が抜けようとした。
だが、その前脚へ2本の青白い刃が交差する。
副隊長ジード。
ヴァルカやガレスとは対照的な細身の体格で、色黒の肌に彫りの深い顔立ちを持ち、黒髪を後ろで束ねている。
雪へ崩れたガルムの首を、もう一方のミドルソード型アークブレードで断つ。
そのまま前方へ視線を向けた。
「隊長! そろそろ本当に戻ってください!」
ヴァルカが振り返る。
「ちゃんと戻ってるじゃないか!」
「それ、戻ってるんじゃなくて群れを押してるだけです」
隣で聞いていたルネの口元が緩んだ。
ヴァルカがすぐに気づく。
「ルネ」
「はい?」
「あんたはどっちの味方だ」
「もちろん隊長です」
「だったらそこで笑うんじゃないよ」
「すみません。でも今のはジード副隊長が正しいです」
「ほら、裏切ってるじゃないか!」
ジードが呆れたように息を吐いた。
そのやり取りの最中にも、次のガルムが飛び込んでくる。
ヴァルカが正面を崩し、ルネがその脇を塞ぐ。
抜けた個体をジードが拾い、さらに外側ではガレスの大剣が群れそのものを押し返していく。
荒々しい戦い方だった。
それでも、互いの間合いを邪魔することはない。
誰かが空けた場所へ別の誰かが自然に入り、そのまま次の敵を引き受ける。
それが、第8小隊が積み重ねてきた戦い方だった。
『前方7。右へ回ろうとしている2体はジードの方へ向かっています』
ジードがヴァルカを見る。
「聞こえましたね?」
「ああ」
ヴァルカはハンドアクスを握り直した。
「だったら残り7だ」
吹雪の向こうに赤い眼光が浮かぶ。
「片付けて帰るよ!」
第8小隊が、再び雪を蹴った。
◇
最後のガルムが倒れても、4人はすぐに武器を収めなかった。
ヴァルカが前方を確認し、ルネは右側を警戒する。
ジードは左へ視線を送り、少し離れた場所ではガレスが大剣を肩へ戻しながら後方へ目を凝らしていた。
数秒後。
『新しい反応はありません。今度こそ終了です』
エルドの報告を聞いて、ヴァルカはようやく肩の力を抜いた。
「思ったより少なかったね」
『20体以上と交戦して、その感想が出てくるのは隊長くらいでしょう』
「全員立ってるんだから上出来じゃないか」
「そこは同意しますけどね」
ジードが二刀の発振を止める。
「だからって毎回、先頭から消える勢いで突っ込まないでください」
「消えちゃいないだろ」
「今日はルネまで一緒に消えかけてましたよ」
ヴァルカが横を見る。
ルネは槍へ付着した黒い体液を拭いながら顔を上げた。
「私は隊長について行けますから」
「ほら見ろ」
「そこを誇らしげにしないでください」
ガレスが声を立てて笑った。
「まあ全員無傷だ。帰って温かいもんでも腹へ入れればいい」
「ガレスはそればっかりだね」
「地表帰りの楽しみなんぞ、それくらいで十分だろう」
『私もガレスに賛成です』
エルドが続ける。
『それと、規定帰投時刻を過ぎています』
ヴァルカの表情から、少しだけ笑みが消えた。
『隊長が予定にない群れまで追った結果ですよ』
「近くにいたんだから、放っておくよりいいだろ?」
『その話は帰投してから聞きます』
ヴァルカは一瞬黙った。
「……帰るよ、第8小隊!」
そのまま先に歩き出す。
後ろからジードが尋ねた。
「今、逃げました?」
「聞こえないね!」
ルネとガレスの笑い声が、吹雪の中へ広がっていった。
◇
同じ頃。
ネオ・ヘイヴンのGRID整備区画では、長いスピア型アークブレードが青白く発振していた。
持ち主は第9小隊長、シオン。
細身の身体に長い髪。黒を基調に、赤いチェックを取り入れた装備を身につけている。
シオンは槍を軽く振り、柄を通して伝わる振動を確かめてから発振を落とした。
「悪くないわね」
『先週より立ち上がりが少し良くなってる。整備班、今回は頑張ったみたいね』
専属オペレーター、アイラ。
任務中こそ仕事用の口調になるが、普段はシオンと友人同士のように話すことも多い。
シオンが少しだけ笑った。
「あなたが珍しく褒めてる」
『私だって褒める時くらいあるわよ』
少し間が空く。
『それより、また髪そのままで行くの?』
「今まで邪魔になったことはないでしょう?」
『どこかに引っかけても、私は地表まで取りに行けないからね』
「その時は考えるわ」
『絶対しないと思う』
シオンの口元が僅かに緩んだ。
そこへ、金色の長い髪を揺らしながらノエルが近づいてくる。
腰には、細身の刺突型アークブレード。
「隊長、セラがまた寝てますよ」
「見つけた人が起こしてあげればいいでしょう」
「起こした後の機嫌まで面倒見てもらえるなら」
「いいじゃない。そんな細かいこと」
「他人事だから言えるんですよねぇ」
その横を、フィルが静かな足取りで通り過ぎた。
腰には発振ワイヤー用のリール。
「もう起きてるよ」
ノエルが振り返る。
「本当?」
「1回起きて、また目を閉じたけど」
「それ、起きてないじゃない」
少し離れた椅子から声が返る。
「勝手なこと言わないで」
セラだった。
眠たげな目を開き、足元には折り畳み式の弓型アークブレードが置かれている。
『はい。全員起きたなら仕事の話するよ』
アイラの声が少しだけ仕事用に変わった。
『旧高架沿いでレイス級4体。さっきからかなり速い動きをしてる』
シオンが顔を上げる。
「場所は?」
『今送った。高架の上は死角も多いから気をつけて』
「了解」
シオンが槍を収める。
「行きましょう」
第9小隊も、地表へ向かった。
◇
旧高架地区。
崩れた道路が、雪原から斜めに突き出している。
その上を走る白い影をシオンが捉えたのと、アイラから通信が入ったのはほぼ同時だった。
『前。4体とも動き始めたよ』
「左右に分かれるわ。距離は取りすぎないで」
「了解」
フィルが返事をした直後。
高架から白銀の個体が飛び降りた。
レイス級。
豹を思わせる細身の胴体に、異様に長い四肢を持つ高速型のアバレント。
雪へ着地した瞬間、そのまま加速する。
ノエルの脇を、白い残像のように抜けた。
「相変わらず速いですねぇ」
ノエルが振り返る。
その間に、もう1体がシオンへ一直線に迫っていた。
シオンは槍を大きく振り回さない。
爪が届く寸前で半歩だけ身体を外し、すれ違う喉元へ穂先を差し込む。
青白い発振光が白銀の外殻を貫いた。
その勢いを利用するように柄を送り、レイス級はシオンの脇を抜けたまま数m先で雪へ転がった。
「まず1体。残りはそのまま追わなくていいわ」
『右から2体回るよ!』
ノエルが振り向く。
細身のブレードが閃き、最初の突きが飛び込んできた個体の眼窩へ吸い込まれた。
黒い体液を避けて身体をずらす。
その横から、もう1体がフィルへ狙いを変える。
「右をお願い!」
「取るよ」
フィルが発振ワイヤーを射出した。
ワイヤーは雪面すれすれを走り、レイス級の前脚へ絡みつく。
巻き取り。
疾走していた身体が横転した。
そこへ、セラの放った青白い矢が飛び込む。
頭部。
外殻を貫通。
シオンが周囲を見る。
「残り1。高架?」
『そう。シオンの上で狙ってる』
「なら、降りてきてもらいましょう」
高架の縁を走っていた最後のレイス級が、そのままシオン目掛けて飛んだ。
シオンは長い槍を下から跳ね上げる。
爪と穂先が交差する直前、軸足を入れ替えた。
長柄を身体の横へ通し、そのまま旋回させる。
落下してくる胴へ青白い刃が走った。
レイス級は着地できないまま雪へ落ちた。
シオンが槍へ付着した黒い体液を払う。
『全部消えたよ。今日は随分綺麗に終わったじゃない』
「今日は、は余計じゃない?」
『前回よりは間違いなく綺麗だったもの』
「その話、帰ってから聞くわ」
『その頃には忘れてると思うけどね』
ノエルが笑う。
「本当に仲いいですよねぇ」
「アイラが好き勝手言ってるだけよ」
『シオンも大概だけどね』
少し間が空いた。
『それより、追加任務が来たよ』
シオンが槍を収める。
「何?」
『エアダクト整備護衛』
表示された任務情報を見て、シオンが眉を上げる。
『第8小隊との合同だって』
シオンの表情が、ほんの少しだけ変わった。
「ヴァルカさん達と?」
『そう』
アイラの声に笑いが混じる。
『さっきまでより声が明るいけど?』
「久しぶりに一緒に戦うなら、悪くないでしょう」
『じゃあ、嬉しいってことで』
「そういうことにしなくていいわ」
フィルが横で笑い、ノエルも肩を揺らした。
「今日は賑やかになりそうですねぇ」
シオンは否定しなかった。
送られてきた次の任務地点を確認しながら、静かに歩き出した。
お読みいただきありがとうございます!
ガルム20体以上を相手にした第8小隊。
レイス級4体を仕留めた第9小隊。
そして次の任務は――
第8小隊+第9小隊の合同護衛任務。
2つの小隊が守るのは、
初めて地表へ出る1人のエンジニアです。




