〇史上最大のフランベ! 炎の海から引き揚げられる黄金の衣
「無茶言うな! あんな巨体、どうやって俺の銃でどうにかなるもんじゃねえぞ!」
「足を狙ってバランスを崩すの! あとの押し込みは彼らがやってくれるわ!」
「彼ら!?まあいい。考えがあるんならやるぜ。」
俺は対物ライフルを構え、クラーケンの体を固定するために鉄骨に巻き付けている一番太い触手を狙い撃った。
分厚い衣(バッター液)で極限まで重くなったクラーケンの重量と弾丸の衝撃により触手がツルッと滑る。
「グギャアッ!?」
「今よ! ギルマス、総員で押し込みなさい!」
「誰が料理の手伝いなんて……ああっもう! 野郎ども、銛を撃ち込め! クラーケンを油の海に叩き落とせぇぇ!!」
「「「「「「「「「「うおおおおおっ(ヤケクソ)!!」」」」」」」」」」
ギルド員たちが一斉にワイヤー付きの巨大な銛を撃ち込み、ウインチで強引に引きずり倒す。
クラーケンが完全にバランスを崩し、直径50メートルの煮えたぎるオイルタンクへと真っ逆さまに落下した。
ジュワァァァァァァァァァッ!!!!!!
大気を震わせる轟音。それは、世界で最も食欲をそそる、暴力的な音だった。
180度の高温の油が、冷たいバッター液の水分を一気に蒸発させ、衣を多孔質のサクサク状態へと変えていく。深夜に嗅いではいけない強烈な揚げ物の匂いがプラント全体に充満する。
「揚がってきたわ! いいキツネ色よ!」
リズがガッツポーズをしている横で、ジョーカーが工業用ドリルを持って別のパイプラインに取り付いていた。
「へっへっへ……。ここのパイプには純度100%のハイオク・ガソリンが流れてるって噂だ。これを中抜きして闇市で転売すれば……エイッ!」
キュイィィィィン!!
ドリルが劣化したパイプを貫通した瞬間、刃が擦れて火花が散り、漏れ出した揮発性のガスにあっさりと引火した。
カッッッ!!!! ドカァァァァァァン!!!!!
連鎖爆発。プラントのパイプが次々と誘爆し、漏れ出した燃料がクラーケンのいるオイルタンクの外側にまで燃え広がった。瞬時に、海面の一角が『数十メートルの火柱が上がる灼熱の地獄』と化した。
「ぎゃぁぁぁぁぁ」
「あああ俺たちのプラントがぁぁ!」
「ジョーカーてめぇ! これじゃ天ぷらじゃなくて火葬だぁぁ!」
ギルド員と俺が絶望の叫びを上げ逃げ惑う惨劇の中、リズの料理人としての目は極限まで見開かれていた。
「……いいえ、完璧よジョーカー!」
「「「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」」」」
「これは史上最大の『フランベ』よ!」
「「「「「「「「「「規模がデカすぎるわ!!」」」」」」」」」」
リズは燃え盛る火柱を前に、総指揮官のように腕を振り上げた。
「ガソリンの爆発的な揮発成分と超高温の炎で、アンモニア臭を一瞬で完全に吹き飛ばす! 今よ! ギルドの重機部隊、最大出力で『油切り』しなさい!!」
「だからなんで俺たちが……ッ! クソッ、一斉巻き上げだ! 焦げる前に引き揚げろぉぉ!」
ギルマスの怒号と共に、50機のクレーンが一斉に火を噴き、炎の海の中から巨大な黄金色の物体を引きずり上げた。
夕日に照らされて輝く、超・巨大クラーケンの天ぷら。
余熱も考慮に入れた、火入れとして完璧すぎるタイミングだった。
「完成! 『大王イカの極上巨大天ぷら・プラント油田揚げ』!」




