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〇鰹節(本枯れ節)投入! 旨味の相乗効果で泥臭さを完全粉砕

 

 池が煮立っていた。

 シュール極まりない光景だった。

 樹海の真ん中にできた熱湯の池。そこに沈められた巨木。

 その上に乗っかる鍋蓋と、その上で腕組みをして仁王立ちするエプロン女。


「アルカリ性の成分を含む「特定の泥」と一緒に煮込むことで、繊維を分解し、可食レベルまで柔らかくする効果があるとはいえ……このタケノコ、最高級品だけど泥抜きに手間がかかるわね」

 リズが煮込み具合を見ていると、ジョーカーが森の奥から戻ってきた。

 全身泥だらけだが、手には何かの巨大なバルブハンドルを持っている。


「ボス、朗報だ! 上流に『戦前の浄水場』があったぜ! あそこの水門を開ければ、綺麗な水で泥を洗い流せる! ついでにレアメタルのタービンもパクれる!」

「浄水場? ……おい、まさかもう開けたのか?」

「当然! タイム・イズ・マネーだろ?」


 ゴゴゴゴゴ……ッ!!

 上流から押し寄せてきたのは、ダムの底に溜まっていた落葉樹の葉っぱが堆積した天然の高濃度『超・栄養剤』だった。


「うわあああん! やめて!」


 シルヴィが絶叫して高い木によじ登る。

 そして最悪なことに、高濃度の富栄養素を浴びたトレントとタケノコは、メキメキと音を立てて異常な細胞分裂を始めた。

 煮込まれて柔らかくなりかけていたタケノコが、一瞬にして『鋼鉄の巨木』へと完全硬化してしまったのだ。


「ジョーカーァァァ! 食材が! 食べ頃のタケノコが、細胞壁の『木質素リグニン』を異常生成して建材になっちゃったじゃない!」

「へへっ、木材として売れば儲かるんじゃね?」

「俺たちは家具屋じゃねえ! どうすんだこの硬さ! ミスリルの包丁でも歯が立たねえぞ!」


 結局、激怒したリズが「圧力鍋戦法」をさらに極悪に強化すると言い出し、シルヴィの爆発魔法を鍋蓋の上に撃ち込ませて、物理的に大気圧を上げて無理やり沸点を120℃まで引き上げ、細胞壁を破壊して煮込むことになった。

 手間も魔力コストも倍になった。

 ジョーカー、貴様は後で木に吊るす。


 そしてさらに五十分後、

「ふぅ……いい感じね。高圧煮込みで芯まで火が通って、繊維が解けてきたわ」


 リズは足元のトレント(調理中)を見下ろして満足げだ。

 最初は暴れていたトレントも、熱さと圧力で次第に大人しくなり、今は極上の植物性の出汁が出始めている。


「でも、これじゃただの『硬い植物のお湯煮』だろ。味付けはどうするんだ?」

 俺が岸辺から叫ぶと、ジョーカーがリュックをごそごそし始めた。


「へいボス、こんなこともあろうかと、海辺の廃墟で拾っておいたんだ」


 彼が取り出したのは、ただの木の棒……ではない。

 カチカチに乾燥し、カビの恩恵で極限まで水分が抜けた『本枯れ節のカツオブシ』だ。


「でかしたわジョーカー! 減給チャラにしてあげる! それを削っておいて!」

 リズの指示で、ジョーカーがナイフで鰹節を丁寧に削る。

「これで下処理は終了よっ」


 リズが池の中から取り出したトレントとその頭から切り出した「知恵のタケノコ」をよく洗い、臭みの残る表面を大きく除いた中心部分だけをきれいな水と大鍋でさらに煮込み、そこへジョーカーのこさえた鰹節を投入する。

 パラパラと舞うピンク色の花びら。

 それが熱湯に溶け出した瞬間、空気が劇的に変わった。


「うーんこれよ! タケノコや植物由来の『グルタミン酸』に、カツオブシの『イノシン酸』が加わることで、旨味が爆発的に何倍にも跳ね上がる! これこそが和食の真髄、『旨味の相乗効果』よ!!」


 仕上げに、リズが『三年熟成・再仕込み醤油』と、バジリスク戦で余った『みりん風調味料』をドバドバと大鍋へ投入する。

 甘辛く、奥深い、日本人のDNAに深く刻み込まれた「煮物」の強烈な香りが、樹海を完全に支配した。


「ああ……いい匂い……。泥の臭いが完全に消えて、高級料亭の清潔な香りになったわ……」

 木の上でシルヴィがうっとりしている。

 彼女にとって「いい匂い=無菌・清潔」なのだ。


「完成よ! 『長老トレントと知恵のタケノコの、旨味相乗・土佐煮』!」


 リズが巨大な鍋蓋を持ち上げると、そこには飴色に見事に煮込まれ、すっかりホロホロに柔らかくなったトレントとタケノコの姿があった。


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