第10話 新しく入った盾役と初めて戦ったら、想像以上に第7小隊へ馴染みました
新しい第7小隊、初戦闘。
グレンが加わって初めての地表任務です。
ガンツとは違う盾を持つ男が、
第7小隊でどう戦うのか。
地表接続区画を離れてから、30分ほどが経っていた。
第7小隊は、雪に埋もれた旧市街を北西へ進んでいる。
先頭はキョウジ。
その後ろにカイとリオが続き、ユーリが後方を警戒している。最後尾では、グレンが大型シールドを左腕へ固定したまま、崩れた建物や放置車両の陰を確認していた。
今日が、グレンにとって第7小隊での初任務だった。
『E-17中心部まで残り3.7kmです。現在の進路上に敵性反応はありません』
ミオの報告が入る。
キョウジは歩きながら聞いた。
「地中にいた3体は?」
『現在は捕捉できていません。磁気干渉による誤検知の可能性もありますが、断定はできません』
カイが端末を確認する。
「消えたからいない、とは思わない方がよさそうですね」
「だな」
リオが右手の建物へ顔を向けた。
割れた窓の奥には雪が吹き込み、かつて室内だった場所から枯れた枝が伸びている。
「こんなところから急に出てきたら嫌だな」
ユーリがすぐに返した。
「そういうこと言うと、本当に出てくるぞ」
「じゃあ今のなし」
「ミオ、記録から消してやれ」
『記録の改竄には応じられません』
「そこまで大事な発言じゃないだろ」
キョウジは笑いながら、そのまま歩き続けた。
だが、大型車両の脇を抜けたところで足を止める。
舗装面に、雪では隠しきれないほど深い傷が残っていた。
グレンも隣へ来て、大型シールドの縁で積もった雪を払う。
「古くはないな」
「ああ。雪がほとんど入り込んでない」
爪痕は道路を斜めに横切り、その先では放置車両の側面が大きく潰れていた。
『周辺を再走査します』
5人がその場で警戒を広げる。
数秒後。
『前方に生体反応を検知しました。距離180m』
全員の空気が変わった。
『6体です。旧道路上を南東へ移動中。このまま進んだ場合、約2分で接触します』
「種類は?」
『5体はハウラー級と推定。残る1体は大型です』
キョウジはアークブレードを抜いた。
青白い光刃が雪の中に立ち上がる。
「グレン」
「ああ」
「初仕事だ」
グレンは大型シールドを正面へ回した。
「任せろ」
◇
吹雪の向こうから、最初の影が現れた。
続いて2体目、3体目。
さらにその後ろから2体が姿を現す。
ハウラー級。
全部で5体。
『大型反応はさらに後方です』
キョウジはすぐに配置を決めた。
「まず5体を片づける。グレンは正面。カイとユーリは左右。リオは俺と一緒に、抜けてきた奴を取る」
「了解」
「任せて」
「こっちも準備できてます」
先頭のハウラー級が、一気に距離を詰めてきた。
グレンは動かない。
牙と爪が届く直前まで待ち、接触の瞬間に左足を引いた。
大型シールドへ爪が触れる。
その瞬間、盾の角度を変えた。
真正面から止めるのではなく、突進の力を横へ逃がす。
ハウラー級の巨体がグレンの右側へ崩れた。
「リオ!」
「もらう!」
リオが低く潜り込み、腹部へ右の光刃を走らせる。
そのまま反対側へ抜けながら、左の刃を首筋へ重ねた。
1体目が雪へ沈む。
すぐに2体目が飛び込んできた。
ユーリのアークアンカーが肩口へ突き刺さる。
「そっちには行かせない!」
巻き取りが始まり、巨体が道路中央へ引き戻される。
そこへグレンが横から盾をぶつけた。
頭部が跳ね上がる。
「隊長!」
「ああ!」
キョウジが駆け抜けざまに喉を斬った。
2体目が倒れる。
残り3体。
そのうち1体が放置車両を踏み台にして跳んだ。
キョウジの頭上を越えようとする。
「落とします!」
カイの蛇腹剣が展開された。
青白い刃節が伸び、空中のハウラー級の前肢へ絡むように触れる。
軌道を崩された巨体が、グレンの前へ落ちた。
だが、今度のグレンは盾を使わなかった。
背中のハルバートを抜く。
発振光が走り、長い刃が形成される。
「おお……」
ユーリが思わず声を漏らした。
グレンは起き上がろうとしたハウラー級の首元へ、ハルバートを振り下ろした。
3体目も動かなくなる。
「盾だけじゃないんですね!」
「最初から言っただろう。両方使う」
「聞いてましたけど、実際見るとすごいな!」
その時、4体目がユーリへ飛びかかった。
「伏せろ!」
キョウジの声に、ユーリが身体を沈める。
その頭上を越えたハウラー級の腹へ、リオの双剣が交差した。
着地した個体が振り返る。
ユーリもすぐに起き上がった。
「今度はそっちへ返す!」
至近距離からアークアンカーを射出する。
巻き取り。
ハウラー級の身体が雪の上を滑り、グレンの方へ引かれていった。
グレンは盾を低く構える。
真正面から止めるのではなく、斜め上へ跳ね上げた。
喉が大きく開く。
そこへキョウジが踏み込み、一閃した。
4体目も倒れる。
残り1体。
最後のハウラー級は、仲間が倒れたのを見て戦わずに逃げた。
道路脇の建物へ向かう。
「逃がすな!」
キョウジとリオが追う。
カイの蛇腹剣が前方へ伸び、刃節を広げて逃げ道を狭めた。
さらにユーリが柱へアークアンカーを撃ち込み、低い位置へワイヤーを張る。
ハウラー級の前脚が引っ掛かった。
巨体が横転する。
「隊長!」
「そのまま押さえろ!」
リオが後脚へ双剣を入れる。
キョウジも反対側から首筋へ踏み込んだ。
最後の1体が動かなくなる。
『ハウラー級5体の生体反応消失を確認しました』
ユーリが息を吐いた。
「思ったより早かったですね」
「初めてにしちゃ悪くない」
キョウジがグレンを見る。
グレンはハルバートを背中へ戻しかけていた。
だが、途中で動きを止める。
「まだ終わっていないだろう」
「ああ」
雪煙の向こうから、重い足音が響いてくる。
「そうだったな」
◇
一歩ごとに道路が軋んだ。
放置車両が横へ押し退けられ、その奥から巨大な頭部が現れる。
低く張り出した頭。
左右へ伸びる大きな牙。
分厚い皮膚と、筋肉に覆われた巨体。
『大型個体を確認。ボアグ級です』
グレンがハルバートを握り直す。
「さっきの傷はこいつか」
「たぶんな」
『突進時の推定重量負荷は、ハウラー級の約3.4倍です』
ミオは少し間を置いて続けた。
『正面からの受け止めは推奨しません』
キョウジがグレンを見る。
「だそうだぞ」
「聞こえている」
それでもグレンは盾を構えたままだ。
キョウジが眉を上げる。
「まさか受ける気か?」
「止めるつもりはない」
グレンはボアグ級の脚運びを見ていた。
「どちらへ流れるか確かめたい」
「無理だと思ったら捨てろ。盾も意地も、あとで拾える」
グレンが少しだけ笑った。
「そうさせてもらう」
ボアグ級が前脚で雪を掻いた。
『来ます』
次の瞬間、巨体が突進してくる。
大きさからは想像できないほど速い。
グレンはぎりぎりまで待った。
牙が盾へ触れる直前。
身体を僅かに右へずらし、盾の角度を変える。
轟音が響いた。
衝撃でグレンの足が雪の上を滑る。
それでも、その場で踏ん張って止めようとはしない。
押される力を利用して身体を回し、牙を外側へ逃がした。
ボアグ級の巨体が、グレンの左側を抜けていく。
ユーリが目を見開いた。
「流した……」
「カイ!」
「はい!」
カイの蛇腹剣が後脚側へ伸び、踏み込みを乱す。
反対側からはユーリのアークアンカーが肩へ突き刺さった。
「倒すな!」
キョウジが叫ぶ。
「向きだけ変えろ!」
「了解!」
リオが側面へ入る。
前脚の内側へ双剣を2度走らせた。
ボアグ級が吠える。
頭部が大きく振られ、牙が横から迫った。
リオは最初の一撃をかわす。
だが、続く頭部の動きから逃げるには近すぎた。
「リオ!」
グレンが横から踏み込んだ。
大型シールドを牙の根元へ差し込み、衝撃を受ける。
そのまま力の方向を変え、頭部を外側へ流した。
開いた側からリオが抜ける。
「助かった!」
「次は入りすぎるな」
「今のは欲張っただけ!」
「それを入りすぎたと言うんだ」
キョウジの口元が僅かに緩む。
初めて同じ戦場へ出たとは思えない。
だが、ボアグ級は待ってくれない。
再び身体を低くした。
今度の狙いはリオだった。
「狙われてる!」
リオが走る。
ボアグ級は放置車両を押し退けながら距離を詰め、逃げ道を潰していく。
そこへ、またグレンが入った。
「リオ、左へ!」
盾を斜めに差し込む。
牙が激突した。
グレンの足が雪を削り、盾の縁が跳ね上がる。
それでも、頭部が僅かに右へ逸れた。
リオが左側へ抜ける。
「今だ!」
カイの蛇腹剣が後脚へ回る。
ユーリも反対側からアークアンカーを引いた。
ボアグ級が踏ん張る。
右前脚へ体重が乗った。
その瞬間、グレンは盾の下からハルバートを突き込んだ。
厚い皮膚に阻まれ、傷は浅い。
それでも刃は通った。
「そこだ」
キョウジが走る。
「前脚を潰す!」
◇
キョウジが正面へ入り、鼻先へ一撃を入れた。
ボアグ級の頭部がそちらを追う。
その隙にリオが側面へ回った。
グレンがつけた傷へ、双剣を重ねる。
右。
左。
今度は深く入った。
ボアグ級の右前脚が沈む。
「効いてる!」
それでも倒れない。
残った脚で無理やり身体を支え、牙を振り回した。
5人はいったん距離を取る。
『右前脚の損傷を確認。歩行能力が低下しています』
キョウジはグレンを見る。
「次で崩すぞ。もう一度いけるか?」
グレンは即答した。
「行ける」
大型シールドを前へ戻す。
ボアグ級もグレンを見る。
何度も進路を邪魔されたことで、完全に敵として認識したらしい。
再び突進してくる。
グレンは待った。
一歩だけ右へずれる。
盾を牙の外側へ合わせ、そのまま力を横へ流す。
傷ついた右前脚では、十分に曲がれない。
そこへカイの蛇腹剣が逃げる側を塞ぐ。
反対からユーリが肩を引いた。
踏み替えた右前脚へ、リオが双剣を入れる。
同じ傷がさらに深くなる。
ボアグ級の巨体が大きく右へ傾いた。
グレンも流した盾をそのまま肩へ押し当てる。
「隊長!」
カイが叫ぶ。
「首が開きます!」
キョウジはすでに走っていた。
ボアグ級が横倒しになる。
それでも起き上がろうと頭を持ち上げた。
グレンが大型シールドを上から押し当てる。
牙が発振面を削った。
「キョウジ!」
「今だ!」
キョウジは盾の脇を抜けた。
狙うのは首と肩の境目。
アークブレードを深く差し込む。
黒い血が噴き、青白い発振光がその中で揺れた。
ボアグ級が激しく暴れる。
グレンの盾が押し返される。
「まだ持つ!」
グレンは肩まで盾へ入れた。
カイは後肢側へ蛇腹剣を回し、動きを制限する。
ユーリも反対側からアークアンカーを引き続けた。
リオが喉元へ回る。
「隊長!」
「もう1本入れる!」
「ああ!」
双剣が喉へ入った。
ボアグ級が大きく身体を反らす。
キョウジも刃を抜かず、さらに奥へ押し込んだ。
やがて前脚から力が抜ける。
続いて後脚。
最後に頭部が雪へ落ちた。
『ボアグ級の生体反応消失』
少し間を置いて。
『討伐を確認しました』
ようやく周囲が静かになった。
ユーリが大きく息を吐く。
それからグレンを見る。
「……グレンさん」
「なんだ」
「本当に今日が初日ですよね?」
「ああ」
「馴染むの早すぎません?」
グレンは少し考えた。
「そうなのか?」
リオが笑う。
「たぶん」
カイも頷いた。
「少なくとも、悪くはなかったと思いますよ」
グレンは4人を見る。
ほんの少しだけ表情が緩んだ。
「そうか」
◇
戦闘を終えて確認すると、グレンの大型シールドには長い傷が残っていた。
リオが覗き込む。
「ずいぶん削られましたね」
「表面だけだ。発振部には届いていない」
すぐにカイも近づいてくる。
「補助セルは?」
「4割くらいだ」
「思ったより少ないな……」
その様子を見て、ユーリが呟く。
「始まった」
カイが振り返る。
「何が?」
「カイさんの装備の話」
「気になるだろ」
するとグレンが言った。
「俺も、蛇腹剣の使い方を聞きたい」
カイが少しだけ目を見開く。
「もちろん」
「大型を相手にする時、あの伸ばし方は使えそうだ」
「なら帰ってからログを見せますよ」
話題はもう、次の戦闘へ向いていた。
キョウジは4人を見る。
完璧ではない。
リオは一度踏み込みすぎた。
ユーリも大型に引かれる場面があった。
カイも相手の重さを測りながら戦っていたし、グレンもまだ第7小隊の癖を知らない。
それでも。
危なくなれば誰かが入った。
誰かが崩れれば、別の誰かが支えた。
初めて5人で戦ったにしては、十分だった。
何より、全員が立っている。
『周辺に新たな敵性反応はありません』
キョウジはアークブレードを収めた。
「よし。記録を取ったら先へ進むぞ」
ユーリが露骨に嫌そうな顔をする。
「まだ行くんですか?」
「E-17に入ったばかりだ」
「ですよねえ……」
第7小隊は記録をまとめると、再び北西へ向かって歩き始めた。
今度は、新しい5人で。
お読みいただきありがとうございます!
グレンの初戦闘は無事終了。
正面からすべてを止めるのではなく、
受けて、流して、仲間へ繋ぐ。
ガンツとは違う守り方をする男でした。
第7小隊も少しずつ、
新しい5人の形になり始めます。




