〇危険察知スキル全開! ……からの、ダンプカーサイズ猪のお目覚め
大融解から数年。
海に沈みかけた旧東京エリアの片隅で、俺は一人で生き延びていた。
「……アンモニア臭、それに硫化水素。前方30メートルに腐敗ガス溜まり。右の通路には、未知の真菌の胞子群」
俺の感覚が、警報をガンガンと鳴らしている。
俺のスキル『危険察知』は、魔法なんて大層なものじゃない。大融解前、食品衛生局の検査官として、ありとあらゆる食中毒やバイオハザードの現場を見てきた経験と、ウイルス変異によって過敏になった「交感神経の悲鳴」だ。
この能力のおかげで、俺は「ヤバいものから逃げる」ことだけは誰よりも上手かった。
今日潜入したのは、旧自衛隊の『特殊糧食生産・研究施設』の廃墟。
目的はただ一つ、賞味期限切れの安全な缶詰(ドッグフードでも可)を見つけることだ。
「よし、このルートなら安全……」
「おっ、そこのお兄さん! ちょっと手伝ってくれない?」
安全確認をした直後、天井のダクトから、派手なピエロメイクしてビジカジスーツ姿の男が降ってきた。
男はニヤニヤ笑いながら、目の前の巨大な隔壁の電子錠をいじっている。
「なんだお前は!? 俺に構うな、死にたくない!」
「つれないねぇ。俺はジョーカー。昔、こういう無駄に堅牢なシステムを設計してた社畜の成れの果てさ。ねえ、この奥に『陸海空特殊軍用キャンピングカーのプロトタイプ』があるんだけど、配線ショートさせるから、そっちのレバー引いてくれない?」
ジョーカーと名乗る男は、迷いなくショートさせた配線を素手で掴んだ。
「バカ! お前が触ってるの、高圧電流のフェイルセーフ回路だぞ!」
「大丈夫だって! 人生なんてバグだらけのクソゲーなんだから、フラグは折れる時に折っとか……バチィィッ!!」
ジョーカーが感電して吹っ飛ぶと同時に、けたたましいサイレンが鳴り響き、施設の巨大な隔壁がゆっくりと開き始めた。
『警告。隔離セクターのロックが解除されました。実験体M-01が解放されます』
「ジョーカーてめぇぇ! 何を開けやがった!!」
「いやー、アハハ! 開いちゃった☆」
「開いたっちゃじゃねーよ! 実験体ってなんだぁっ」
開いた隔壁の奥から、ズシン、ズシンと重い足音が響く。
現れたのは、ダンプカーサイズの巨大なイノシシ。
全身が有毒な古代菌の粘膜の鎧を纏ったバイオハザードの権化。
『厄災猪』だ。
「ブモォォォォォォッ!!(訳:誰だ俺の昼寝を邪魔したのは)」
「終わった……。俺の生存記録、今日で終了……」




