〇海の男たち、強制パン粉付け(命がけ)バイトに駆り出される
クラーケンが触手を振り上げ、プラントの鉄骨を飴細工のようにへし折る。
周囲に、ツンとした刺激臭が漂い始めた。
「ヒィィッ! 吸盤! あの吸盤の中、絶対ヘドロと雑菌が溜まってるわ! 集合体恐怖症にはキツいのよぉぉ!」
シルヴィが杖を乱射する。
「寄るな! 『超濃度塩素系漂白爆撃』ッ!!」
白い光弾がクラーケンの触手を直撃するが、軟体動物特有の分厚い弾力でダメージを完全に吸収されてしまう。極悪なヌルヌルの皮膚は、物理攻撃も魔法も滑らせる厄介極まりない防御壁だ。
「滑るわね……。あのまま素揚げにしても、衣が乗らないわ」
リズが冷静に分析していく。
「深海性の巨大イカ特有の、浮力を得るための『塩化アンモニウム』の臭いもキツいわね。
まずは打ち粉で水分と臭いを吸着させる必要があるわ! ジョーカー! 例のアレを! ギルドの連中も手伝いなさい!」
「へいへい! 食堂の倉庫からくすねてきた『業務用小麦粉(25kg袋)』×50袋! そら、海のお兄さんたち、キャッチ!」
「うおっ!? な、なんだこの粉!?」
逃げようとしていたギルド員たちの腕に、次々と鈍器のような小麦粉の袋が投げ渡される。
「ジョーカー、排気ファン全開! あんたたちは袋を破ってファンに向かって投げ続けなさい!」
「なんで俺たちが命がけでパン粉付けのバイトしてんだよぉぉ!」
泣き叫ぶ男たちをよそに、巨大な工業用排気ファンが轟音を立てて起動した。
腹に響くような低音から次第に甲高い音にかわり回転数があがって爆風となって、大量の小麦粉が真っ白な吹雪のように舞い上がり、クラーケンの巨体を包み込む。
「グオォォッ!?」
クラーケンが瞬く間に小麦粉まみれになり、巨大な真っ白の『大福』のようになった。
厄介なヌメリが粉で完全に封じられる。
「ナイスよ! これで衣が絡むわ! 次は『バッター液』! ギルマス、消火用ホースをこっちのタンクに繋いで放水して!」
「俺は料理長の下っ端か! ええい、クソッ、放水開始!!」
ギルマスのヤケクソの号令で、給水タンクを先行したジョーカーが急遽改造した特製バッター液(卵と冷水と小麦粉の混合液)が、消火用ポンプの猛烈な水圧でスプリンクラーのように頭上から降り注ぐ。
粉と卵液を全身に浴びたクラーケンと、巻き添えで全身ドロドロになったギルド員たちの悲鳴が交差した。
「下ごしらえ完了! あとは揚げるだけよ!」
「揚げるって……どこで!?それに前に仕込んでいた胡麻油、あれっぽっちじゃ足らないだろ。」
俺が叫ぶと、リズは足元の巨大な円筒形のタンクを指差した。
直径50メートルはある、備蓄オイルタンクだ。中にはジョーカーが見つけたキャノーラ油がなみなみと注がれている。
「ここが特大フライヤーよ! シルヴィ、点火!」
「燃え上がってさっさと綺麗になりなさいッ!!」
ゴォォォォォォッ!!
タンクの下に巨大な魔法陣が展開され、凄まじい火炎がオイルタンクを底から均等に加熱していく。
数秒で50メートルの油が対流を始め、香ばしい香りが漂い始めた。
「揚げるわよ! アッシュ、あいつをタンクに突き落として!」




