9.「温もり(※ミシロ視点)(※ヤンデレ覚醒回)」
〝レオざまぁw〟
〝ケツ丸出しで逃走とか、小悪党にも程があるw〟
〝助けてやるとか、ちょっと甘い感じもするが、ヒーローらしくて格好良かったぞ、サク!〟
「ありがとう、みんな!」
配信用ドローンの横に投影されるウィンドウのコメントに、サク君が笑みを浮かべる。
サク君が格好良いのなんて当然よ。
でもまぁ、大勢の人たちがちゃんとサク君のことを認知して褒め称えるのは、喜ばしいわ。登録者数も同接数もどんどん上がってるし。
※―※―※
翌日。
ダンジョン庁長官とレオ、そして彼の部下の男二人が逮捕された。
レオの祖父である内閣総理大臣がちゃんと仕事をしたらしい。
当たり前のことをしただけだけどね。
まぁ、あの孫の祖父にしては少しだけまともだから、その点は褒めてやっても良いわ。
ちなみに、代わりにダンジョン庁長官の座についたのは、イシダタさんだった。
二十代後半にして大抜擢。
本人は会見で驚いていたけど、彼女なら適任だと思う。
これであの腐りきった組織も、多少は変わるかしら。
※―※―※
レオがモンスター化してからというもの、あの呪いは、N市ダンジョン限定ではあったが、他の探索者たちにも及んでいた。
レオが深淵で出会ったという怪しげな男が関係していそうだったが、新たな被害者たちは、そんな者には会っていないと言う。
でも、どう考えても深淵の不審者が関わっているわよね、コレ……
現状、サク君が頑張って被害者たちを解呪していってる。
流石サク君だわ!
世界最高のヒーロー!
救世主とは正に彼のことよ!
退院後精力的に活動を再開して、一気に一位に返り咲いたクラン〝ブリリアントファルコン〟のトップであるビクトさんとサク君が連絡を取り合い、もしもこのまま被害が収まらなければ、ビクトさんたちも東京からこっちに来て一緒に対処してくれることになった。原因追究も兼ねて。
なお、モンスター化し掛けている、または完全にしてしまった探索者たちをサク君が解呪する際は、やはりサク君が切断した自身の左腕で呪いの液体を吸い取って、自分でその呪いを受ける、ということを繰り返している。
解毒と違い、呪いは一度解呪したからそれで抗体が出来て耐性もついて、とはいかないようで、毎回彼は苦しんでいる……
ただ、レオの呪いを解いた時に、ユミに自身の心臓を食べさせたことを悔やんでいるらしく、あれ以降、サク君は呪いを自身の体内にて纏めて、その塊を私たちが浄化、または力づくで取り除く、ということを繰り返していた。
私は光魔法で、ユミは光の精霊の力による浄化。
ルリはまだ炎魔法に自信が無いらしく、その恵まれた膂力によって、体内から呪いの塊を引き摺り出している。
ただ、その度に――
「ぎゃあああああッ!」
サク君は苦痛に絶叫するのだ。
どうやら、以前の脳内にあった毒の塊と同じく、体内に深く根を張ってしまっており、体内の神経ごと浄化、または引き摺り出してしまい、激痛に苛まれる結果となってしまう。
もう傷付いて欲しくない。
私たちが代わりに戦うと、そう誓ったのに……
解呪に関して、私たちは何の力にもなれていない。
「そんなことないよ。みんなのお陰で、僕は全力で解呪出来るんだから! いつも本当にありがとう!」
サク君は優しいから、そう言って笑ってくれるけど……
でも、私たちは、貴方にこれ以上辛い思いをして欲しくないのよ……
一日に五人、十人、二十人と解呪し続けて。
何度も何度も、サク君の体内に手を突っ込んで。
呪いの塊を浄化して、引き摺り出して。
「ぎゃあああああッ!」
まるで魂を切り刻まれるかの如き凄惨な悲鳴に。
私の心は、遂に。
パリンッ
砕け散った。
と同時に。
パチン
何かのスイッチが入った。
そうだ。
何で気付かなかったんだろう?
サク君にはもう辛い目に遭って欲しくない。
それは、これまでもこれからも、未来永劫変わらない。
でも、もし彼を救うために、彼に苦痛を与える必要があるのならば。
それは、幼少時代を知り、少なからぬ年月を共に過ごした私たちにしか出来ないことなのだ。
そして、彼の体内に手を入れるという行為。
本来ならば決して許されざることだが、それが必要だと言うのならば。
これは、彼の内面に触れる絶好の機会であるとも言える。
「うふふ。そうよ。彼の尊い内臓に触れられるだなんて、とても光栄なことじゃない」
それからというもの、サク君の体内に手を入れる度に、私は二つの相反する感情を抱えることとなった。
一つは、彼に苦痛を与えてしまうことへの罪悪感。
そしてもう一つは、愛する男性の秘匿された場所にそっと触れることの出来る恍惚感。
だが、何度も繰り返す内に、ただ内臓を触りつつ呪いの塊を浄化するだけでは、満足出来なくなっていった。
その時、私の脳裏を過ぎったのは、幼き日に交わした約束だった。
『サク君! 将来、私と結婚して!』
勇気を振り絞った告白だった。
きっと、傍から見れば、「ああ、よくある幼少期の何てことない思い出ね」「相手も本気に取らないし、何なら本人も十年後には忘れちゃうくらいの、あの軽いやつね」と思われるだろう。
だが、私は本気だった。
そんな私の一世一代の感情の吐露を、サク君は真正面から受け止めてくれた。
『うん、分かった! 嬉しい! 将来、結婚しようね、ミシロ!』
『わぁ……! ありがとう!』
私たちは、『約束だよ』『うん!』と、小指を絡ませて指切りした。
私は、結婚する時は左手の薬指に指輪をするのだ、と聞いたことがあって、両親もしていたことを思い出して、『薬指でも指切りしよっ!」と言った。
『ちょっとやり辛いね……あ、でも出来た!』
『出来たわ! これで安心ね!』
にっこりと微笑み合ったあの瞬間を、私は一秒たりとも忘れたことは無い。
「ぐっ! ……これで、安心ね……。……サク君……私、ずっと覚えているわ……あの約束を……結婚しようね……」
私は、呪いの塊を浄化する際に、さり気なく持ってきたナイフで自身の左手の薬指を切断して、彼の体内に埋め込んだ。
どうやら、考えることはみんな同じらしい。
私と同様、スイッチが入ったルリとユミもまた、自身の愛情を形にしてみせた。
「うっ! ……サク……これであーしは、あんたの大切なところに、いつでも唇で触れられるし……」
ルリは自分の上下の唇をナイフで切り取って、サク君の体内に入れた。
「あぐっ! ……これでユミは、いつでもサクサクの脈拍を把握出来るの……。どれだけ離れていても、サクサクに何か危険が迫ったら、心音から異常を感知して駆け付けるの……」
ユミは、サク君が特別だと言ってくれたその尖った耳の片方を斬り落として、サク君の体内に埋め込んだ。
本当にハイポーションは便利な道具だ。
この程度の怪我であれば、直ぐに治ってしまう。
秘密裏に薬で指・唇・耳を元に戻した私たちに、呪いの塊の浄化・除去が終わったサク君が、
「みんな、いつも本当にありがとう! 呪いの塊も処理出来たし、何だか――」
白い歯を見せて笑い掛け、言葉を継いだ。
「何だか、みんなの温もりを身体の中に感じるよ。まるでみんなが僕の身体の中にいるみたいだ! きっと、みんなの優しさ故だよね!」
「うふふ」「フフッ」「ふふふ」と、私たちは微笑を浮かべる。
「嬉しいわ。私たちの温もりを感じてくれて」
その瞬間。
私は、十八年の人生で初めて深い幸せを感じた。




