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〇沸騰泥沼で巨木を茹でる、情け容赦ない「湯通し」

 

 トレントが太い根を木の特性を活かし、体をねじり鞭のように振り回し、顔面大の泥礫つぶてを投げてくる。


「汚い! 泥投げなんてモルモット以下の野蛮な攻撃よっ!」

 シルヴィが俺の背中で狂乱状態に陥る。


「アッシュ、降ろして! もう我慢できない! あの泥人形を根絶やしに洗浄する!」

「魔力切れじゃなかったのかよ!」

「一流の魔法使いには非常用があるわよ!」

「ほうっ、一流ねぇ」

 シルヴィは隠し持っていた度数99%の医療用アルコールを一気に煽り、気化熱などでハイになりながら杖を天に掲げた。


「恐怖の熱湯風呂の時間よ! 『広域熱湯地獄』ッ!!」

 ボコボコボコッ!!

 シルヴィの魔法により、足元の広大な池が一瞬にして100℃で沸騰した。

 地下水を急激に加熱し、辺り一面を巨大な「致死性の露天風呂(熱湯)」に変えたのだ。

 トレントが根を茹でられて絶叫する。

 植物にとって、タンパク質が変性する熱湯は最も致命的な毒だ。


「ナイスよシルヴィ! 『湯通し』完了ね!」

 リズは、沸騰する湖沼の上を飛び越えトレントの悶える根を使って軽業師のように駆け抜けていく。


「でも、まだ硬いわ! 千年の樹皮は伊達じゃない! 細胞壁が分厚すぎて、味が染み込まない!」


 リズが神速で中華包丁を振るうが、トレントの表皮にガキィンと弾かれ、火花が散る。

 硬すぎる。これでは煮込むのに何年かかるかわからない。


「リズ! どうするんだ!? このままじゃアイツが茹で上がる前に、こっちが蒸し物になっちまう!」

「火力を上げ過ぎてはダメよ! 煮物の基本にして最強のテクニックは『落とし蓋』よ!」


「「「へっ、なんで落とし蓋!?」」」

「食材に蓋を密着させることで、水分の蒸発を防ぎつつ、少ない煮汁を対流させて蓋で圧力をかけ、味を内側へ強制的に封じ込めるの! アッシュ、ジョーカー! あいつを転ばせて!」


 出た。無茶ぶりだ。

 だが、このパーティーでシェフの命令は絶対だ。


「ジョーカー! 持ってるか、例のアレ!」

「もちろん! 廃工場の金庫からくすねてきた『重力制御装置グラビティ・コア』! 使い捨てだけどね!」


 ジョーカーがスイッチを入れ、黒い球体をトレントの足元に投げつける。

 空間が歪み、局所的な超重力が発生した。

 巨体のトレントがバランスを崩し、沸騰する泥沼の中へ横倒しにもっと大きな音を立てて倒れ込む。


「今よ! 『超重力・落とし蓋アタック』!!」


 リズは上空へ高く跳躍すると、愛用のミスリル製巨大鍋蓋を下にして、自ら流星のように落下した。


 鍋蓋がトレントの腹にめり込む。

 超重力と、リズの体重と、ミスリルの重み。それらが一体となり、巨木を100℃の池の底へと容赦なく押し付けた。


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