表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『暴走懐石マッド・キッチン ~古代魔獣を食い尽くす! 溶氷期(メルティング・エイジ)のグルメハンター~』   作者: 筆のキュイジニエ
最終章 その2:水菓子(みずがし)は、ハチミツ・ベアーと氷山シャーベットの死闘
32/39

〇フォッサマグナ大峡谷と、ジョーカー(元社畜)の置き土産 

 

 胃が重い。

 だが、不思議と心は軽かった。

 極上の「黄金米」を平らげた俺たち『最後の晩餐』パーティーは、マッド・キッチン号を潜水モードで、旧日本列島を分断する巨大な亀裂――『フォッサマグナ大峡谷』の底へと潜っていた。

 

 それはまるで、神の御業によって巨大な出刃包丁で日本列島を「三枚おろし」にしようとして、途中で引っ掛かって投げ出したかのような底なしのひび割れだ。

 昔の学者はカッコつけてラテン語で呼んでいたらしいが、要するに地球の腹を切り開き、底の見えない内臓を(さら)しただけのただの巨大な生傷である。

 

「……まったく、包丁の入れ方が甘いにも程があるな。見事な失敗作だ」

 急斜面でハンドルを握りながら俺がボヤいていると、後部のキッチンから顔を出したリズが不満げに鼻を鳴らした。

 

「本当ね。断層の筋繊維を完全に無視してるわ。私ならもっと骨の髄まで綺麗に、一刀両断の真っ二つにしてあげるのに」

「オカシイだろ地球を捌こうとするな!」

  いつもの解脱ツッコミをこなしつつ、俺は防毒マスクのフィルター越しに鼻を鳴らした。


 その海中施設に接岸し、まだ保たれていた空調機の臭いを嗅いだアッシュが、

「……匂うな。俺の嗅覚細胞と扁桃体がアラートを鳴らしてる」

 元・環境衛生局の検査官だった俺の脳は、空気中の化学物質の変化を「肌の粟立ち」として物理的に感知できる。

「空気中の糖分(グルコース)濃度が異常だ。それに、局所的な超低温ガス……液体窒素の匂いまで混ざってる。ここってどんなバイオテロ環境だよ」


「ボス正解だ。ここは旧時代最大の環境実験施設、『バベル・エコ・スフィア』さ」 

 先頭を歩くジョーカーが、分厚いチタン合金の巨大な隔壁を撫でながらニヤリと笑った。


「南国ジャングルから極寒のツンドラまで、一つのドームに押し込んだ狂気の箱庭。……いやぁ、懐かしいなぁ」

「正解?懐かしい?ジョーカー。なんか知っているのか?」

「昔、ここの環境制御AIを組んだのは……まだピエロのメイクなんてしてなかった、社畜時代の俺なんだよ。エナジードリンクと胃薬だけで三週間徹夜して、お偉いさん好みの『完璧で無菌な箱庭』を作らされた」

 ジョーカーの自嘲気味な笑いには、かつて自分が信じていた「完璧な秩序」との決別と、今の「泥臭くて予測不能な旅」への愛着がほんの少しだけ滲んでいた。


「……でも、そんなもん大融解であっさりぶっ壊れたけどな! パスワードは『Chief_is_Trashクソヤロウ』っと。さあ、俺の過去の致命的欠陥バグを食い荒らしに行こうぜ! ポチッとな☆」


 ジョーカーが隔壁のコンソールをハッキング……いや、かつて自分が仕込んだ『裏口バックドア』を開いた瞬間、最高機密で守られてるはずの軍事レベルのロックがあっさりと解除された。 

 こいつの「やらかし」は偶然じゃない。

 全ては、大融解で自分のシステムがあっさり崩壊したことで、「秩序システム」に絶望し、混沌カオスを愛するようになった、自暴自棄な復讐ハッキングなのかもしれない。


「ヘイヘイ開いたぜ、ボス。甘~い、地獄のスイーツバイキングの入り口だ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ