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〇超・殺菌空間! 黄金米と、一生ここから出たくない聖女


北の海、旧北陸エリア。

 荒れ狂う波の下、水深数百メートルの海底に、その神殿プラントはあった。

 世界が溶氷期になる前のテクノロジーで維持された、完全密閉型・海底農業ドーム『ウオヌマ・サンクチュアリ』。


マッド・キッチン号(潜航モード)をドーム底面のエアロックに接続した瞬間、トラックの車内全体に警告アナウンスが響き渡った。


『警告。未承認の外部オブジェクトを検知。これより、最高レベルの物理・化学的滅菌プロセスを開始します』


「な、なんだ!? 新手のシルヴィのお出ましか?トラックごと燃やされるのか!?」

 俺とジョーカーが身構えた瞬間、エアロック内に致死レベルの強力な紫外線(UV-C)が照射され、続いて得体の知れない高濃度アルコールのシャワーが、滝のようにマッド・キッチン号に降り注いだ。


「ギャアアアア! 目が染みる! 息ができない!」

「うひぃぃ! 俺の集めた密輸タバコが全部消毒されちまう!」

 俺とジョーカーが阿鼻叫喚の地獄絵図でもがく中、ただ一人、シルヴィだけが恍惚とした表情で両手を広げていた。


「あああああ! 素晴らしいわ! この細胞レベルまで焼き尽くすような完璧なサニタイズ! 外界の汚れたバクテリアが一つ残らず死滅していくひめいが聞こえるわぁぁぁ!」

「「お前が一番ヤバいんだよ!!」」


1分間の地獄の消毒タイム(シルヴィにとっては極上のスパ)が終わり、分厚い隔壁が静かに開く。

ヒリヒリする目をこすりながらエアロックを抜けた先のドーム内は、外の暗い海やヘドロまみれの世界とは、完全に切り離された別次元だった。

 天井の巨大な人工太陽が燦々と降り注ぎ、見渡す限りの大地が、眩いばかりの「黄金色」に輝いている。


風に揺れる、黄金の波。

 大融解前の極限の品種改良と、永久凍土から溢れた濃密な「魔素」によって奇跡的な進化を遂げた、伝説の古代米『エンシェント・コシヒカリ』だ。


「ハァ……ハァ……なんてこと……! 大気中の雑菌ゼロ! 浮遊粉塵ゼロ! ダニもカビも存在しない……ッ!」

 プシュッ……!

 あろうことかシルヴィが防護服の密閉ヘルメットを乱暴に脱ぎ捨て、黄金の野原にダイブした。

「あああああ! ここが私の本当の絶対聖域クリーンルーム! アタシもう一生ここから出ない! こちらの(むきんのつち)と結婚するぅぅぅ!」

「おいバカはやめろ! お前の防護服の表面の菌が感染うつるだろ!」

「失礼ね! 入る前にアルコールミストで全身三回消毒したわよ!」


「ヘイヘイ……こりゃたまんねえな。ボス、見ろよ」

 ジョーカーが稲穂から一粒もぎ取り、形容しがたい笑みを浮かべていた。

「米粒一つがゴルフボールくらいあるぜ!? これ一粒で闇市なら重機関銃三丁と交換できる! 俺たちゃ大富豪だ!!」


一方、我らが料理長のリズは――。


「…………(滝のような感涙)」

言葉もなく、黄金の野原に膝をつき、両手で顔を覆ってガタガタと震えていた。

「リズ?」

「会いたかった……。ずっと、ずっと会いたかったわ……ッ! どんなに極上のATP(肉)も! どんな新鮮なイノシン酸(魚)も! これがないと画竜点睛を欠くのよ! アミノ酸の暴力を全て優しく包み込む最強の炭水化物……『炊きたての白いご飯』!」


リズがスッと立ち上がり、天を仰ぎ見て、狂気を孕んだ満面の笑みを浮かべた。

「さあ、出てらっしゃい! この穀倉地帯を守護する神よ! 私の『最高の炊飯器』になりなさい!!」


バリバリバリバリッ!!!


リズの不敬極まりない咆哮に応えるように、ドーム内の晴天の空から極太の雷が落ちた。

プラズマの稲妻の中から現れたのは、馬の体に鹿の角、全身に数千万ボルトの雷光を纏った神々しい幻獣。

 『雷帝麒麟』だ。


「グルォォォォォン!!(訳:我が無菌の聖域を荒らす愚かな害虫どもめ、塵と化せ)」


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