↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/17

7.「vsレオ(その3)」

<残り19日>


この数日間、ミシロたちは遠距離攻撃魔法の修行を行っていた。


 と言っても、僕との解呪アイテム探しを最優先してくれているから、ほとんど実戦形式で、だけど。


 ダンジョン内でモンスターと遭遇する度に、三人とも遠距離魔法で攻撃するのだ。


 ミシロは光魔法の『聖光(を細く絞った光線)』で。

ルリはミシロの影響か、ただの炎魔法ではなく、聖なる炎――『聖炎(セイクリッドフレイム)』で。

そしてユミは光精霊の力を借りた『精霊光(エレメンタルライト)』を用いて。


 剣士であり使えるのも光魔法限定ではあるが、一番攻撃魔法に長けていたミシロの指導のもと、二人もめきめきと上達していった。


 そして、本日。


「え!? 僕の探索者ライセンスが、没収!?」


 いつも通りN市ダンジョンに入ろうとしたら、入り口で顔見知りの巨漢おじさんに止められた。


「すまねぇな、坊主。ダンジョン庁から通達があったんだよ。緋色サクタロウの探索者ライセンスを没収しろって。ほら、コレ」


 おじさんが差し出した書類を受け取ると、確かにそれはダンジョン庁からの正式な通達だった。


ただし、肝心の理由に関しては「諸事情により」と、すごく曖昧な表現で書かれているのみだ。


 少しするとミシロたちもやってきて、「そんなのおかしいわ!」と、抗議してくれたけど、「そんな事言われてもな。無理なもんは無理だ。坊主はもうダンジョンには入れない」と、突っ撥ねられた。


「う~ん、困った……どうしたら良いんだろう……?」


 これじゃあ、ヒーロー活動が出来ない!


 尚もミシロたちが抗議と交渉を続けてくれていたけど、事態は何も変わらず、そのまま小一時間ほど経過。


「緋色サクタロウの探索者ライセンスを回収に参りました」


 そうこうする内に、ダンジョン庁職員の人らしき男性が現れた。


「あっ!」

「悪いな、坊主」


 僕の探索者ライセンスのカードが取り上げられて、男性に渡される。


「確かに受け取りました。では、これにて失礼します」


 慇懃無礼を絵に描いたようなお辞儀と共に彼が立ち去ろうとして、ミシロたちが「やっちゃう?」「ハッ! それしかないね!」「やってやるの!」と、物騒なことを言って、それぞれが得物に手を掛けた直後。


 バッ


「!?」


 颯爽と現れたパンツスタイルのスーツに身を包んだ妙齢眼鏡女性によって、男性が持ち去ろうとしていた僕の探索者ライセンスカードが、擦れ違いざま奪い返された。


「おい、そこの女! 何してくれてんだコラ!?」


 今までのは演技だったのか、途端にガラが悪くなった男が振り返りざま、女性の肩を掴むと。


「その汚い手を離しなさい」

「ヒィッ! 意思太田(イシダタ)エリアマネージャー!?」


 氷よりも冷たい双眸に射抜かれた男が青褪める。


「し、失礼しましたあああ!」


 男は逃げ去った。


「はい、どうぞ」


 先程とは打って変わって、女性は黒髪ロングをふわりと揺らし、柔らかい微笑と共に、僕に探索者ライセンスのカードを手渡してくれた。


「ありがとう、お姉さん!」

「礼には及びません。むしろ、うちのトップによる公私混同・職権乱用によって、大変ご迷惑をお掛けしましたこと、誠に申し訳ございませんでした」


 深々と頭を下げる女性に、僕は「お姉さんが謝ることないよ! 顔を上げて!」と慌てた。


「うふふ。本物のヒーローは情け深いのですね」


 女性は、「申し遅れました」と仕切り直すと、名刺を差し出した。


「ダンジョン庁にて、東海エリアマネージャーを務めております、意思太田(イシダタ)と申します」


 イシダタさんは、ダンジョン庁の偉い人だった!


※―※―※


「改めて、イシダタさん! 僕の探索者ライセンスカードを取り戻してくれてありがとう!」


 その後、僕たちは、ダンジョン内にある僕の隠れ家にて、御礼を兼ねたパーティーを行っていた。


「本当に良かったのですか、私などを大切な隠れ家に連れてきて頂いて?」

「勿論! 恩人だから!」


 ダンジョン上層に存在する秘密の隠し部屋。


 それは、深層の一番下である第四階層のボスを倒すと得られる特別な鍵でしか開かない部屋で、上層内であれば自由に〝呼び寄せる〟ことが出来ると言って良い。


 何もない壁に鍵を翳すと、そこに扉が現れるという不思議な空間だからだ。

そして、何を隠そう、僕が普段生活している場所でもある。


 仲間と共に入った後は鍵が掛かって、外からは誰も入れないので、ダンジョン内にもかかわらず唯一落ち着ける場所として評されている。奥行きがかなりあって、天井も相当高いしね。


「御礼はちゃんと言葉にするのが大事だけど、出来れば形にしたかったから! ささやかだけど!」


 ダンジョンに潜る時には、何かあっても大丈夫なように、毎回携帯食料と水を持ち歩いてはいるんだけど、今回はそこにプラスアルファで、コンビニでお菓子やジュースを買って持ち込んだ。


「恐縮です。ありがとうございます。それにしても、壁も床も天井も真っ赤で、なかなか斬新なデザインですね」


 良かった! どうやら気付かれなかったみたいだ。


普段は僕しかいないから、ヒーローとしてもっと強くなるためにトレーニングをしているんだけど。ついつい夢中になって、大量に飛び散らせちゃうんだよね――血飛沫。


 ちなみに、イシダタさんは「ダンジョン庁で働く者として当然です」と、探索者をちゃんと理解してその気持ちに寄り添えるようにと、探索者ライセンスを取得している。


上層限定だけど、ダンジョン内で何匹かモンスターを討伐したこともあるらしく、そのおかげで、こうやって一緒にダンジョンに入ることが出来ている。


 そんなこんなで、まったりと過ごしていたんだけど。


ドガンッ


「!」


 突如、入り口の扉が乱暴に開かれた。

 鍵が掛かっており、開かないはずの扉が。


 見ると、鍵の部分が毒でドロドロに溶かされている。


「見付けたぜ! 部屋に入る時も普通に配信しっぱなしって、油断し過ぎじゃねぇか、クソ野郎?」


 この間体内にたくさん僕の腕を入れて倒したはずのレオがいた。


 きっとお金をたくさん持ってるんだろうね。

 僕の腕は、手術すれば取り除けるから。


 っていうか、警察官に連行されてたよね?

 どうしてここにいるんだろう?


 ……あ。

 そういや、ミシロが違和感を感じてたっけ。

 そうか! あの警官たちは偽者だったんだ!


「貴方、よくもサク君の探索者ライセンスカードを没収してくれたわね!」

「犯人はあんたしか有り得ないし!」

「ダンジョン庁長官の父親に頼んで悪事を働くとか、恥を知れなの!」


 ミシロたちが僕の代わりに怒りを露にしてくれる。


「ケッ! 俺様にあんな恥辱を与えた野郎に対して復讐するのは当然だろうが!」


 どこまでも自分勝手な理屈を語るレオ。


「んなことより、俺様の親父の組織の一員の癖に、裏切りやがったそこの女を引き渡せ」

「そんな事出来る訳ないだろ!」


 僕の言葉に、レオは口の端を吊り上げた。


「これを見ても、まだそんなことを言えるかな?」

「ご、ごめんなさいっす、サクさん!」


 またしてもカエが人質になっていた。

 後から入ってきたレオの長髪・坊主の部下二人の内、坊主頭の方がナイフを彼女の喉元に突き付けている。


 すごく頻繁に人質になる子だな。

 でも、助けないと!


「おっと。腕は切断するなよ?」

「!」

「同じ轍は踏まないってこった。それと、実は既に地中に腕を待機させてある、なんつうハッタリかましても無駄だぜ? こいつ等二人は感知魔法を使えるんだ。今この瞬間、N市内にてめぇの腕は一本も埋まってねぇことは分かってんだよ」


 前回の反省を活かして対策をしてきてる、ってことだね。


「それと、ミシロたちも、遠距離魔法は禁止だ。発動しようとした瞬間、コイツの首を掻っ切る」

「くっ!」


 現実には、それは不可能だ。

 だって、もしそうしたら、カエの喉に凶刃が届く前に、自動的に僕は空間転移されて、彼女を庇うことが出来るから。


 でも、それを分かっている彼らは、決して刃を振り下ろさない。


 だからと言って、僕が人質を無視して彼らに近寄れないことを知っているからだ。


「どうだ、何も出来ねぇだろ? ギャハハハ!」


 レオが愉悦の笑い声を上げる。


「私が行きます。善良な市民を犠牲にする訳にはいかないし、何より今回の事件は、私たちの組織の腐敗が原因ですから」


 険しい表情を浮かべたイシダタさんが、歩き始める。


「そうだ、それで良い! 前々からてめぇは気に入らなかったんだよ! 全部親父の命令に従っておけば良いのに、『それは市民のためにならない』とか意味不明なこと言って、いちいち突っ掛かってきやがって! この偽善者が!」


 怒りをぶつけた後、レオは、好色そうな表情で舌なめずりした。


「だが、顔と身体は良いからな、てめぇは。存分に凌辱してやるぜ! おっと、警察に駆け込んでも無駄だぜ? 俺様の親父の力でいくらでも揉み消せるし、何ならその更に背後には天下の総理大臣さまも控えてるしよぉ! ギャハハハ!」


 イシダタさんがレオのもとに辿り着く。

 寸前に。


 グサグサグサッ


「がぁッ!?」

「ぐぁッ!?」

「ぐッ!?」


 レオたち三人が、目を押さえて蹲った。


 その隙に、僕とミシロが一気に距離を詰めて、カエとイシダタさんを抱き抱えて離脱、跳躍して距離を取る。


「くっ! これは……血!?」


 そう。

 ここは僕の部屋。謂わば僕の城。

 上下左右前後目に見える全ての面に僕の血液がこびりついている。


 僕は、自分の身体から放たれたものは全て自在に操れるので、乾いて固まった血をほんの少し剥がして、三人の男たちの目に勢い良く突き刺してあげたのだ。


「舐めた真似しやがって!」


 声を荒らげるレオは、「てめぇらと違って俺様は特権階級なんだよ! おら! 見やがれ!」と、配信用ドローンに指示を出した。


「ぐふふ~。お前たちがレオの言ってた輩かぁ~」


 空中に投影された映像に映ったのは、超高層マンションのような一室で超高級な本革椅子に座る、でっぷりと太った中年男――ダンジョン庁長官である毒浅真シキだった。


「下民如きが調子に乗り過ぎだよねぇ~。ぐふふ~。社会的に死んでもらおうかねぇ~。いや、何なら、本当に死んでもらうのもアリだよね~。俺がダンジョン庁長官としての権力を振り翳せば、それくらい容易いからねぇ~。ぐふふ~」


「そんなことさせないわ!」「ハッ! サクはあーしが守るし!」「ダンジョン庁が相手だろうが、国が相手だろうが、ユミには関係ないの!」と、仲間たちがアツい言葉をぶつけてくれる。


けど、どうしよう。

きっと立場的にも権力的にも、本当にそれが出来ちゃう人だよね……


僕は不死身だから良いけど、ミシロたちに手を出されたらマズい!


「ギャハハハ! これだけの現実を見せ付けられたら、流石にもう何も出来ねぇだろうが! これが俺様とてめぇらの差だ! 決して超えられない壁なんだよ! ギャハハハ!」


 勝ち誇るレオの哄笑が部屋に響いた。

 刹那。


「楽しそうだな。我も混ぜてもらおうか」

「ハハ……ハ!? ジジイ――じゃなくて、じいちゃん!?」

「お、親父ぃ~!?」


 もう一つ別の映像が浮かび上がったかと思うと、そこにテレビでよく見る顔が映った。


 筋骨隆々の高齢者である彼は、毒浅真シカラズ――内閣総理大臣だ。


「ダンジョン自殺を未然に防ぎ多くの者たちを救ってきた英雄たる探索者のライセンスを勝手に剥奪し、剰え殺そうとするとはな、レオよ」

「い、いや、それはちが――」

「何が違うというのだ? この薄汚い性犯罪者が! いや、毒殺未遂犯と呼んだ方が良いか?」

「!」


 八十代とは思えぬ恐ろしいまでの重圧(プレッシャー)に、映像越しだというのに、レオがガタガタと震え出す。


「貴様もだ、シキ。実の息子の犯罪を揉み消し続けたその罪、万死に値する」

「ヒッ! えっと、俺は~、その~、何も知らなかったんだ、親父~! 悪いのは全てレオで、俺は無関係だ~!」

「お、親父!?」

「てことで~、さいなら~!」


 毒浅真シキの映像が消えた。


「あやつの処分は後程するとして。レオよ。貴様もただでは済まないと思っておけ」

「ち、違うんだって! そ、そうだ! コイツは――緋色サクタロウは、みんなが思ってるような善良な奴じゃないんだって! 実はコイツは極悪人なんだ! 最近までの三年弱、ライブ配信が毎回止められて、アーカイブも残ってなかっただろ? それはコイツが極悪非道な犯罪紛いのことばっかやってたからなんだって!」


 「何言ってんのよ!?」「ふざけんなし! ぶっ倒すし!」「言うに事欠いて! 許せないの!」と、ミシロたちが攻撃せんとするが、僕が手で制する。


「極悪非道? それはおかしいな。極悪人は、街で困っている老人に手を差し伸べたりはしないだろう?」

「は? 何言ってるんだ? コイツはそんなことしな――」

「我はこの三年弱、街中でよぼよぼの高齢者の振りをして、試し続けていた」

「………………は!?」

「その度に、彼は我を救った。何の見返りも求めず、まるで助けるのが当然であるかの如く。貴様にそのような行いが出来るか?」

「ぐっ!」


 あ、そうだったんだ!

 あのおじいちゃん、実は総理大臣さんだったんだね!


でも、全然体型が違うよね。

もしかして、スキル持ちだったりするのかな?


「我も、ライブ配信が毎回止められアーカイブが全て消される探索者のことは気に掛かっていたからな。試すような真似をしてすまなかった、サクタロウよ」

「ううん、全然気にしてないよ!」

「そうか。だが、息子そして孫の悪事に目を瞑り続けてきたことに対しては、我にも責任がある。こうなった以上、我は総理を、そして政治家を辞めようと思う」

「え!?」


 どうしよう。

 そんなことしなくても良いよって、僕が言っちゃうのは違うよね。


 だって、僕は何も被害を受けていないから。


「ミシロ、ルリ、ユミ。レオの性犯罪被害に遭ったみんなの意見を聞かせて欲しい。シカラズさんが政治家を辞めたら、みんなはレオがしたことを許してくれる?」


 互いに顔を見合わせる三人。


一瞬の沈黙の後。


「そうね」と、代表してミシロが口を開いた。


「許さないわ」


シカラズさんが重々しく目を瞑り、そして開いた。


「……そうか。元々被害者の少女たち全員に対して慰謝料を払う予定ではあったが……恐らく、そういう問題でも無いのだな。我が甘かった。そうだな、やはり息子そして孫と同様に、我もまた投獄されるべきだな」

「何言ってるんですか?」

「?」

「私が許さないと言ってるのは、レオのことです。祖父である貴方は関係ありません」

「だが、我は見て見ぬ振りを――」

「それは確かに悪いことですが、私たち以外の被害者の女の子たちに誠実に向き合い、慰謝料を支払うことで、罪を償ってください。貴方は逮捕されることよりももっと他にやるべきことがあるはずです。今後は二度とこのようなことが起こらないように、しっかりとした組織と規則を作り上げて下さい。勿論、監視体制を構築することも忘れずに、ね」

「……分かった。確かにそれは、我にしか出来ない仕事だな。全うさせてもらおう」


 シカラズさんは、神妙に頷いた。


「コホン。では、改めて。息子と孫には必ず処罰を与えると約束しよう」

「色々とありがとう!」


 シカラズさんは、「ふっ。いつ接しても、貴様の心意気は、正にヒーローだな。そして、貴様の仲間もまた、正義の心を持つ者であることが分かった」と目を細めた。


「では、我はこれで失礼する」


 映像が途切れた。


 暫し、沈黙が流れる。


「こ、この俺様にこんな恥を! こんな汚名を! こんな屈辱を与えやがってええええええッ!」


 再び口を開いたレオは、怒号を上げると、


「もう許さねぇ! ぶっ殺してやる!」


胸元から小瓶を取り出した。


「深淵で出会った怪しげな男から貰ったモンスター召喚アイテムだ! これでてめぇらはもう終わりだ!」


 レオは、「出てきやがれ! 最強のドラゴン!」と叫び、小瓶を地面に叩き付けた。


「ギャハハハ! 俺様を怒らせたのが運の尽きだ! せいぜい後悔しながら死ね!」


 だが、小瓶から飛び散った漆黒の液体は、ドラゴンの形を取らなかった。


「うわっ!? 何で俺様の方に!? いや、それより、何でドラゴンが出てこねぇんだよ!?」


 液体が上昇、天からレオに降り注ぐと。


「うぎゃあああッ!」


 レオの身体がボコボコと変形。


 胴体が異常に長く伸び、その側部に無数の足が生えて、全身が硬い外骨格で覆われていく。


「ギギギッ。コロス……コロス……」


 あっという間に、レオは、体長三十メートルはあろうかという巨大ムカデへと変貌した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。