〇カロリーゼロ理論(※シルヴィ調べ)と、次なる食材への旅立ち
俺たちは、クレーンで吊り降ろされ、まだパチパチと軽やかな音を立てている巨大天ぷらのもとに集合した。
リズが中華包丁を一閃させ、触手の一部(それでもドラム缶ほどの大きさ)やエンペラ、胴を切り落とす。
「余熱でレアからミディアムに変わる『今』が一番美味しいのよ! 塩とレモンでどうぞ!」
俺は熱々の天ぷらを両手で掴んだ。
ガブリ。サァクッ……!
脳髄に響く軽快な音と共に、衣が砕け散る。プツンと噛み切れた瞬間、熱々の肉汁と強烈なイカの甘みが口いっぱいに津波のように広がった。
「ッハフッ、ハフ! ……うめぇ!!」
アンモニア臭など微塵もない。衣のサクサク感と、レアに仕上がった身のプリプリ感のコントラスト。
「な、なんだこれは……」
恐怖で腰を抜かしていたギルド№2のジョージが、天ぷらの欠片を口に入れた瞬間、雷に打たれたように目を見開いた。
「海の王者……俺たちの恐怖の象徴が、こんな……こんな暴力的に美味い極上の『おかず』になっちまうなんて……!」
「うめぇ! ギルマス、これヤバいっすよ! ビール! 誰かビール持ってねぇか!」
「アホか! 勤務中に……だが、今日だけは特別だ! 宴会だァァ!!」
死にかけていた50人の海の男たちが、完全に胃袋を掴まれて狂喜乱舞を始めた。
「ん~! ジャンクな味がたまんないねぇ!」
ジョーカーは業務用マヨネーズ(おいっどこから出した)をドバドバかけて食べている。
「完全に殺菌されてる! 無菌の純粋なエネルギーの塊になってるわ! これならいくら食べてもゼロカロリーよ!」
「それは間違いだシルヴィ。自分をごまかす行為で確実に君の腹回りにハイカロリーが親友になっているぞ」と俺は小声で突っ込む。
「ふふふ……。これで『強肴』も無事にクリアね」
リズが満足げに、油まみれの顔を袖で拭った。
「お腹いっぱい……。もう1ミリも動けない……」
「馬鹿、まだ終わりじゃないぞ」
俺はパンパンに膨れた腹をさすりながら、手帳(コース表)を確認した。
長い長い、命がけのコース料理も、ついに次で最後だ。
「最後は……『食事(御飯・留椀・香の物)』」
「そうね。油モノの後は、やっぱり最後は、炊きたての白いご飯で締めたいわ」
「ご飯か。……この大融解の世界で、まともな米なんてホントに残ってるのか?」
リズは黄金色に染まる太平洋を見つめ、静かに言った。
「あれから詳しく解析したけどあるわ。伝説の『黄金の種籾』が。……海底神殿 『ウオヌマ・サンクチュアリ』 に、その米を守り続ける守護神がいるらしいの」
「守護神?」
「ええ。その名も『麒麟』。雷を操り、強力な稲妻で極上の米を育てる幻獣よ」
俺は立ち上がった。
胃もたれ気味だが、不思議とやる気は十分だ。
日本人として、炊きたての白米以上に究極の締めくくりはない。
「行くぞ! 命がけの最後の晩餐、いよいよフィナーレだ!」
「「「オーッ!」」」
「無菌の白米!」
「ご飯だぜ!」
「おい待てアンタら! 何しれっと帰ろうとしてるんだ。プラント壊した修理費と、残ったイカの処理はどうすんだ!!」
「残りはギルドの皆さんで美味しくいただいてねー!!」
「おいこらーっ」
ギルマスの怒号と男たちの美味いという歓声を背に、俺たちを乗せたマッド・キッチン号(今回は船モード)は、夕日輝く海原を北へと向かった。
目指すは、海底神殿のお米。
次回(来週土曜)、最終章:食事は、雷神麒麟の黄金米と、終わらないデザート です。
「常識と物理法則が殺菌されている」というアッシュの悲痛な叫びを楽しみにしてくださると嬉しいです。
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