8.「vsレオ(その4)(※決着)(※曇らせ回(後半部分))」
「ヒィッ! レオ様が化け物に!」
「に、逃げろ!」
傍にいたレオの部下たち二名が逃げようとするが、巨大ムカデの脚が頭上から振り下ろされた。
「ヒッ! 死――」
「『ブラッドブレイド』!」
咄嗟に僕が近くの血を刃に変化させてムカデの脚を三本切断。
「逃げて!」
「「はいいいいいッ!」」
男たちは部屋から脱出、逃げ去った。
「コロス……コロス……ギギギッ」
僕たちの方を向いた巨大ムカデが、殺意を迸らせた。
「『聖光』!」
「『聖炎』!」
「『精霊光矢』!」
ミシロの光魔法による光線、ルリの炎魔法による炎塊、そしてユミの光の精霊魔法で生み出した輝く矢が飛翔。
光線が三本、炎塊と光矢が一本ずつ脚を破壊することに成功。
「よし! みんなで力を合わせれば、きっと何とかなる!」
ミシロたちが頷いた直後。
「ワーオ! ハウラッキー! レアボスよ、シアン、リンリン!」
「メリカ。アレはあたしの獲物だ」
「私、でかぶつ倒すね。レアアイテム、希望ね」
女性外国人三人で編制された部隊が部屋に乱入してきた。
どうやら、巷で噂のダンジョン荒らしらしい。
噂の情報と照合すると、恐らく、オレンジ色ロングヘアの巨大な戦斧使いがアメリカ人のメリカ、青色のボブヘアの女性が氷魔法使いのシアン、そして黒髪ツインお団子の女性が中国人武闘家のリンリンだろう。
「こんにちは! 僕はサクタロウ! 力を合わせて戦おう!」
そう語り掛けてみたけど。
「ホワット? 自分の国の深淵ダンジョンすら攻略出来ていない国の探索者なんて、弱過ぎてお荷物なだけよ。邪魔だからどいてて、リトルボーイ」
「弱者はただそこで見ていろ」
「弱いのは邪魔ね。ゴミね。カスね」
あらら。協力する気は無いみたいだ。
「サク君に向かってあんなこと言うなんて、許せないわ!」
「ハッ! ムカデ野郎の前に、アイツらぶっ倒すし!」
「喧嘩売ってるの! 上等なの! 受けて立つの!」
怒気を孕んだ声を上げるミシロたちだったけど。
「はあああああッ!」
「『氷柱雨』」
「ハッ!」
メリカたちの戦いぶりに、思わず見惚れる。
メリカの戦斧が一閃、巨大ムカデの脚を十本斬り落としたかと思うと、シアンは氷魔法で、リンリンは魔力を大量に纏わせた両拳で、それぞれ同じく十本ずつ粉砕した。
「ぐっ! 悔しいけど、強いわね、あの三人組!」
巨大ムカデ姿のレオが、新たな侵入者たるメリカたちを敵と認識。
「ギギギッ……コロス……コロス」
「OK! カモン! 一気に畳みかけるわ!」
長い胴体をくねらせて移動しながら、巨大な牙を有する口で噛み付こうとする瞬間を狙い、跳躍したメリカの戦斧が巨大ムカデの頭部に一撃を加える。
「! 硬っ!?」
が、足とは比べ物にならない程の硬度を誇る外骨格に阻まれて、ダメージを与えられない。
「頭部が駄目ならば、胴体だ。『氷柱雨』」
シアンの氷柱群が、巨大ムカデの胴体を貫かんとするが。
「! ……これほどまでとは……」
胴体もまた、頭部と同等の防御力を有しているらしく、弾かれてしまう。
「切る、貫く、駄目なら、殴る、ね。内部に衝撃受けるはずね。ハッ!」
ドンッ
リンリンの重い殴打が、巨大ムカデの胴体に衝撃を与える。
「! 効いてないね」
しかし、それもまた有効打にはならなかった。
と、その時。
「ギギギイイイイイッ」
「「「!?」」」
突如、巨大ムカデが大量の黒霧を吐き出した。
「これは!? シット! マズい――」
レオの毒だった。
あの姿になっても、彼本来の能力も引き続き使えるらしい。
「がはっ!?」
「ぐはっ!?」
「がぁっ!?」
致死ではないが吐血と激痛に苛まれるという、無力化には打って付けの力。
高ランクであるが故に、毒耐性もある程度あったかもしれないけど、恐らく彼女らにとってレオの毒は初めての種類のものだったのだろう。
「ギギギッ……コロス……コロス……コロス……!」
膝をつくメリカたち三人の頭上から、
「……ファック! 私としたことが、油断したわ!」
巨大ムカデが頭部を急降下、襲い掛かった。
「『ギガントブラッドブレイド』!」
「ギャアアアアアアアアアアアッ!」
ザシュッ
ドーン
跳躍して彼女たちの前に着地した僕は、部屋中にこびりついている血液を全て液体に戻して巨大な血の刃を作製、巨大ムカデの胴体を貫いて倒した。
大量の血を凝縮して硬度を極限まで高め、巨大ムカデの外骨格のそれを凌駕したのだ。
「はい、みんなこれ食べて。解毒薬だから」
精製した水まんじゅう形の解毒薬を食べたメリカたちが、「アンビリバボー!」と、一瞬で身体から毒が抜けたのを感じて、目を丸くする。
「ホワイ? 何故助けたの? 私たちは、あなたをバカにしたのに」
訝し気な彼女たちに、僕は首を傾げた。
「え? ピンチの人をヒーローが助けなかったら、一体誰が助けるの?」
「「「!」」」
メリカたちは、先刻よりも更に大きく目を見開く。
「ぷっ! アハハハハハハ!」
「フフッ」
「あはは!」
吹き出した彼女たちは、僕をじっと見詰めた。
「まさか現実世界にヒーローがいるだなんてね。しかも、極東の島国にね」
「これは予想外」
「青天の霹靂ね」
出口へと向かう三人は、振り向きざま笑みを浮かべた。
「あなた、最高にクールだったわよ! このダンジョンの深淵の攻略はあなたたちに譲ってあげるわ」
「あんたには借りが出来た」
「あなた、頑張るね。私、応援するね」
そうして、彼女たちは去っていった。
「ギギギッ……」
巨大ムカデの姿をしたレオは、まだ息があった。
「ギギギッ……タスケテ……」
その命乞いに、ミシロたちが噛み付く。
「何勝手なこと言ってるのよ!? モンスターを召喚してサク君を殺そうとした癖に!」
「ハッ! 良いザマじゃないか! 尊いサクの命を狙った罰さ!」
「サクサクに仇為す者は死、あるのみなの!」
だが、尚も「ギギギッ……タスケテ……タスケテ……タスケテ……」と、必死に声を絞り出す彼の姿を見て。
「ミシロ、ルリ、ユミ、ごめん……」
僕は救うことにした。
多分、彼を元の姿に戻すことが出来れば、ハイポーションで傷を治せるはず。
パチン
まずは指を鳴らして、彼を貫いている血刃を消滅させる。
「こっちにおいで」
切断した左腕を増殖、巨大ムカデの全身に配置して触れると、モンスター化する直前にレオが浴びた液体を、僕の左腕たちによって吸い取った。
無数の左腕を一本に合体、圧縮して元の大きさにすると、僕は前腕を上腕の切断面に合わせてくっつける。
すると。
「あ……ああっ! 俺様の姿だ! ちゃんと、俺様の……!」
レオが元の姿に戻った。
地面に倒れているその胴体には、刃で貫かれた深い傷があったが。
「はい。飲んで」
胸元からハイポーションの小瓶を二本取り出して、一本は直接患部に掛けて、もう一本は飲ませた。
「! た、助かったのか……俺様は……」
傷が塞がり、完全回復した。
「……別に礼は言わねぇからな!」
「うん、良いよ。僕が助けたかったから助けただけだから」
「! ……ちくしょうッ!」
レオは顔を歪めて、走り去っていった。
「ごめん、みんな。みんなは彼を殺したいくらい憎んでいるだろうに、勝手に助けちゃって」
頭を下げると、ミシロたちは首を振った。
「ううん、良いのよ。そもそも、サク君がいなかったら全滅してたし」
「ハッ! 情けを掛けられて全裸で走って逃げてくアイツの惨めな姿を見れたから、それで十分さ!」
「サクサクは自分がしたいようにすれば良いの! ユミは、サクサクがすることなら全部賛成なの!」
仲間たちの温かい言葉に、胸が一杯になる。
「みんな……ありがとう!」
刹那。
「あぐっ!?」
「サク君!?」
「サク!?」
「サクサク!?」
僕は、全身がバラバラになりそうな激痛に襲われて、倒れた。
「……大……丈夫……。……レオが……食らってた……モンスター化の……呪いを……引き受けたから……その……影響が……少し……出ただけ……。……直ぐに……解呪……出来る……から……ちょっと……待ってて……」
「うおおおおおおおおおお!」と魔力を一気に膨張、それを凝縮させると、僕は呪いを〝とある場所〟の中に纏めて、全力で抑え込んだ。
と同時に、呪いを無効化する。
「げほっ!」
「サクサク!?」
激しく咳き込み、僕の身体が跳ねる。
「……解呪は成功したけど……〝これ〟をどうにかしないといけない……」
僕の両手に吐き出されたそれは、心臓だった。
呪いを圧縮して抑え込んだ場所。
以前と違い、今回僕は、自分の意思で吐き出した。
「……ユミ……僕の心臓を……光の精霊の力で……浄化して……くれないか……?」
「!」
まず、現状、僕の心臓はきちんと解呪されており、触っても何の問題もない。
けど、以前と違って、脈動は停止している。
それは、解呪がギリギリ成功しただけであり、何か他の刺激を与えてしまうと、再び呪いが発動してしまうからだ。
そこで、ユミの出番だ。
何故か現在のユミは、森の聖者として有名なエルフの力を持っている。
そんな特別な力を持つ彼女が、更に特別な存在である光の精霊の力で
浄化することで、解呪は完璧な形で完成される。
そうすれば、心臓を脈動させても問題なくなるため、胸に戻せば、僕は再び血液を全身に送れるようになるのだ。
一通り説明を終えた後。
「……頼めるかな……?」
「……分かったの! 任せてなの!」
ユミは、悲壮感漂う表情で首肯した。
「じ、じゃあ、始めるの! 『精霊光』!」
左手に持った僕の心臓に対して、彼女が右手で精霊の光を当てて、浄化を始める。
「ぐぁっ! がぁっ!」
「サクサク!? ご、ごめんなさいなの!」
自分の身体から離れていても痛覚は残っているため、心臓を焼かれる苦痛に、僕は声を上げてしまう。
「……大丈夫……。……続けて……」
ユミが精霊光で浄化する度に、僕は悲鳴を上げ続けた。
「お、終わったの!」
安堵の表情を浮かべるユミだったが。
「……ごめん、ユミ……。……どうやら……ただ精霊光で……浄化するだけじゃ……十分じゃ……無かったみたいだ……」
「え!?」
心臓の一番奥に、根深く残っているものがある。
それは、呪いの残滓。
そのままならば発動することはないが、脈動を再開すれば、その微かな残滓が刺激を受けてしまい、再び呪いが活性化されてしまう。
「ど、どうすれば良いの?」
僕は、伝えるべきかどうか躊躇った。
危険性は無い……はずだけど、自信が無かったからだ。
「……いや、やっぱりやめておこう」
「何かあるの!? じゃあ、それをやるの! ユミは何でもやるの! お願い! 方法があるなら、教えてなの!」
彼女の言葉に、僕は躊躇しがら伝えた。
「……僕の……心臓を食べて……くれないかな……?」
「!?」
僕らのパーティーで一番特別な存在は、間違いなくユミだ。
本来ならば異世界にしか存在しないはずのエルフの姿と力を持つ彼女であれば、同じく本来異世界にしか無いはずの呪いを完全に滅することが出来るはずなのだ。
特に森の聖者たる彼女の身体の〝中〟は、殊更神聖な空間になるため、今回の目的を遂行する上で最適な場所であると言える。
彼女の身体の〝中〟に取り込んだ上で光の精霊の力を使えば、決して呪いの影響を受けることなく、完全に消滅させることが可能なはずだ。
そして、古い心臓の呪いと存在の完全消滅をもって、僕の再生能力が発動、新たな心臓が僕の胸の中に出現するという寸法だ。
けど、僕が自分でやるならいざ知らず、大切な仲間にそんな危険なことを頼むだなんて……僕はヒーロー失格だ……
「やるの! 大丈夫なの! ユミはすごいの! やってやるの!」
薄い胸を張り、不敵な笑みを浮かべるユミ。
そんな彼女に背中を押されて、僕は頷いた。
「……ありがとう……! ……じゃあ、お願い……!」
ユミが全身に光の精霊の力を漲らせると、その小柄な身体が光り輝き始めた。
「じ、じゃあ、た、食べるの!」
震えながら口許に運んだ心臓に、ユミが小さな口を開いて、噛り付いた。
「ぐぁっ!」
「ご、ごめんなさいなの!」
「……だ、大丈夫だから……続けて……」
激痛は、しかし地獄の始まりに過ぎなかった。
ユミが心臓の肉を噛み千切り、咀嚼する。
「ぎゃあああッ!」
「ヒッ!」
普通は、噛み千切られたら、患部の痛みが生じるだけだ。
しかし、自分の身体から切り離したものを自在に操れる僕の能力の副作用なのか、僕は、噛み千切られた肉片の方にも痛覚が宿り続けて、咀嚼される度に激痛に苛まれることとなった。
「ご、ごめんなさいなの!」
「……だ、大丈夫……大丈夫だよ……続けて……」
ユミが僕の心臓の肉を噛み千切り、咀嚼する。
「ぎゃあああああッ!」
噛み千切り、咀嚼する。
「ぎゃあああああああッ!」
噛み千切り、咀嚼する。
「ぎゃあああああああああッ!」
その度に、ユミは大粒の涙を流した。
「ごめんなさいなの……ごめんなさいなの……ごめんなさいなの……ごめんなさいなの……ごめんなさいなの……ごめんなさいなの……ごめんなさいなの……ごめんなさいなの……」
全てが済んだ後。
「ユミ、身体は大丈夫? 平気?」
「……うん。身体は平気なの。何ともないの……何かあれば光の精霊が教えてくれるはずなの。でも何の反応もないから、大丈夫なの」
「そっか! 良かった! 本当にありがとう、ユミ! おかげで、新しい心臓も再生出来たし、助かったよ!」
「……それは良かったの……」
頬に涙の跡が残り、虚ろな目で小さく呟くユミに、僕は満面の笑みを浮かべた。




