〇胃袋に染み渡る和食の真髄 ~アミノ酸の勝利~
俺たちは、トレントとその頭から切り出した「知恵のタケノコ」を巨大な葉っぱに取り分けた。
中心部は真珠のように白く輝き、外側は極上の出汁を吸って美しい茶褐色に染まっている。
実食。
サクッ。ジュワッ。
「…………はぁ~」
俺は思わず、肺の底から深い息を吐いた。
美味い。
強烈な香辛料のパンチではない。
胃の腑にじわじわと染み入るような、圧倒的な優しさだ。
タケノコのシャキシャキとした小気味よい食感と共に、鰹出汁のイノシン酸と醤油とみりんの甘辛いコクが、じゅわりと口いっぱいに溢れ出す。
泥の中で命がけで戦っていた殺伐とした疲れが、魔法のようにスッと溶けていく。
「これが『炊き合わせ』……。別々の環境で育った異なる素材が、一つの鍋の中で互いの長所を引き出し合い、完璧に調和する料理魔法……」
リズもしみじみと味わいながら目を閉じている。
「熱湯泥パックも……悪くなかったかもね。なんだかお肌の角質が取れて、つるつるになった気がするわ」
シルヴィはタケノコを上品に齧りながら、自分の頬を触っている。
100℃の泥湯によるピーリング効果かもしれない。
「俺はこっちの方が好きかなー。歯ごたえあってさ」
ジョーカーは煮込まれて柔らかくなった高級湯葉とメンマを足して二で割ったような食感のトレントの樹皮をガシガシと噛んでいる。
元は池だった巨大な鍋を囲んで、ほっこりとした時間が流れる。
常に死と隣り合わせの終末グルメツアーの中で、この「食」の時間だけが、俺たちを人間へと引き戻してくれるのだ。
「さて、ごちそうさま。……次は?」
俺が聞くと、リズは空になった皿を置き、ニヤリと肉食獣のように笑った。
「懐石コースもいよいよ後半戦。七品目は『強肴』よ」
「強肴? メイン級を食ったあとに、まだ食うのか?」
「ええ。お酒をさらに勧めるための、主客の度肝を抜くようなパンチの効いた一品。……例えば、暴力的なまでの『揚げ物』とかね」
揚げ物。
熱と油が織りなす、カロリーの暴力。
「カラッと揚がった黄金色の衣。高温の油で封じ込められたプリプリの中身。……そうね、次は海に行きましょう」
「また海か? カニもウミヘビももう食べたぞ」
「もっと巨大で、足がいっぱいあって、凶悪な吸盤があるやつよ」
「ちょ、ちょっと待て……まさか、クラーケンか?」
「正解! 『大王イカの巨大天ぷら』! 衣はサクサク、中身はレアの絶妙な火加減でいくわよ!」
俺は本気で胃薬が欲しくなった。こいつの頭の中は常識が冬眠しているらしい。
優しい煮物でせっかく整った胃袋に、次は深海怪獣の天ぷらをぶち込む気か。
だが、まあいい。
揚げたての天ぷらは、間違いなく、死ぬほど美味いのだ。
「おい、でもどうやって天ぷら油用意するんだ。」
「ボス、こんなこともあろうかと乾燥させた胡麻が5キロほど確保しているんだ!」
「素晴らしいわ給料カットはなしよ。ジョーカー!!」
リズの声も弾んでいる。
俺たちは立ち上がり、次なる戦場――太平洋の荒れ狂う洋上プラントへと向かった。
胡麻を細かく砕いて、
蒸して、
圧搾しつつ・・・。
(第7章へ続く)
次回(来週土曜)、第7章:強肴は、大王イカの極上天ぷら・油田揚げ です。
「常識と物理法則が冬眠している」というアッシュの悲痛な叫びを楽しみにしてくださると嬉しいです。
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